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作品集

46
ちょっと長めの作品を置いておきます。
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2021年9月の記事一覧

後悔⑧

 いつになく調子の悪い日だった。朝からお腹を壊したせいで電車に乗り遅れて遅刻するわ、授業中たまたまぼーっとしていたタイミングで急にあてられて恥をかかされるわ。
 おまけに、あのムカツク幼馴染君が妙に絡んでくる。
「なぁ水瀬」
「うるさい」
 それを不思議に思ったクラスメイトが、あいつに色々聞いて、その返答も私の耳に入ってきて、余計ムカツク。なーにが「俺に彼女ができたって知って拗ねてるんだよ」だよ。

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後悔⑦

 最近、幼馴染君と登下校の時間が合わなくなった。私はひとりで学校に行って帰るようになった。理由は分からなかったけれど、あまり興味もなかった。
 少し寂しいなと思ったけれど、まぁそんなもんだと思った。そもそも高校生にもなって、小学生みたいに仲良く男女で並んで歩いていたのも変だったのだ。

 そんな関係になってから、三カ月が経った。血の沼の景色はその間それほど大きく変化せず、黒い手も、どろどろの兵士も

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後悔⑤

「結局水瀬は自分に酔ってるだけじゃん。いつも意味深なこと言ってさ、特別な人だって思われたいんでしょ? 馬鹿みたい。みんな、痛いやつだって思ってるよ」
 高校の教室の真ん中で、私のことが嫌いなクラスメイトがそう叫んだ。ヒステリックになっている。皆、じっとこちらを見ている。興味、怯え、反感、色んな感情を、それぞれが持っているみたい。でも、そんなことはどうでもいい。私は自分に向けられた敵意を、どのように

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後悔④

 後ろから首を絞められていた。
 誰が? 苦しい。あぁそうか。首を絞めているのは、もうひとりの私だ。もちろん、首を絞められているのは、私。私の、私。
 私が悪かった。その言葉さえ口から出れば、きっとこの苦しみは消えてくれる。でも、息ができないので、当然言葉も出てこない。私はここで死ぬのだな、と思ったけれど、この場所では私は死ねない。
 意識が遠のいていく……

 やってしまった、と目の前で、ばしゃ

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後悔③

「罪なんてものはしょせん、社会が人間に対してされたら困ることをそう呼んだことに起源があるんだよ。それを宗教とかが勝手に拡大解釈して、めんどくさいことになった」
 唾を飛ばしながら話す男友達。私は、何も分かっていないな、と思った。
「たとえばさ、王様に逆らうことを『罪』だと国民に思わせたらさ、王様にとって都合がいいわけじゃん? 罪と罰って、そういうものでしかないと俺は思うな」
「違うよ」
 私ははっ

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後悔②

 がちゃがちゃ。かたかた。
 それは蝉の鳴き声に似ていた。
 それは内臓をかき回す音に似ていた。
 それは木製の楽器が壊れる音に似ていた。
 それは骨と骨がぶつかり合う音に似ていた。

 空の真ん中には、赤黒い穴が空いている。それは目のように、じっと動かず、渦巻いて、私を引き寄せるでも突き放すでもなく……関係なく、そこにある。ただ、あるだけ。
 ただ、あるだけ。ただ、あるだけということほど、つまら

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後悔①

 黒い血の沼。誰もいない。蓮が咲いている。私はそこに足を浸けて。手でどろっとした黒い液体を掬う。すぐに流す。ぽたり、と指先から滴る。その感覚に、震える。いや、何が自分の心を震わしているかなんて、分からない。自分は関係ないとばかりに咲き誇る薄紅の蓮の花なのか、それとも、赤い空と黒い海の朧気な境界線か。後ろに感じる、誰かの視線か。
 振り返る。同じ景色。背中に視線が突き刺さる。蓮の花だろうか。蓮の花が

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ティファレト【終】

終章 あやまち
 一枚のハガキが届いたとき、レイアは不穏なものを感じた。
――至急、ミァト教諭から借用した書籍を大図書館へ返還せよ

 教室の雰囲気はいつも通り。ミァト先生も普段通りの時間帯に教室にやってきた。
「さて、授業を始めます。今日はルーツ=カマヌス理論の正当性とその致命的欠陥について」
 その話し方は、いつものミァト先生よりも少しだけなめらかだった。それだけじゃない。そのあとの説明も、ど

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ティファレト【六章】

六章 自己犠牲 コツコツ、という足音が響いた。ティファレトは私の方の方を見て「来た」と言った。
 私は期待の眼差しで家のドアをじっと見つめる。コンコン、というノックが響くのとほぼ同時に、期待を隠すような声で「どうぞ」と招いた。身なりの整った男性が入ってくる。外見上の年齢は私の死んだ父親くらいだと思うけれど、おそらく実年齢はティファレトとそう違いはないのだろう。
「はじめまして。ケセドと申します」

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ティファレト【五章】

五章 ゲブラーとケセド 初老の男性がコツコツとゆっくりとした足取りで、飾り気のない、壁も床も天井も鋼鉄製の通路を歩いていく。
「ゲブラー」
 彼は、落ち着いた低い声で、何もないところにそう囁く。すると通路全体に、男性とも女性とも区別しがたい、威厳のある低い声が通路に響き渡る。
「そっちはどうだ。統治はうまくいっているか」
「はい。うまくいっていますよ。予想通り、人間というのはすぐに変わります。はじ

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ティファレト【四章】

四章 夢 生命の樹。ゲブラー。ケセド。暴力と優しさ。心臓。中枢。美の象徴。

 人は簡単に死ぬ。次から次へと。悲しみだけは胸に深く積もっていく。



 ティファレトは夢を見ている。
「僕はケセド。あなたの追い求める優しさの象徴」
「優しさ……私は、優しくなりたい」
「優しさを知るためには、厳しさを知らなくてはならない。私はゲブラー。ティファレト、お前はまだ、怒りを知らない」
「怒り……」
「本

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ティファレト【三章】

三章 自由の会
 家に仮面を被った数人の男が押し掛けてきたとき、私はティファレトと初めて出会った時のようにぼうっと突っ立っていた。
「誰?」
「ティファレトを殺す自由の会だ。お前とヤツが親しいという情報を手にした。我々は正面からヤツと戦って勝てるだけの戦力を持っていない。だから、お前を利用することにした。人質を取る自由というやつだ」
 私は、変な自由だなぁと思ってぷぷぷと笑った。
「何がおかしい?

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ティファレト【二章】

二章 学校
 学校に行くのは自由だ。なんでもかんでも自由だ。
 ミァト先生は自由主義者で、何があっても「自由」にこじつける。私はそれが嫌いだけど、それ以外の点では、いい先生だと思う。分からないことを質問すると、ちゃんと返してくれるし。自由の名のもとに無視してくる先生もいるらしいから、私の先生がミァト先生で良かったと思う。
「先生、おはようございます!」
「おはよう。レイア」
「先生、質問あるんです

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ティファレト【一章】

第一部 レイア

一章 出会い
 神様みたいなお姉さんが、お父さんとお母さんを食べていた。赤い血がぶしゃぶしゃ飛び散って、お姉さんの黄色い服を赤く染めていた。目をこすっても、光景は変わらない。映画かな、と思った。それか、お父さんとお母さんが、新しい遊びで遊んでるのかもしれないな、と思った。でも、どう見ても二人はもう「モノ」になってしまっている。つまり……生きていない。
「お姉さん」
「あ……」
 

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