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だけどベテランにしかできない仕事がきっとある【8/8阪神戦●】

(※ベテランというのはきよしのことではありません、念のため)

阪神ファンの「あと一球!」コールが神宮に響く。ライトスタンドからは負けじと「奥村コール」がかかる。だけど阪神ファンの声に、ヤクルトファンの声はかき消されそうになる。昨日と一昨日は気づかなかったけれど、球場は結構な黄色に染まっていた。広島戦の赤ほどではないけれども、まあこれは、結構、黄色だ。

友人の息子くんが夏休みの自由研究に各球場の特徴について調べていて、神宮の特徴について聞かれたけれど、「多くの場合、ビジターファンの方が人数が多い」というのも書き加えておいてもらおう、と私は思い、自作のさんぴんハイを飲む。

ついでに本日の子どもたちのお弁当は「雪塩」の「タコライス塩」を使って作ったタコライス、私のおつまみは宮古島で買ってきたゴーヤで作ったピクルスだ。

今年の夏は、あまり無理をせず、マイペースに球場を楽しもう、というわけで、好きなものをそのまま持ち込むスタイルにしている。あんまり無理ができない年頃なんである。

だからまあ、復刻ユニフォームを作った五十嵐さんが1点ビハインドの9回表に2ランを打たれたって、泣く泣くゴーヤのピクルスをさんぴんハイで流し込むしかない。五十嵐さんだってそんなに無理はできない。ゴーヤの苦味は、日焼けした身体と相手にツーランを打たれた心に染み入るのである。

いつもベテランばかりを好きになってしまう。苦労した人ばかりを好きになってしまう。いや多分、みんなみんな、苦労を、痛みを、抱えているのだ。その場に無傷で立つことはないのかもしれない。

でも、五十嵐さんは言う。

「これまでも節目の試合でいい成績を残した記憶がない。僕らしいと言えば僕らしい」

オープン戦、10年ぶりに神宮のマウンドに立った五十嵐さんは、古巣のソフトバンクから2失点をした。

あの時も五十嵐さんは言った。

チームメートだった塚田に犠飛、釜元に適時打をそれぞれ許し「あんなにかわいがったのに、かわいくない後輩だな、と。試合だから仕方ないけど」と冗談めかした。

9回裏、阪神のクローザーとして登場したのは藤川球児だった。「まじで!!」と、私と息子は言った。

藤川球児は、(あえてそちらを主語にするけれど、)先頭打者の雄平にホームランを打たれた。

だけど藤川球児は、(再度そのまま主語にするけれど)、続く二人をしっかりおさえた。

そしてあと一人!コールと、奥村コールが入り乱れる、ちょっと異様な空気の中で、若いおっくんは粘りに粘り、ベテラン藤川球児は投げ続け、そして最後、藤川球児が、勝った。

クローザーとしてそこに立ち、先頭打者にホームランを打たれても、乱されることなく後続を断つ。それは紛れもなく、ベテランの仕事だった。

そう、視点をこちらに戻すと、ヤクルトは藤川球児にしっかりと、抑えられた。

久々になんだかとても、悔しい試合だった。最後のあの異様な空気の中、おっくんが打ち取られた瞬間、いつもみたいにすぐには「仕方ないね」とは言えなかった。それでもむすめは「でも2かいかったからね、いいよね!がんばったね!」と、言って笑う。若さは強さだ、と、むすめに励まされながら私はまた思う。

でも、ベテランにはベテランにしかできない仕事がある。

今日は藤川球児がそのベテランの仕事を見せた。だけどそれは今度は、五十嵐さんが見せてくれる番かもしれない。こんな日も、「僕らしいといえば僕らしい」と言えちゃうベテランだ。古巣に打ち込まれ、「かわいくない後輩だな」と言っちゃうベテランなのだ。私はそういう、そういう心持ちがすごく、すごく好きだ。

そうだった、真夏の神宮はこんなに暑いんだったな、と、私は思い出す。夏は足早に過ぎていく。きっと誰かの野球人生のように。でもだからこそ、それは美しいのだ。


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