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世界のカルトカルチャーレポートvol.1 / 暗号化された服を身にまとう女の子たち

20xx年の伝説を創造することをミッションとした組織 MVMNTが、世界中で起こっているまだ生まれたばかりだけれどこれから大きな変化に繋がるかもしれないムーブメントを取り上げます。

第1回は、フェティシュパーティで見かけた風変わりコスチューム、暗号化された服を身にまとう女の子たち、アイコンはWifi搭載傘・進化形デモを紹介します。


エコフェティッシュパーティー!?

https://www.instagram.com/p/CmHa1iksN8e/

数ヶ月前にインスタグラム上で見かけたこの投稿。これは、ベルリンにおけるミームを発信するアカウントによる投稿だが、クラブカルチャーの聖地、LGBTQなどのセクシャリティの多様化(この場合、性的嗜好、セックスポジティブ?)がオープンなベルリンを揶揄するようなトピックである。同時に、新しいものを買わずにセカンドハンドを使う精神、なんでもDIYするカルチャー、リサイクルといった環境意識の高さ、IKEAを代表するディスカウントスーパーなど安いものが好きといったベルリン市民のいろんな矛盾がつまったアイロニカルな文脈が読み取れる現象である。フェティシュパーティも多く、私も一度ショップバッグをリメイクしたフェティシュウェアを着た人をパーティでみた事がある。気になって調べてみると、フェティッシュウェアをDIYする一定の人たちがいるようだ。


日常で使うカバン、洋服、靴、帽子などのIKEA DIYの事例も。汗は吸わないだろうし、通気性もよくないので機能的ではないものの、デザインとして意外とクオリティが高く、街中で着ている人がいたら、普通にどこで買ったの?と聞いてしまいたくなるアイテムもある。


ショップバック自体プラスチックでできているため、リメイクしたあと結局廃棄することを考えるとエコとはいえないのだが、ショップバックのDIY事例から考えられるファッションの可能性やモノとの付き合い方もあるのかもしれない。


暗号化されたメッセージを身に纏う


ムーブメントや流行も、ある意味ではファッションと捉える事ができる。
なんかかっこいい、こうしている自分がかっこいい、社会的ステータスが上がる、みんながやってるからなど、どんな理由であれファッションの持つチャラさや浅さは、別の視点から見ると様々な社会問題や領域に接続する面を広げてくれているわけで(かつ多くの人に伝播し浸透しやすい)、そういう意味でファッションは、社会を変える影響力を秘めているとも言える。
そんな効果を利用したアートプロジェクトをいくつか紹介したい。

中国で生まれ、オーストラリアで育ち、オランダに拠点を置くAmy Suo Wuは、言語、技術、メディアが人々をどのように形づくっているかを研究するアーティストおよびデザイナー。現在は、Sandberg Instituteのデザイン学部とWillem de Kooning Academyの文化多様性を扱う学部で教鞭をとっている。
彼女の代表作の一つである「Thunderclap」は、ステガノグラフィーを使ったファッションZINEプロジェクト。ステガノグラフィーとはデータ隠蔽技術の一つであり、データを他のデータに埋め込む技術のことである。メッセージの内容を読めなくさせる手段を提供するクリプトグラフィーに対して、ステガノグラフィーは存在自体を隠す点が異なる。特に言語統制が厳しい中国では、ステガノグラフィーの活用は一般的である。


Amy Suo Wu 「Thunderclap」
Amy Suo Wu 「Thunderclap」
Amy Suo Wu 「Thunderclap」
Amy Suo Wu 「Thunderclap」



Amyは、このプロジェクトにおいて、冷戦下に目に見えないインクが用いられたというアナログなステガノグラフィーの手法と、明らかに意味がおかしい日本語や中国語のTシャツやタトゥーなどを欧米人がファッションとして身につけるムーブメントを結びつけた。現在の中国では消し去られた20世紀初頭の中国で活動していたフェミニストやアナーキストたちの言葉をファッションアクセサリーというデバイスに埋め込み、パブリックの場に布教する活動を行なった。意味を知っていようと知らなかろうと、そのファッションがムーブメントとなって中国全土や世界に広まったとき、中国のフェミニズムシーンが抱えてきた歴史や問題やそれに対する抵抗が全世界に伝播することとなる。


デモ参加者のコミュニケーションを繋ぐ傘


世界的なメディアアートの祭典、アルスエレクトロニカ フェスティバル 2022においてインタラクティブ・アート+部門でゴールデニカを受賞したジュン・シューとナタリア・リベアによる「Bi0film.net」は、傘というポップなアイコンを通して、様々な問題に対する社会の変容を願う市民のアクションを後押しする実験的な芸術プロジェクトだ。


Bi0film in Taipei, photo: Jung Hsu


香港の雨傘運動やオンラインネットワークから着想を得たオープンソースのパラボラアンテナで構成された「Bi0film.net」。このプロジェクトが提案するのは、脆弱なコミュニティや危険が差し迫っているコミュニティが、路上でのデモに対し、自律的で遊動的なコミュニケーション・システムを共同で構築できるプロセスだという。
彼女たちは、コミュニケーションを円滑にさせるアイコンとしてポップな「傘」を採用。
初期のプロトタイプとして長距離のWiFi信号を作る方法を公開したオープンソースプロジェクト発表しており、人々が持つ傘をアンテナとし、傘をさすことでWiFi信号をブーストされる機能を持たせた。
市民運動の新たな形のインスピレーションになったのは、バクテリア、菌類、植物、その他の多細胞生物など、他の生物の生態だという。「バクテリアのように抵抗する」というキャッチフレーズを掲げた「Bi0film.net」は、人間の支配や人間中心主義に対するある種の抵抗を人間とは違う形でおこなっている他種が持つ生態や知恵を生かして、有機的で自律的な生命としての表現を伴った連携・行動や個体としては持ち得ない強さを集団としての行動のかたちを探究している。


Bi0film in Taipei, photo: Leslie Chi

この作品の背景には、世界各国で勃発し続けている政治的混乱や闘争などに対する若い世代の関心も反映されている。ナタリアの母国コロンビアでも長年に弥政府の経済政策に対する抗議デモと警察による市民の虐殺や弾圧が続いている。ジュンの母国台湾では、中国の政治的な介入に対し、2019年に若い世代を中心に市民が立ち上がり大規模なデモに発展した香港の民主化運動が起こり世界各国に影響を与えた。
現代を生きる若い世代の勇気と希望を象徴するかのような彼女たちのヴィジョンとリアリティが映し出されるアクションであり、ここでもまたファッションの持つ可能性や影響力が採用されているのではないだろうか。

text / Saki Hibino  
https://www.instagram.com/saki.hibino/
ベルリン・パリなどヨーロッパを拠点に活動するリサーチャー、エクスペリエンスデザイナーキュレーター 、ライター/コーディネーター。
Hasso-Plattner-Institut Design Thinking修了。デザイン・IT業界を経て、LINEにてエクペリエンスデザイナーとして勤務後、2017年に渡独。現在は、アート、デザイン、カルチャー、テクノロジー&サイエンス、エコロジーなどの領域を横断しながら、国内外のさまざまなプロジェクトに携わる。


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