シェア
MWU Writers in Residence
2024年8月31日 15:16
作・咲夜「君さ、何を思ってこれを書いたんだい?」「あ、その、えっと、これは主人公が懸想した相手にーーー」そんなことはわかってるよと相手の呆れたような声が耳朶を打つ。ああ、まただめだ。家路をとぼとぼと歩く。昼下がり、賑わう人通りを避け、路地にはいってすぐの家の扉をガラガラと開け、力なく後ろ手でしめた。「はあ…。またか…。」僕は、しがない物書きである。まだ売れたことすらない、作家志望の
2024年8月25日 14:29
作・みぎりん「会いに来てね」と彼女は言った。 目が覚める。空はあきらかに起きなくてもいい時間帯の様子で、とても心地いいとは言えない目覚めだった。その不快さにルーカスは青と紫の混じった色を覚えた。その感覚にさえ苛立ち、仕方なしにベッドから体を起こす。 人と人は感じていることはそれぞれ違っていて、それは当たり前なのに、わかってもらえないことがどうしようもなく耐えられないのがルーカスだった。彼は
2024年8月25日 14:11
作:朝日かる1 ちょっとあなた、と呼び止められて足を止めた。 深夜三時の住宅街に人が多いわけはなく、私以外に「あなた」に当てはまるような人間はいない。同時に、呼び止めてくるような人間も滅多にいない。これが噂に聞く職務質問かとやや怯えながら振り向いたが、街灯に照らされて道路の真ん中に立っていたのは一人の女の子だった。同じくらいの年頃だろうか。果たして同じ年頃の女性を「女の子」と言っていいもの
2024年8月25日 14:25
作 東道海馬◆無意識空間のパノプティコン「あの人が、亡くなった」 急な知らせでございます。その日私は普段通り、縁側にて煙管を吹かせながら茫然と中庭を眺めている所でございました、するとそこに水を差すように、確かにその人の死が舞い込んできたのでございます……それのなんとまぁ唐突たるや。すぐさま煙管を放り投げ、ベランダの錠を閉めるのさえ忘れ、私はすぐさまあの人のもとへ、駆け出すのでした。いえ、決