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ヤバイTシャツ屋さん、というそこまでヤバくないバンドが愛おしくてたまらない。【不定期連載・好きなバンドについて只管語るnoteその2】

今回のはしがき

今日もロックバンドの話をしたくなってしまったので、書きます。

昨日はUNISON SQUARE GARDENについて書いた。

うーーーん、読み返してみるとあまりにも長い……。この不定期連載の趣旨についての説明が前半部分を占めているから長くなっても仕方がないのだけれど、それにしても5000字というのはちょっと……。ロッキングオンの大型記事じゃないんだからさ。というかまず、このコラムの内容のほとんどはユニゾンの話というよりはユニゾンにからめた自分語りだったし。よくないよね、こういうの。

ということで、今日はちょっと軽めに書くことにしようかな。くだけた文体でいきます。

2.ヤバイTシャツ屋さん


元気が良すぎてちょっと心配になるけど実はそこまでヤバくない関西出身男女3人組ゆとり世代ロックバンド、ヤバイTシャツ屋さん。通称ヤバT。

バンドのプロフィールを僕が代弁するなんて野暮なことをしても仕方がないので、とりあえず最新曲のMVを貼っておきますね。

夏の曲のMVをわざわざ真冬の北海道で撮影しちゃうバンド、ヤバT。何がしたいのかよくわからなくてかわいいね。かわE越してかわFやんけ(楽曲『かわE』の歌詞より)。

こういうバンドです。メジャーデビューしてもう数年経っていてフェスの盛り上がりにおいても絶対的な信頼を得ているバンドなのに、この尖り具合。このやりたい放題具合。こんなバンドは他に見たことが無い。同じ関西出身のキュウソネコカミですらここまでイタい内輪ノリを全力でやることは無い(キュウソはキュウソでめっちゃ好き)。

ヤバT初の武道館に立ち会ってしまった

2022年8月25日。NHK紅白歌合戦に出るまでテレビでは歌わないと宣言しているためライブハウスとフェスでしか演奏せず、これまで口コミだけで地道にファンを獲得してきたヤバTが、遂に日本武道館の舞台に立った。

もともとこの日は別のコンサート(落合陽一と日本フィルのインスタレーション・コンサート)に行く予定でチケットを取っていたんだけど、出演予定だったロッキングオンジャパンフェス最終日の荒天中止にともなう8月13日のYouTubeライブ配信(なお一度配信しようとしたら自分たちのライブ映像が著作権規制に引っかかって配信できなくなるとかいう大爆笑アクシデントが起こったため1時間後に仕切り直し。かわいい)で「まだ武道館のチケット余ってます!みんな来てくれ!」とのことだったので、これはもう行くしかねぇなぁと腹を決めて配信を観ながらイープラスでチケットを取った。

初武道館はヤバTじゃなきゃだめだった。

そして迎えた8月25日。

実は僕にとっても初の日本武道館。東京で生活するようになって4年目になるが、せっかく日本武道館にふらっと行ける東西線沿線に住んでいるのにいままで一度も武道館に行ったことが無かった。まぁ、大学1年の頃は忙しくてほとんどライブになんか行けなくて、2年の頃は2020年ですべてがストップしていたし、去年は就活とかいろいろあったから、まぁ仕方がないんだけど。

せっかく初めて武道館でライブを観るなら初めて武道館に立つバンドのライブで””初めて感””みたいなものを共有できたらいいな、なんてことを思っていたので今回は本当に願ったり叶ったりな機会。

しかもヤバTのメンバーは僕と同じ関西出身者(ドラムのもりもとくんは浜松の生まれだが、メンバーは3人とも大阪芸術大学の卒業生なので大阪で大学生活を送っていた)。ギターボーカルのこやまくんの母校である宇治中学校は吹奏楽・マーチングの名門校で、高校の頃の部活には宇治中OBが何名か在籍していた(そして僕の因縁の顧問も宇治中吹奏楽部出身である)。そして何よりベースボーカルのありぼぼちゃんは僕の愛する地元大阪府高槻市出身で、たかつき観光大使にも就任している。親近感の塊

「関西から武道館へ」というカタルシスを共有できるヤバTの初武道館が僕の初武道館で良かったなぁと、心の底からそう思うわけであります。

僕の好きなバンドはだいたい世代が一つ上なので、ほとんどのバンドが武道館公演を達成してしまっている。好きなバンド、かつ関西出身で、若くてまだ武道館に立ったことが無いバンドはヤバTを置いて他に無かった。

僕の初武道館はヤバTじゃなきゃだめだった。


ヤバTはおもしろバンドじゃない

ヤバTは自分たちのことをおもしろバンドとしてブランディングしている節がある。

HPのリボンがほぼすべて「おもしろ○○」という書き方で統一されているぐらいだ。確かにまぁ真面目というよりはおもしろ路線で、MVも曲も面白おかしいことを馬鹿正直にやっているからより一層面白い、みたいなそんな感じのバンド。だと思っていた。

けど、武道館ライブで印象がガラっと変わった。

ヤバT、めちゃくちゃ演奏うまいやんけ・・・・・・・・

そう。演奏がとにかく上手いのだ。

「速くてうるさい音楽(本人ら談、MCより)」を、全力で、かつ正確無比に演奏している。しかもたった3人で、ほとんど同期音源も使わずに。

どの曲もめちゃくちゃ速くて音数が多いから音を敷き詰めるだけで大変なのに、すべての音を極めてエモーショナルに鳴らしている。フロントマンの二人は自分の歌唱パート以外は基本的にマイクの前を離れてステージ上を縦横に動いてフロアを煽るし、ドラムも爆速で16ビートを刻みながらコーラスマイクにシャウトを吹き込んだりする。

びっくりしたのはフロントマンの二人のボーカル。
「え…?二人ともめっちゃ歌上手いやん…??」
という独り言が思わずマスクの中で漏れたほど。

ヤバTの楽曲は楽器の音数も多ければ歌詞の音数も多い。超高速で歌詞をまくしたてるような曲がほとんどだ。ただでさえギターやベースで細かいことをやっているのにそれをやりながらよくもまぁこんな歌を歌えるものだなぁと素直に関心してしまった(アマチュア以前の僕がプロに向かって関心したなんて言うのは失礼にもほどがあるけれど)。しかも基本形がツインボーカルだから二人でハモる箇所も多く、またこやまくんとありぼぼちゃんの音域や声質が全く違うからちゃんと音程を合わせないとハモりが成立しないという難易度がカンストしたようなことをやっているわけだが、これをものの見事にやってのけている。二人とも音程がめちゃくちゃ良いのだ。でも別にバカまじめに歌っているというわけではなくて、ボーカルも楽器のプレイと同じく至極エモーショナル。

こんな芸当を、満員の日本武道館でアンコール含め全32曲でぶちかましたヤバT。このバンドをただのおもしろバンド、ふざけたイロモノバンドとして見ることはあまりにも失礼だ。

ヤバTはそこまでヤバくない

ヤバTは社会通念上許されるかどうかギリギリのところを攻めるとか、異常行動を平気で取るとか、そういうヤバいことはしないので、本人たちが言うようにそこまでヤバいバンドではないと思う。

ヤバイTシャツ屋さんを名乗っている割にライブTシャツもそこまでヤバくないし(以前販売されていた「くそデザインTシャツ」を除く)。先輩たちには礼儀正しいし。絶対的な目標が紅白歌合戦出場だから、NHKのコンプライアンスに引っかかるようなことは絶対にしないし。企業等とのコラボ(本人たちはこれを””癒着””と呼ぶ)においても、悪ふざけはせず徹底的に真摯な姿勢で曲を作るし。

そういうヤバTの「そこまでヤバくない感」みたいなものは武道館のステージでもよく表れていた。

アンコールの最後の最後に敢えてコールアンドレスポンスが定番だった『喜志駅周辺なんもない』を「コールアンドレスポンス無しバージョンで!俺らのコールを全部、無視してくれ!」という前口上付きで演奏して、観客=顧客の声出し禁止徹底を確認して「ガイドライン守ってくれてありがとう!」なんて……ヤバくないどころかむしろめちゃくちゃ真面目でかわいいね……

ライブ中盤で「究極の内輪ノリ」のコラボステージがあったが、観客=顧客を置き去りにするような「え?誰?」みたいなゲストを呼ぶことは無く、登場したのはなんと全員メンバーの両親や兄弟姉妹。この人たちはみんな自分の家族が大好きなんだなぁ、親孝行家族孝行をしたかったんだなぁ、良い人たちだなぁ、なんて思うと、ヤバイTシャツ屋さんなんて名乗っているのにそこまでヤバくなくてむしろ至極まっとうに生きている彼らのことが愛おしくてたまらなくなった。

でもやっぱりヤバTは普通にヤバいバンドだと思う。

でもさ。でもさぁ……やっぱりヤバTはヤバいバンドだと思う。

満員の日本武道館で紅白歌合戦出場の夢を叫んで、NHKとの””癒着””ソングを全力で演奏するバンド。そんなバンドが他にありますか??

それに、前々項で言及した通り、ヤバTの演奏は普通にヤバい。そこんじょこらのバンドにはできない演奏を3人でやってのけている。そこは素直にヤバいねって言いたい。

何より、今回の武道館でいちばんヤバいなと思ったのは、この「おもしろバンドでーす」みたいなブランディングをしているバンドの張本人であるこやまたくやの言葉に泣かされたこと。まさかヤバTに泣かされるなんて、武道館に行くまで思ってもみなかった。

ライブ終盤のMCで、こやまくんはこの3年の間に親しい人たちが立て続けに「おらへんようになった(おそらく、亡くなってしまったということだと思われる)」経験を話したうえでこう語った。

「みんないなくならんとって欲しいねん。ずっとみんなと一緒におりたいねん」

この言葉に続いて演奏された『寿命で死ぬまで』を聴いて、僕は6年前に友人や先輩を立て続けに亡くしたことを思い出していろいろと耐えられなくなって声を上げて泣いてしまった。武道館で隣に立ってたおねぇさん、心配かけてすみませんでした……

「生きて生きて生きて生きて生きておくれよ」
「寿命で死ぬまでしっかり生きておくれ」

武道館で聴いた『寿命で死ぬまで』は、僕の心にヤバいぐらい深く刻まれた。きっと一生忘れない。

とは言ったもののやっぱりヤバTはおもろい

そう、でもなんやかんやで僕はヤバTのかわいくておもろいところが大好きだ。

前述の親族コラボステージで、高槻出身のありぼぼが箏奏者の実母と三味線奏者の実父を呼んで、さも「地元の曲」であるかのように京都市のことを歌った楽曲『どすえ~おこしやす京都~』を演奏した。

いやあんた高槻市民やろ?高槻は大阪やろ???

そんなツッコミを完全封殺する圧倒的な面の皮の厚さ。

そう、これぞまさに高槻市民の矜持である。

市民全員とまでは言わないが、高槻市民のうち約半数、JR高槻駅以北に住んでいる高槻市民は自分たちのことを「大阪人」ではなく「京都人」と認識している。マジで。

市内北部の阿武山中学校出身であるありぼぼちゃんもきっと自分のことを「京都府高槻市民」と認識しているに違いない。
JR高槻駅の北側に住んでいた僕も上京して以来ずっと出身地を訊かれたら必ず「えーーーっと、京都らへん、です」と答えるようにしている。絶対に大阪出身であるとは言わない。

そういう事情があったので、『どすえ』が始まった瞬間に僕は笑いを堪えることができなかった。高槻市北部出身者として120点満点のボケをかまされて、このボケの面白さを120%享受できたことがあまりにも嬉しくて、本当に、最高………高槻に生まれてよかった………

僕が一生ヤバTについていくことを誓った瞬間だった。


なんやかんやでそんなにヤバくなくて、でも普通にちょっとヤバくて、そしておもろいバンド、ヤバイTシャツ屋さん。

ヤバTのおかげで嫌なことがあっても彼らの曲を聴くだけでちょっとクスっと笑えたり、地元に帰りたくなったときにありぼぼちゃんの声を聴いてなんかちょっと高槻の声を思い出したり、そんな風にして日々の生活に彩りを添えることができるようになりました。

ヤバT推しの高校の部活の先輩のおかげで、僕もヤバTの顧客になることができました。Sさん、本当にありがとうございました。いつか京都大作戦か何かに一緒に行けたらいいですね。「えー嫌や」って言われそうですけど。















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