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作品集

46
ちょっと長めの作品を置いておきます。
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#恋愛小説

甘えん坊③

 女は男に媚びるもの、みたいな考えを持っている人は今でも少なくないと思う。テレビに出てくる女性にもそういう感じの人はたくさんいるし、ドラマや映画、アニメといった俗っぽい創作娯楽の中でも、ほとんどの女性はそういうものとして描かれている。
 でも彼女には、媚びるようなところが一切なく、かといって、媚びる女を嫌う子供特有の何にでも噛みつくような余裕のなさも感じられなかった。
 失礼な想像かもしれないが、

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甘えん坊②

 人間関係に不器用であるというのは当人にとっては大問題のように思えるが、周りの人間がからすると大した問題ではなく、悪い場合でも「少しめんどくさい」程度の欠点でしかない。
 場合によっては、その不器用さが何らかの長所として映ることもあるらしい。人間関係を器用にこなすことのできる人がそのように感じることも少なくない。人は遺伝子的に自分とは遠い人間を好むらしいから、もしかすると、自分が当たり前のようにで

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甘えん坊①

 甘やかされて育った。

 俺は母と血が繋がっていなかった。母は子供を作ることができない体であったらしく、父はどうしても自分の子供が欲しかった。
 どのようにして俺が生まれて、俺の血縁上の母親が今どこで生きているのかは、俺は知らない。父にそのことを聞こうと思ったことは何度かあったが、なんとなく気遣って一度も聞けなかった。

 俺は自分が母と血が繋がっていないことは、かなり早い段階で父から聞かされて

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俺は間違ってばかりだ【短編小説】【恋愛もの】

「ねぇ鈴君。大きくなったら、結婚しよう」
 鈴(すず)という自分の名前が嫌いだった。女の子みたいだし、しかも、たとえ自分が女の子に生まれていたとしても、鈴の音色は苦手だったし、あの小さくてただ人を呼び出すためだけの道具に好意を持つことができなかっただろうから。

 母に名前の由来を聞くと「鈴ってちょっとかわいくない?」と何気なく言った。そんな適当に名前を付けられたことが、俺は悔しかった。まるで俺が

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