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Science Daily 記事紹介 音楽教育で知能発達は期待できない!?

 楽器のトレーニングは、何らかの形で脳を活性化させ、結果的に、他の技能の習得を高めるとする研究結果は、多く存在する。良く言及されるのが、数学的知能と、言語習得へのプラス作用である。

 しかし、子どもに楽器を習わせても、ほとんど知能発達には関係しない、という研究を発見してしまった。音楽教育に関わる人間としては無視したくなる記事だけれど、いろんな研究、意見があるのは当然。だから公平に紹介。

 2020年のScience Daily にあるもので、日本の大学も関わった研究である。

Music training may not make children smarter after all

 日本語要約はこんな感じ。

 音楽トレーニングと、認知能力、学業成績の相関については、両者に関連性があるいう研究もあれば、ほとんどないというものもあり、一貫した結論には達していない、との前置き。

 今回の研究は、子どもへの音楽トレーニングと、それが音楽以外の認知能力と学業成績に与える影響を調べた、既存の研究等を調査・分析し直したものであり、新たに何かを実験した訳ではない。

 1986〜2019年の間に行われた54件の実験を再分析。それによると、子どもへの音楽トレーニングは、認知スキルにも学業上のスキルにも相関がないように見えるという。それはスキルの種類(例えば言語スキルとか)、彼らの年齢、音楽トレーニングの期間に関係なく、そうだという。

  個々の研究を比較すると、研究のやり方でも違いがあり、アクティブコントロールのグループ(例えば子どもたちに音楽の代わりにダンスやスポーツを学ばせた)を用いたきっちりした対照研究では、音楽教育が認知機能や学業成績に与える影響は見られなかったという。しかしコントロールなしの場合や、参加者をランダム化しない研究だと、わずかな影響が見られたという。

 曰く、音楽によって頭が良くなるという通説は正しくない。音楽トレーニングにより、脳は訓練され音楽に長ける、しかしこれがそのまま、数学能力などに一般化される訳ではない。過去のデータを正しく解釈してないことが、音楽教育の利点を誇張している可能性も。

 そうは言っても、音楽教育は、子どもたちにとって、社会性のスキルや自尊心の向上といった点で有益かもしれない。また、算術的な記譜法は(楽譜は非常に数学的に出来ている)、他の分野の学習促進に役立つ。

 音楽教育が学業以外の部分や認知的特性に及ぼすプラスの影響について、結論を出すには、研究例が少な過ぎるとしている。

             * * *

 といった内容なのだが、反論はいくつかある。中でも最も納得いかない点は、教育におけるプラセボ効果を無視して、実験結果そのままに、結論を出している点である。プラセボ効果とは、何の効果もない偽物の薬でも、それを信じ込むことによって、あたかも本物のような、プラスの作用がもたらされることだ。つまり、人間の潜在意識の凄まじさを現しているようなもの。学ぶときも同じ。本人が得意だと思えば習得が早い、上達すると思ってやれば本当に上手くなる。

 音楽をやることで認知機能が向上すると思って取り組めば、その分効果は現れ、数学能力が向上すると信じるなら、ある程度そうなるはず。何の得にもならないと思って楽器を習うと、おそらく本当に何の効果もない。

 何かを学ぶとき、効果的な学習法や、腕の良い先生、能力を伸ばしやすい道具(楽器など)を選ぶのは当然だけれど、自分の潜在意識以上に大きく作用するものはないように思う。また、本当に優れたコーチ力を持っている人は、生徒の潜在意識を良い方向に変えてしまう。これはスポーツ分野などで、より顕著なのではないかと思う。

 実際楽器を習う場合、特に子どもだと、音楽能力はもちろん、それによる他分野での能力の発達を、同時に期待する親は多いと思う。期待があれば当然それはプラスに作用し、大きく能力が伸びる可能性があるのだ。過剰な期待は逆効果にもなり得るけれど、自分自身に期待することは、能力の獲得と関係がある。実験と違い、普通、教育はもっと能動的な欲求によって行われるものだ。

 無作為に子どもたちを分類して、何も知らせず、音楽教育の効能を調べても、そんなやり方で効果がないのは当然じゃないかと思う。そもそも音楽が苦痛な子もいれば、スポーツで体を動かす方が向いている子もいるし、本人の志向や興味を無視して教育をやったところで、学習効果が現れるとは思えない。音楽が好きな子が音楽をやるから、連動して他の能力も伸びるのだ。スポーツが好きな子がスポーツをやれば、きっと他の能力も発達する。絵を描くことが好きなら、それによってまた別の能力も開拓される。本人の「好き」と「やりたい」に合致したとき、それが認知能力や学業など、広範囲にプラスの影響がもたらされるのではないか。

 だから、一概に実験で示されたからと言って、音楽と知能発達が無関係とは断言できない、というのが私の意見。

 


 

 

 

 

 


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