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東日本大震災、ウクライナ戦争に翻弄される日本のエネルギー政策の課題(上)

今年2023年もガソリンの値上げが続き、電力料金も高騰を引き起こしています。一方で、福島第一原発の処理水の海洋投棄が、中国などの反対で国際問題になっています。

共に国のエネルギー政策の根本にかかわる課題です。日本のエネルギー自給率は11.3% で世界37位(いずれも2020年)の低位です。

エネルギーの多くを輸入の化石燃料に依存する構図は変わらず、安全保障上も大きな課題を抱えています。その日本にとって再生可能エネルギーが大切なはずですが、この開発も欧米に比べ進んでいません。

かつて日本は新エネルギー技術を開発する「サンシャイン計画」を掲げ、再生可能エネルギー技術では世界のトップを走っていました。それがなぜ失墜したのか。その経過、背景をたどり、日本のエネルギー政策の失敗の要因と、今も抱える課題を追ってみます。


1.エネルギーの自給率の低さ

化石燃料など天然資源に乏しい日本はエネルギー自給率が低く、2020年度は11.3%でした。下図のようにOECD(経済協力開発機構)諸国との中では低いランクです。

東日本大震災前の2010年度は20.2%でしたが、原子力発電所の停止などによって大幅に低下しました。その後少しずつ上昇していますが、2020年度は前年度より少し下がっています

2.再生エネルギーの大切さ

エネルギー自給率が低いだけに、日本にとって再生可能エネルギーは以下のような理由で大切な存在になっています。

(1)   エネルギー安全保障確保

再生可能エネルギーの利用は、エネルギー供給の多様化を促進し、エネルギー安全保障を向上させます。これにより、国内外のエネルギー供給の不確実性やリスクに対処できるようになります。

(2)   温室効果ガス削減

日本は2030年度において、温室効果ガス46%削減(2013年度比)を目指すこと、さらに50%の高みに向けて挑戦を続けることを国際的に表明しています。このため化石燃料に比べて温室効果ガスの排出が少ないか、ほとんどない再生可能エネルギーの利用拡大が必須になっています。

(3)環境への負荷軽減:

再生可能エネルギーの利用は、化石燃料の採掘、輸送、燃焼に伴う大気など環境への負荷を軽減し、生態系に与える影響を軽減する役割を果たします。

(4) 経済的効益

太陽光発電、風力発電、バイオマスエネルギーなどの分野での投資と開発は、新たな雇用を生み出し、地域経済に貢献することができます。

(5)震災への強靱性

再生可能エネルギーは分散型のエネルギー供給を可能にし、災害時にも電力供給の遮断を回避できる可能性があります。

3.再エネ後進国

このように重要性の高い再生可能エネルギーですが、日本の発電電力量における再エネ比率は、下図のように諸外国に比べ低い状態です。
日本はかつて世界のトップクラスの再生可能エネルギーの開発技術を持ち、リードしていました。

なぜその優位なポジションからなぜ脱落し、今や「再エネ後進国」とまで言われるようになったのでしょうか。
日本の過去のエネルギー戦略の中心となった「サンシャイン計画」と、その限界を見直してみます。

4.サンシャイン計画と推移

サンシャイン計画は、再生可能エネルギーと新エネルギー開発を目指した国家プログラムでした。1974年から始まり、1993年から続くニューサンシャイン計画も含め2002年まで実施されました。

背景には1974年の第4次中東戦争による原油の高騰(第一次石油危機)があり、エネルギーの安全保障と自給自足の実現を目指した計画でした。

石油を中心とするエネルギー体系を永久的なクリーンエネルギー体系に代替し、エネルギー危機を克服するという大きな目標を掲げたのです。

経産省の資料では予算規模はサンシャインが5322億円、ニューサンシャインが3547億円とされています。
 

4つの目標

この計画は石油代替エネルギーとして石炭、地熱、太陽、水素の4つのエネルギー技術を重点的に開発することを目指しました。
 
その成果ですが、まず石炭は液化して石油の産出を目指しました。
この液化石油「人造石油」技術は1930年代からあり、その技術向上を狙いました。しかし原油価格の下落とともに、石炭液化油の製造コストが下がらず、技術の実用化ができませんでした。
 
二つ目の地熱利用は主に地熱発電の普及が狙いでした。地熱発電の弱点は年々出力が低下するということで、出力維持のために地熱を得る井戸を掘り続ける必要があり、これがコスト増になりました。

掘削のために当初は補助金がありましたが、サンシャイン計画の予算縮小とともにこの生産井戸の発掘も採算が合わなくなり、発電出力は増えませんでした。
 
太陽の利用とは当初は太陽熱発電でした。
しかし気候変動の激しい日本では一定の太陽熱確保が難しく、計画は太陽光に移行していきます。

そしてニューサンシャイン計画になった1990年代後半になると計画の成果が出始め、シャープや京セラ、三洋電機などが高品質のシリコン太陽電池や高性能の太陽光パネルを生産、2000年代半ばまで、日本の太陽光発電は世界一の生産量と導入量を誇りました。
 
4つ目の水素は、製造コストが安価でクリーンであり、用途も広いことが期待されました。そしてその燃焼技術から貯蔵、輸送技術の基礎的研究が進められ、今のトヨタの燃料電池自動車などに生かされています。

サンシャイン計画の衰退

総事業費が1兆円近くになり、当時は米国のアポロ計画に匹敵するとも喧伝されたサンシャイン計画ですが、その結果は成功とはみなされていません。20世紀末の日本のエネルギー国家戦略はなぜ実績を上げられなかったのか。ここに現在求められているエネルギー政策のヒントがありそうです。

5.原発へ政策変更

計画失敗の要因には、技術の商業化の難しさや、各国との技術競争の厳しさなど、複合的は原因があげられています。しかし一番大きな要因は、計画進行途中での国のエネルギー政策の変化だったとみられています。
 
1980年代から1990年代にかけ、日本のエネルギー政策は原子力中心に移行します

オイルショックを経て、国がエネルギー供給の多様化を目指したこと。
そして環境保護の高まりから、二酸化炭素や大気汚染物質の排出が少ない原発への評価が高まったのです。
 
この影響で再生可能エネルギーへの投資が先細りになります。サンシャイン計画の進展にブレーキがかかりました。同時に競合国との技術競争に遅れが生じたのです。

太陽光発電も後退

先にも触れましたが、日本の太陽光発電技術は1990年代後半、世界のトップを走りました。特に太陽光パネルの製造においては競争力があり、日本企業は相次いで大規模なパネル工場を建設、増産を続け世界の市場を席巻します。

このパネル生産では日本は1999年から2007年まで世界第1位を押さえ、2005年には世界トップメーカーの5社のうち4社を日本企業が占めました。
またシリコン太陽電池技術は日本企業によって進歩し、高品質な太陽電池が実現し、市場をリードしました。
 
しかしこの優勢なポジションも2000年代半ばから欧米企業の追い上げが始まり、さらに逼迫した主要原料のシリコン原料を、中国と台湾系メーカーが押さえ、増産を続けます。
 
下記の表は太陽光パネルの基本要素となる「セル」の生産量経年比較ですが、2005年からわずか7年の間に、日本のメーカーがトップテンから消えていることがわかります。

(補足)太陽光発電における政策支援
太陽光発電とその技術の発展には政府の支援施策が寄与しています。
政府は太陽光電池の産業拡大と導入促進のため、促進政策を打ちました。その基本政策がFIT(限定価格買取制度=Feed-in-Tariff)制度と呼ばれるもので、再生可能エネルギー発電業者に優遇的価格で電力を売る機会を提供しました。
 
この制度は太陽光や風力といった再生可能エネルギーで発電した電気を、電力会社が一定の価格で一定期間買い取ることを国が保障する制度です。発電設備所有者から長期に渡り、固定された価格で買い取ることでその事業者を支援することを目標にしました。限定価格買取制度によって、再エネ発電を行う事業者は発電した電気を必ず売電することができるため、リスクを抑えながら発電事業を行えます。

(資源エネルギー庁資料より)

この優遇制度によって再エネ発電に参入する事業者は着実に増加しました。
 ただこのFITは課題もはらんでいました。
この制度を支えるのは、上図でもわかるように電力を使用する企業や個人の賦課金(再生可能エネルギー発電促進賦課金)です。
このFIT制度が発足した2012年では家庭用電気料金に占める再エネ賦課金は全体の1%程度でした。しかし再エネ発電が広まり、発電量が増加すると、賦課金も増え2020年では全体の12%までになりました。
 
FIT制度はこの支援による再エネ発電の普及で、その設備や運転コストがダウンし、既存の火力や原子力の発電コストをも下回ることが期待されていました。しかし世界に比較しても日本の再エネ発電コストは高く、FIT制度なくしては既存の発電方法と競合していくことが難しい状況となりました。

このため、政府は新たに電力を卸市場などに販売し、売れた分にプレミアム(補助額)を上乗せするFIP(Feed-in Premium)制度を2022年4月から導入しています。
このプレミアムは一定額ですが、市場価格に合わせて一定の頻度で更新します。これにより再エネ発電業者は、市場価格が高くなる電力需要のピークに電力を販売できるように努めます。ここに市場原理が働き、発電システムや設備などの改良、改革が期待でき、再生エネルギー全体の生産性向上も期待できます。

                      以下(下)に続く。

(下)では、原子力発電への回帰とその限界、日本のエネルギー戦略の課題について考えます。

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