煮物のようにチームを作ってみよう。料理的な発想で考える「個性が活きる組織論」
僕は日本料理の料理人である。ということは、自己紹介でも述べた。
今日、献立を考えていたら、ふいに「煮物も人も一緒だよなぁ」と思ったことがあるので、書き出してみることにする。
煮物って、どんなイメージを持たれているんだろう。そんなことは、今日の話題とは関係ないので、話を進めることにする。
日本料理にもいろんな煮物がある。その中で僕が「人も一緒だよなぁ」と思ったのは「焚き合わせ」という料理。焚き合わせっていうのは、いろんな食材を別々に煮るというところがポイントである。そして提供するときは一つの器に盛り付ける。
なぜこんな面倒なことをするのか。それは、それぞれの食材の個性が引き立つようにするためだ。
例えば、筍と鯛が同じ濃さの味付けだと、食べたときにバランスが悪いし、そもそも煮る時間が違う。筍はコリコリとした食感を楽しんでもらいたいし、鯛はふんわりと仕上げた方が美味しい。ワカメはさっと湯がく程度が良いよね。なんてことを考えたら、もう一緒に煮込むことが出来なくなる。
だから、別々に調理する。
そうやって、一つ一つの食材の良さを丁寧に引き出してあげると、それぞれの個性が凛と立ったような感じの料理になるんだよね。
主役は鯛。それでも、筍やワカメもしっかり存在感があって、ちゃんと力のある脇役を演じきれる。なんか、脇役がしょぼくて、主役だけすごいって映画はあんまり聞いたことがないけれど、そんな感じだ。
そうやって、みんなバラバラに個性を際立たせていく。
その一方で、味付けまではバラバラにしない。料理としてのまとまりがなくなるからだ。だから数学でいう「同類項でくくる」ような、共通の要素を付加しておく。
そうやって、個性をひとつの料理にまとめていく。
この過程が面白いんだよなぁ。食材を並べてみて、それぞれの個性を観察する。際立たせる個性、というのは違いと言っても良いのかもしれない。それを探している一方の神経で、どんな共通項でくくれば良いのかということも探る。
実際の調理の前に、脳内で料理を作っている。という料理人は、割といる。
この時、どうにも困ることもある。別々の食材なのに似ている部分が多すぎる場合だ。具体的に言うと「みんな甘い」である。
甘い人参、甘いかぼちゃ、甘いさつまいも、甘い長ネギ、甘い魚というのは聞いたことがないけれど。イマドキの野菜は「甘い」を売りにしている。それでいて、「人参臭さ」つまり「クセ」みたいなものはしっかり抑え込んである。
これには参る。みんな甘いから、料理人の側で甘さのコントロールが難しい。とりあえず、もう全体が甘い。一歩間違えればスイーツだ。そんなわけはなし。
クセがないのは良いことばかりじゃない。例えばゴボウ。あの独特のクセ、あの匂いが煮物の味を引き締めるというのは、料理人には常識だ。人参臭さのない人参は、もはや人参としての役割が果たせない。かぼちゃも同じだ。
あれもこれもクセがないのであれば、もう、全部人参で良いんじゃないか。かぼちゃのつもりの人参。さつまいものつもりの人参。ネギのつもりの人参。
それだともう、ただ人参を煮ただけか。焚き合わせじゃない。あのバラエティ豊かな奥行きのある味にはなり得ないな。
だから、いつも農家さんにお願いする。甘いものは甘い、臭いものは臭い、苦いものも、辛いものも、しっかりとクセを残してください。そのうえで美味しく育ててください。とね。ご年配の方だと、そんなことで良いのかと言われることもある。昔はみんなそうだったと。
ぜーんぶ人間に置き換えると、このnoteの文字数が倍になる。
だからやらないけど。
ひとそれぞれの個性を際立たせる。クセはクセとして残す。その上で良い人間性を磨くように育てる。これは、子供の頃から学生、社会人になっても続く教育の話ってことになるのかな。
個性を際立たせるように下ごしらえするというのは、なんだろう。適材適所とか、チームマネジメントとかの話に聞こえるな。
共通項でくくるっていうのは、チームの方針とかリーダーシップとか、マネジメントとかになるのか?
僕は、焚き合わせのようなチームを作りたい。
個性が際立っていて、それぞれが凛と自立したような個人。それをひとつのチームとしてまとめる共通項となる思いや情熱。
奥行きのある豊かな味わいの焚き合わせのようなチーム。
きっと楽しいチームになるに違いない。
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