ローカルローカルvol

ローカル×ローカルvol.06 いいものって、なんだろう? 〜TSUGI代表 新山直広さんを招いて〜

 「地域おこし」「地方創生」って一体どういう状態だろう?

この企画は、そんな問いを持った僕が、さまざまなローカルで活躍する先輩たちを訪ねて、学んだことを報告するイベントです。共催は日本仕事百貨です。

このイベントをやろうと思ったきっかけは、こちらをご覧ください。

前回のvol.05では、長野県塩尻市役所職員の山田崇さんを招きました。話したテーマは「地域のしがらみ、どう超える?」

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その時のレポートはこちらから

vol.06は福井県鯖江市のデザイン事務所TSUGIの代表 新山直広さんを招きました。

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新山直広/TSUGI代表。1985 年大阪府生まれ。京都精華大学デザイン学科建築分野卒業。2009 年福井県鯖江市に移住。応用芸術研究所を経て、鯖江市役所在職中の2013年にTSUGIを結成。以降未来の産地を醸成する様々なプロジェクトを展開し、2015 年に法人化。デザイン・ ものづくり・地域といった領域を横断しながら、地域や地場産業のブランディングを手がける。

新山さんに訪ねた問いは、「いいものって、なんだろう?」

最近、僕は仕事でいろんな地方に行きます。そこでよく立ち寄るのがお土産コーナー。いわゆるご当地キャラが並ぶ陳列棚を見て、ふと思いました。なんだか似たようなパッケージが並んでいると。

どんな経緯を経て、これはできたんだろう? 

作り手の思いは、どこに反映されているんだろう?

なんて考えてしまいます。これはお土産に限らず、僕らの周りはいろんなもので溢れています。そこから自分が「いいな」と思うものってすごく見つけにくい。

趣味嗜好はあれど、ものが溢れた世界で、いいものってなんだろう? 

その定義はそれぞれですが、最初の見え方って大事です。見え方次第で市場は変わる。だけど、これからは"どんな風につくられるか”も重要なんじゃないか。

特にローカルにおいて、見た目を変えても簡単には売れないのでは?

このモヤモヤを誰かに聞いてもらいたい。

そこでデザイン会社TSUGIの代表、新山直広さんを思い浮かべました。

TSUGIは福井県鯖江市に拠点を構える産地特化型のデザイン事務所です。

約95%が福井県内の仕事を請け負っています。

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TSUGIは、クライアントワークだけではなく、自社ブランドの運営も行っています。さらに、事務所の中にショップ・漆器工房・観光案内所・レンタサイクルが入った複合施設「TOURISTOR(ツーリストア)」をオープンさせました。

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さらに、ものづくりの現場を見学・体験できるイベント「RENEW(リニュー)」も企画しています。

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なんだか、デザイン事務所の範疇を超えている。「デザインの役割は、あるべき状況をトータルでつくること」と新山さん。

僕がこれからローカルで何かを生み出す時に、新山さんのものづくりのプロセスはきっと学びになると思い、お話を伺いました。

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一緒に学びを深めてくれる学び仲間は、建築家の黒川彰さん。

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黒川 彰(くろかわ・しょう)/建築家。1987 年東京都生まれ。慶應義塾大学環境情報学部を 2009 年に卒業し、渡欧。 OFFICE Kersten Geers David Severen での勤務を経て、2014 年スイスイタリア語圏 大学メンドリジオ建築アカデミーを修了。同年に Sho Kurokawa architects を設立し、 建築・家具・プロダクトのデザインを行う。

人選は日本仕事百貨の中川晃輔さん。地域や海外などの建築を手がける黒川さんの視点を借りることで、さらに面白いトークになるのではと声をかけてくれたそう。

当日は中川さん、黒川さんと一緒にお話を伺いました。

※ここからがイベントレポートになります。

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わざわざ来てもらえる町に

新山 デザイン事務所TSUGIをやっています、新山です。今日は福井県鯖江市から来ています。鯖江は東京からだいたい3時間半で着く場所です。人口は6万9千くらいの町なんですが、福井県の中で唯一人口が増えています。まず町の話をしたいんですけど、見てください。ハリウッド並の看板がそびえ立っているのが鯖江という町でして。

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会場 (笑)

新山 ありがとうございます。鯖江はメガネが有名です。国内の96%は鯖江で作られていて、6人に1人がメガネの仕事をしています。メガネ関連の会社は530社くらいあります。他にも、刃物、箪笥、焼き物、漆器、繊維産業が半径10キロ以内にあるものづくりの町なんです。

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新山 でも、観光の町ではないんですよ。一番有名な観光地って東尋坊という自殺の名所(笑)。だから観光客はそもそも来ない場所です。なので、鯖江はこれまで工芸品を他所に販売していく町でした。

だけど、今はわざわざ来てもらえるような場所にしようと、工房を改修してお店作り(ファクトリーショップ)をめちゃくちゃ頑張っています。例えば木製デザイン雑貨のお店hacoa(ハコア)は、この町のエース。工房見学とかワークショップも定期的にやっています。

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hacoa

新山 これは龍泉刃物というステーキナイフを扱ってる刃物会社です。ここもめっちゃくちゃ元気ですよ。注文するのに4年待ちです。実はこの5年間で13店舗のファクトリーショップが半径10キロ圏内にできたんです。

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龍泉刃物

新山 移住者は僕が知っているだけでも100人はいます。あとは半年だけ住んで出ていく人もいますし、工房見学のイベント「RENEW」の手伝いで一ヶ月くらい住んでくれる子もいます。今日はその子らも会場に来てくれています。

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会場にはRENEWに関わった学生も来ていました

新山 でも、鯖江ってめっちゃくちゃ不便な場所なんです。僕らが活動している場所は駅から歩くと1時間半くらい。バスも2時間に1本しかないし、最終バスが午後4時(笑)。それでもわざわざこの町を選んでくれています。

このまちに必要なのは、デザインだと思った

新山 TSUGIの話をしたいと思います。今は外部スタッフも含めて8人でやっています。特徴としては全員移住者。大阪3人、山形2人、奈良・群馬・東京。5年目の会社です。

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新山 僕はもともと大阪出身です。京都の大学で建築家を目指そうとしたけど、リーマンショックがあって社会の空気が変わったというか。ソーシャルデザインとかコミュニティデザインという言葉が出てくるようになりました。なんとなくこれからは建物を建てるよりも、今までものを活かす時代になっていくのかなと思って、建築家を目指さずに鯖江に移り住みました。

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新山 鯖江を知ったきっかけは、学生の時に鯖江のアートプロジェクト「*河和田アートキャンプ」に参加したからです。卒業後はその運営会社に就職しました。始めの頃は「この町を地域活性させるぞ」って思っていたんですが、ものづくりの町なので、工場の売上が上がらないと地域活性化もクソもない。リアルを知ったんですよ。

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*河和田アートキャンプ:県内外の学生たちを河和田地区に受け入れ、学生のもつ知性・感性・創造性を有効活用しながら、河和田地区内の豊かな地域資源である地場産業や自然環境を活用したアート的事業を展開することで、河和田地区の活性化を図ることを目的とした取り組み。−河和田アートキャンプウェブサイトより抜粋

新山 それで、僕がこの町で何をすべきか考えた時に多分デザインだなと思ったんですね。なんでかっていうと、産業全体の売上げが落ちている中にもちゃんと稼いでいる会社があったんです。これは何が違うかというと、見せ方やブランディングを頑張っていたから。カッコいいデザインだけでは通用しない。流通、販路までちゃんとやらないと無理なんだなと思いました。

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新山 それから独学でデザインの勉強を始めるんだけど、誰も未経験のやつをデザイン事務所は雇ってくれなくて。唯一雇ってくれたのが鯖江市役所でした。そこで3年働きながら、徐々に入って来た移住者とTSUGIというチームをつくりました。それで会社にしようと、今ここに行き着くんですね。

当然、会社をつくったことがないから、「会社とは」みたいな本を読んで(笑)。そしたら「会社とはビジョンをつくるものである」といろいろな本に書いてあって、そうなんやと。それでつくったビジョンが、「創造的な産地をつくる」でした。

つくるだけの産地から、つくって売る産地に

新山 実際、このビジョンは後から効いてきて。つくってよかったですね。やりながら気づいたんですけど、ビジョンのない会社は経営していないのと一緒やと思います。

それで、創造的な産地をつくるってどういうことか。これまで鯖江はつくることには特化しているけど、受注されてからつくる商いがほとんどで、自分たちで商品化をしてこなかった。それだと景気が悪くなると産地も影響を受ける。僕らはつくるだけの産地から、つくって売る産地にしていこうと思いました。

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新山 そういう産地になるために、僕らが2つ大事にしていることがあって。

ひとつは、外から来た視点とデザインの力で地域の資源や原石を見つけて価値化すること。

ふたつめは、職人さんのやる気をどう引き出せるか。鯖江は昔から時代の流れに合わせてものづくりを頑張ってきた町なので、その活気をもう一度取り戻さないといけないと思っていて。

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ただ、デザイナーができることって限界があるんです、実際。いかに彼らに熱量を持ってもらうか、どんだけ自分事になってくれるかが重要かなと思っています。

支える、作る、売る、醸す

新山 TSUGIの仕事は「支える」「作る」「売る」「醸す」の4つで成り立っています。これをぐるぐる回しながら創造的な産地をつくるという考え方です。

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新山 1つ目は「支える」。これはデザインを通じて、産地企業をどう下支えするか。どうしたら企業やブランド価値を上げられるかを考えます。いわゆるブランディングみたいな部分で、ロゴや空間などをトータルでやっています。

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例えば、パッケージひとつとっても奥が深い。お金をかけたらいいパッケージは作れるんですよ。でもお金をかけたら商品の値段は上がるんですよね。そうするとまた売れないじゃないですか。

なので、僕らは相場、ロット、原価をかなり踏み込んで聞きます。この生産量だったら、これくらいかけられる。じゃあ、その中でできることは何か。本当に大事なものはなんぞやと考えながら、アウトプットを最適化していきます。

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2つ目の「作る」。僕らは流通までをちゃんとやらんとあかんなと思っていて。自分たちでブランドをつくって、そのノウハウをお客さんに伝えています。例えば、4年前にアクセサリーブランド「Sur(サー)」を始めました。

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新山 鯖江のメガネの素材でできています。もとはメガネの廃材活用からスタートしました。デザイナーはうちの奥さんです。最初の頃は廃材に奥さんがマジックで書いて、それを移住したばかりのメガネ職人がギコギコ削って作りました。1ヶ月に20個しか作れませんでした(笑)。

卸の話が来たんですけど、何も専門用語がわからない。そういう失敗を経て、今では海外も入れて45店舗で売上が1千万くらい。僕らのような小さい会社にとっては有り難い商品です。このプロダクトを通して流通とか値段の付け方とかプロモーションを覚えていったという感じです。

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新山 あとは鯖江のお土産商品を作っています。サバキャップといいまして。あとはTシャツも作っています。メガネとか地場の要素をモチーフにして販売しています。これが意外と売れていて、年間500万円くらい売っています。

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新山 3つ目は「売る」。作るのもいいんですけど、やはり売り場も大事なんですよ。でも売り場なんて簡単に作れないですよね。だから僕らデザイナーたちが日本全国の商業施設まで売りに行っているんです。自分たちの商品とかお客さんの商品、福井のいいなと思ったものを「SAVA!STORE(サバ ストア)」という屋号でルミネとかパルコで売り歩いています。

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新山 その売上や客層を生産者さんにも伝えていきます。これをやっていたら、「福井のショップを2週間限定でやりましょう」と依頼がくるようになりました。

4つ目が「醸す」。さっき言った、職人さんのやる気をどうつくるか。僕らは産業観光という視点を大事にしています。わざわざ来てもらえる町をつくるために「RENEW(リニュー)」というイベントを2015年からスタートさせました。

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新山 やっていることは単純で、普段開けていない工房を年に1回だけオープンするんです。ただ見学だけじゃなくて、職人さんの想いとか、ものづくりの背景を知ることで、商品への解像度が5だったのが、300くらいまで上がっちゃうような機会をつくっています。

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新山 要は思い入れを持って帰るというプログラムなんです。他にも全国のローカルプレイヤーが集まってお店を出店してもらいます。このイベントは国内では最大規模の工房見学イベントになりました。今年は台風で2日間しかできなかったんですけど、2万8千人が来てくれて1800万円の売上が出ました。

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新山 ただ、1年に1回のイベントもいいんだけど、次に僕らが考えているのは通年でどれだけの人に来てもらうかなんです。それで僕らは13店舗のファクトリーショップのハブとして「TOURISTOR」をオープンしました。僕らの事務所を改装して、福井のものづくりとデザインが体感できる小さな複合施設です。

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新山 複合施設と言いつつ、ほとんど自分らでやってるんですけど(笑)。SAVA!STOREの直営店を作ったり、ここの大家さんが漆器工房をしているので、そこを改修させてもらって見学とかワークショップが楽しめます。あとは観光案内所を勝手にやっています。

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新山 難しいんですよ、行政の観光案内所って。「おいしい所を教えてください」と言っても、行政なので贔屓ができなかったりする。そんなんあかんと思って、僕らデザイン事務所が独断と偏見で鯖江を紹介します。あとはレンタサイクルもやっています。漆器の町なので、せっかくやし漆塗りで作ろうと思って、漆塗りの自転車を4台作りました。

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新山 まとめます。僕らは基本的に産地の企業とメインに仕事をやっています。僕らがデザインをして、彼らの価値がどんどん上がっていくことで、商品の売上も上がって、例えばファクトリーショップを増やしていくことができる。

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自分たちもブランドを作って、実際に売りにもいく。さらにわざわざ人が来てもらえるようにRENEWとかTOURISTORで産業観光を推進していく。でも初めからこういうことになったわけじゃなくて、「創造的な産地をつくるために何が必要か?」を考えいたら、こうなっていきました。

生産地ならではのデザイン事務所の在り方

新山 それで僕はいいものって、「構造」と「計画」が行き届いたものだと思っています。その人(会社)に似合っているかが大事。例えば、農家のおばちゃんが作った商品に原宿系のデザインは無理がある。大袈裟に言っていますけど、相手のことを知らないと、こうなるんですよ。

それで僕は、「インタウンデザイナー」という怪しい名前を提唱しているんです(笑)。デザイナーって基本的に東京に多いですよね。例えば、代理店があって制作会社があるみたいな。意外と地方も同じような仕事のやり方なんですよ。なんかそれって意味ないなと。消費地では消費地のデザインの形があるんだけど、生産地には生産地のデザイン事務所の在り方が絶対あるべきやと思っていて。

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新山 要するに、企業に属するデザイナー(インハウスデザイナー)の町版みたいな感じです。例えば海の所、山の所、いろいろな所で、その土地に一番合うデザイン事務所の形があって然るべきやなと思っています。僕が思うインタウンデザイナーの定義は、広義のデザイン視点を持って、その土地の資源を活かした最適な事業を行う。そうすることで地域のあるべき姿を導くことだと思っています。

新山さんのもとを訪ねて、学んだこと


伊集院 ありがとうございます。では、ここで新山さんのもとを訪ねて、僕がグッときたこと(パンチライン)を発表したいと思います。

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※会場に来てくれた皆さんにどの話が一番聞きたいか、①グー・②チョキ・③パーで挙げてもらい、一番多く挙がったパンチラインを深めていきました。

この時は、「②なぜ?っていう理由が脈々とある。そこがぶれると、正しくない」でした。

新山 これ、スタッフにもめっちゃ言うんですけど。「新山さん、これ見てください」とデザインしてきたものを置いて、無言みたいな。「ええ、これはどういう意図なん?」て。やはり恣意的なものはありえないはずで。建築でも無駄な線なんてあるわけないじゃないですか。デザインも一緒で、意味のあるものがすべてだと思うんですよ。

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新山 こういうアウトプットになりました、それはなぜかと言うと、こうだから。例えば値段がこうだからパッケージはこうで。達成したい目的がここだから、それに対してどういうプロセスでやっていくかが大事。

売れるために、できることをやる

新山 ブランドづくりのストーリーというか、ブランドの建て付けというか、そういったものがブレるとお客さんって気づくんですよね。例えば、最近ブランド米みたいのが出たんですよ。誰とは言わないけどある有名人がPRしていて。もう、何一つ間違えている。その有名人が「食べないとあかんで」みたいなCMをやっても、僕からしたら知らんがなって話なんですよ(笑)。

やっぱり人って、魅力でしか買わないと思うんですね。魅力って何か。例えば価格であったり品質であったり、ストーリーとかちょっとエモいも含めて。あとは見た目とか。そこがちゃんと繋がっていないと、絶対に人って買わないと思うので。それはけっこう精査するようにしています。

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新山 とはいえ、売れる確率を上げるって大変なんですよ。僕らは「おまえのデザイン、売れるんけ」っておっちゃんに言われるわけです。いや売れるけど、魔法使いちゃうしなって言うんですよ。100%は無理ですと。だけど、僕らは売れるためにめっちゃ頑張ると。他のデザイン事務所よりはめっちゃ考えているからと。それでも100%ではない。だけど自分らでお店を作って、最悪、引き取って売る覚悟は重要だなと思っています。

迷ったら、戻る軸をつくっておく

伊集院 ②なぜ?っていう理由が脈々とある。そこがぶれると、正しくないで言うと、色を決める作業も大変ですね。

新山 色は難しい。色は最後に決めることが多くて。それこそ「色はオレンジでお願いな」と言われて「なんでオレンジなんですか?」って聞くと「嫁がエルメスが好きでさ。あんな色お願い」って。それは意味性が無さすぎるでしょって言うんです(笑)。

「好き嫌いじゃなくて、このブランドらしさとはなんぞやの方が大事です」と言います。こう、戦いなんですよ、説明っていつも。あとは、そうならないように迷ったら絶対に戻る軸をつくっておくんです。もとはこういうコンセプトでしたよねって。そうじゃないと「社員で多数決したらこれだった」みたいなことが起きる。

伊集院 そういう時はどうするんですか。

新山 そうならないようにやるけど、その意見も参考にするんですよ。みんなで決めたことをちゃんと愛せるんだったらやってもいいと思うけど。でも、けっこう説明します。

見た目は最後

伊集院 新山さんを訪ねた時に、仕事の工程は、リサーチ、プラン、コンセプト、デザインっておっしゃっていたんですが、一番どこに時間をかけるんですか?

新山 案件によってバラバラです。ただ、リサーチってなんのためにしているかというと、勝てるポイントを探すためなんですよね。差別化のポイントとか、強みってどこやねん、みたいなことを考える。

プランというのは、5W1Hみたいな感じで、どういう商品をどういう人たちにどういう経路で、どういう価格帯でどのように運営するかという作業。コンセプトは商品の言語化なんで、ブランド名、商品名、キャッチコピー。それを説明するテキストをいくつか作ります。例えば75文字、200文字、300文字とか。要は媒体によって求められるテキストの数、量は変わるので。それでやっとデザインというか、見た目の部分をやるような感じ。

結局は、当事者(クライアント)の熱量が一番

伊集院 さっき新山さんが「職人さんのやる気をどう引き出せるかもデザイナーの仕事」って言ってたじゃないですか。僕の知り合いに商品開発のデザイナーがいるんですけど、その人は生産者さんとうまくいっていなくて。例えば生産者さんが時間にルーズだったりすると、「もうあの生産者は相手にしない」と言ってバンバン切っていくんですね。

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伊集院 そのデザイナーの気持ちもわかるんですよ(笑)。でも一方で、その生産者の方に「なんであの人と一緒にやらなかったんですか?」と聞いたら、「あの人とは合わないから」と。だから、生産者さんとどうやって関係をつくるかもスキルというか、大変だと思いました。

新山 そうやね。どれだけ素晴らしいロジック、ブランドの建て付け、お金の使い方をしようが、結局は当事者の熱量が一番重要だと思っていて。いい仕事って、お互いのテンションがちゃんといい感じの状況になっているかが本当に大事。だからどっちかが上に立つとね、あまりいいものになんないです。デザイナーの力技で一応ものはできたりするけど、多分それは自走しないので。

大きなビジョンと小さなビジョン

黒川 この流れで僕、「③のビジョンは示さなあかん」を聞きたいです。まさに今の話って③だと思うんです。これってデザイナーのキャラの問題になってくる気がします。

新山 なるほど。

黒川 例えば、僕がビジョンを示すのと、新山さんが示すのでは違って見えるし、クライアントが若者なのか年配なのか。男性か女性かといったそのキャラクターによって伝わり方が変わる。もっと言うと、鯖江でやるのと、大船渡だったら文化圏も全然違ってくる。ビジョンを示すというのは、相手と凄い繊細なチューニングが必要なはずで。どうやっているんですか?

新山 いい質問ですね。例えば会社だったら、同じような志の仲間とやっているからビジョンって伝わりやすいですよね。だけど僕らが住んでいる河田地区でいきなりビジョンって言葉を口にした瞬間、河和田市民は「え?」ってなるじゃないですか。カタカナ?みたいな。だけど、指針とか目標とか言っても硬くなる。二枚舌じゃないけど、ちょっと言葉を変えたりしています。

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黒川 そうですよね。相手によって目標というか、ビジョンってなかなか伝えづらいと思うんですけど、どんな風に伝えているんですか?

新山 僕は町としてのビジョンというか、目指すところがあって、それは言っているんです。でも、ただ言ってもやっぱり意味わからんし、ついてこない。だけど一回は言っておくんです。言っておいて、そこから小さいことをやっていくんです。

フィジカルでわかってもらう

新山 例えばRENEWが一番わかりやすいかな。これをやった理由はいくつかあって。まずは漆器の売上が下がり過ぎていたこと。もうひとつは、展示会の役割の変化です。ものづくりとか伝統工芸って、ただ商品を置いているだけじゃもう売れないんですよね。

僕らはSAVA!STOREで商品のストーリーも伝えているんですが、「これは職人の現場を見てもらう方が絶対いい」と思いました。それで鯖江に戻って「こういうこと(RENEW)をやりましょう」って言ったらみんなポカーンでした。「工房を見せたら技術が盗まれるわ」「俺はこの時期に魚釣りするんや」とか、散々言われましたね。

伊集院 なんとなく想像つきます(笑)。

新山 でも、僕は「騙されたと思ってやりましょう」と言って(笑)。ここで重要やったのが、行政のお金に頼らないことでした。それは僕がもと行政職員やったからこそ嫌やった。おかげで僕らも本気で向き合えたし、自分たちの責任の範囲内でやれた。とはいえ、正直1回目の時はめちゃくちゃ不安でしたよ。

だけど、まあまあ人が来てくれた。そしたらおっちゃんたちが「来てくれたけど、おもてなしができへんかったわ」とか言い出すんですよ(笑)。みんなフィジカルで感じるんですね。

僕はそこからが一番の勝負だと思っていて。そこで僕は「こういうことをやりたいんです」ってもう一度ビジョンを説明する。そしたらみんなだんだんわかってくれる。

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新山 RENEWを4年間やってきて、次はお客さんをこれ以上増やさなくていいという段階です。それよりは一社あたりの売上を伸ばそうと。実際、2017年は4日間で4万2千人が来て1800万円の売り上げでした。

2019年は2日間で2万8千人のお客さんが来て、売り上げは1800万円。何が起きたかといったら、一社あたりの売上が伸びている。ここをめっちゃ頑張っていたし、目指したいことの一つだったんですよ。

大きなビジョンも示すんだけど、遠くにあること、近くにあること。それを1個ずつ乗り越える。この両輪が大事だなって今、気づいた。そういうことや。僕、そういうことをやっています。

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広義な意味での建築家、デザイナー

黒川 もう一個聞いていいですか。今後、僕ら建築家って小さい建築事務所というか、そういう建物を作るだけの建築家はいずれ無くなるんじゃないかと考えているんです。

なので、これからは自分で事業を立ち上げて何かをクライアントと一緒に売っていくのか、コンサルなのか。でも僕はずっと建築家と言い続けると思うんです。新山さんはずっとデザイナーと言い続けるんですか?

新山 そうだと思います。

黒川 でもTSUGIがやっていることは、もはやデザイン事務所じゃないですよね?

新山 そうですよね。観光案内所とか、レンタサイクル屋でもいいですもんね。

黒川 そうです(笑)。それで聞きたいのが、新山さんが名刺の最初にデザイナーを持ってくることにどういうこだわり、それこそビジョンがあるのかなぁって。

新山 さっき言ったインタウンデザイナーの定義の中に、広義のデザインって言葉を使っていたと思うんですけど。狭い世界のデザインより、僕は広い意味でデザイナーを捉えたくて。

例えばレンタサイクルも、デザインのアウトプットの手法だと思っています。その代わりに僕はグラフィックデザイナーとかプロダクトデザイナーまでは言えないなと思って。なんか大きい意味でのデザイナーみたいな感じです。

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新山 黒川さんの指摘って世代的にも興味がある話で。なんか一時期、職能拡張を凄く意識していたんです。例えば、建築という職能が建物を建てるだけなのか、とか。建築家って物事の考え方とか、構築していく指向性って、めちゃめちゃ強いなと思います。実際にイタリアの家具デザイナーってだいたい建築家だったりするし、家具から都市計画までを横断できる能力がある気がします。

なので建築家と言い続ける人もいれば、もと建築家的な。それは新しい肩書きなのかわからんけど。ただ、確実に時代は変わってきていて、今までの建築家先生みたいな時代から、能動的に自分の事業をつくるまでやらないと建築家は生きていけない。それはデザイナーも一緒だし、ローカルの生き方もそうだし。思考停止の時代ではないなと思います。

覚悟して、頑張れよ

伊集院 会場の中に新山さんみたいなデザイナーになりたいって方がいらっしゃるかもしれないので、何かアドバイスをするとしたら、なんて声かけますか?

新山 難しいですね。僕らの町に来てもらったら絶対楽しいよと言えるんだけど。他の町はわからんから。ただ、町の選び方はミスらんといて欲しい。

伊集院 どういうことですか?

新山 いくつか理由があるんですけど。例えば、たまに地域おこし協力隊の人から話を聞くけど、町の奴隷やんって人もいたりとか。僕は移住して11年目なんですけど、始めの3年くらいは自分のキャラを圧し殺して、太鼓持ち芸人的なスタンスやったんです。

伊集院 その時はまだデザイナーとしてのスキルは・・・

新山 ない、ない。22、23でしたから。僕は移住してすぐに地元の青年団に入ろうと思ったんですが、40、50歳のおっちゃんの会しかなかった。そこで太鼓持ち芸人のスキルを身に着けました。

例えば、飲み会のセッティングとか、お祭りの準備とか。そこで3年やっていたらみんなから「新山はあほやけど悪いやつじゃない」という信頼を得て。僕は若者移住者1号だったんで、生活はシンドイし、おっちゃんらの飲み会って噂話と悪口なんですよ。それを聞いて、しょうもないなとか思っていました。だから、ずっと仲間が欲しかったんですね。

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新山 それからちょっとずつ仲間が増えてきて、TSUGIを始めた経緯があります。始めの3年はキツかったんですよ。だから「若者よ、地方を目指せ」って、声高らかには言いにくい。「覚悟してがんばれよ」しか言いようがない(笑)。

だけど今はいろいろなメディアがあるし、情報は手に入れることができる。先人たちの話を聞ける機会もあるわけじゃないですか。だからちゃんと情報を得て、自分が活躍できる場所を目指してほしいなと思いますね。

伊集院 場所を選ばないと、3年はしんどい思いをすると。

新山 そうですね。だけど、何か自分で地方で一旗揚げたい人だったら、どうだろう。例えば、鯖江でデザイナーだったらもう僕がいるわけですよ。僕を今から超えるだとちょっとややこしくなる(笑)。もし、未開の地で一旗揚げる時に、地域おこし協力隊の募集はあるんですよ。

でもそういう町は後発だから、けっこうビビっていて。これは僕の予想なんですけど、地域や行政って「移住者募集」と言いつつも、来て欲しいのは爽やかなファミリー世帯な気がするんですね。

伊集院 あぁ。なんかめっちゃくちゃわかります。

新山 でも、最初の一人目とか、未開の地に行こうとするやつって、頭ぶっ飛んだやつしか行かへんから(笑)。その代わり一芸が秀でているみたいな。僕は、上手くいくかどうかは、その町がその子をどんだけ愛してくれるかだと思っていて。

その子が育ったら、第二弾の面白い人が来て。そうするといつか爽やかなファミリー世代が来るかもしれない。そこをちゃんと地域側も考えないとあかんし、行く側も覚悟を持たないとあかんなと思います。

地域のキーマンをミスると、えらいことになる

伊集院 信頼を得たから今の新山さんがあるんだなって思いました。例えば、移住1年目の新山さんがRENEWをやろうとしたら、うまくいかなかったかもしれませんね。

新山 1年目でやったら、マジで刺されてたと思うわ(笑)。

伊集院(笑)ただ、信頼があったとはいえ、デザインとは違う分野かもしれないですけど、”どう伝えるか”は、かなり大事だったんじゃないですか?

新山 さっき言った「俺は魚釣りしたいんや」みたいなご機嫌を、どうやって乗り越えていったかというと、僕の力じゃないんですよ。「いやいや新山くんがこんなに一生懸命言ってるやないか。行政のお金じゃなく自分らお金でやるんだったら、失敗してもええやん。とりあえずやろうぜ」と言った谷口眼鏡の社長の谷口さんという方がいるんですけど。彼の一言が全てを変えたなと思っています。これ大事。いわゆる地域のキーマンの一声です。

伊集院 おぉ。

新山 ちなみに僕は地域のキーマン2回間違えていて(笑)。キーマンって重要なんだけど、ミスるとほんま大変、ほんま。例えばキーマンやからって紹介してもらった人がいたけど、年度が変わった瞬間いないんですよ。

持ち回りキーマンかい!って(笑)。2回目は「私は君のような若い子を応援してるから」と言ってくれたので、僕頑張るんですよ。それで頑張ってある程度目立つようになったら、「おい、これ以上目立ったらあかん。俺の顔を立てろ」みたいなテリトリー誇示キーマンがいたんです。

伊集院 きついですね。

新山 そういう苦労があって、今こうやって頑張れている。だからそれも含めて「若者よ地方に行け」だったら、言ってもいいかな。

脱落者を出さないように「醸す」

中川 新山さんは、どうやって創造的な産地にできるかって考えているじゃないですか。けっこう鯖江はすごいところまでやっているなと思っていて。

新山 いえいえ、そんなことないです。

中川 それでお聞きたいのですが、新山さんがイメージしている"創造"ってどこまでを考えているんですか? その創造の範囲を拡げていくと、例えば新しくものをつくることでゴミを増やしたり、消費したり、誰かが消耗したり。マイナスな面も出てくる可能性もあるなって。

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新山 鯖江の知名度を上げることは、僕はかなり頑張ったと思うんです。それは僕だけじゃなくてみんなが頑張った結果で、そこは凄くいいなと思っています。ただ、創造的なことをつくるうえでいくつか不安点もあって。

ひとつは社内の話。そのビジョンを達成するために負荷をかけていたのも事実なんですね。僕らはつい最近まで朝9時から仕事をして、家に帰るのが11時だったこともありました。しんどかったんですね。4年間それをやっていたんです。必死、必死っすよ。

オフィスの電気がずっと付いているので、「河和田の不夜城」と呼ばれていました(笑)。スタッフが若いからいいけど、ずっと続けられないリスクもありました。なので、今は少しずつ仕事を絞ったり、形態を変えたりしている段階です。

あとは、けっこうなスピードでRENEWも含めて成長していったことで、ついていけない人をいっぱいつくってしまった事実もあって。これは難しいんですよ。

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新山 僕が行政で働いていた時、どうしても公平公正なので、誰かを贔屓できないんです。だけどみんなで仲良くレベルが上がるなんて無理があるんですよ。どちらかというと、1社のエースプレイヤーができて、そこに負けたくない次の世代の会社がどんどん増えていって。会社が成長し合うことで点が面になっていく。

鯖江が聞いたことある町までになったのは、やっぱり数社のプレイヤーが頑張ってきたから。僕らはそのお膳立てを頑張ったつもりなんだけど、一方でその視点についていけない会社は、なんのこっちゃみたいな感じなんです。

これは悩ましいなと。特に僕ら分業体制の町なので、一個の工程がなくなると物が作れないリスクがある。なので、トッププレイヤーをつくらないといけないけど、脱落者をどう減らすかがけっこう課題なんです。

だから今まで僕が言ったことは間違っているとは言いづらいけど、そういう状況になったのも事実だし。このあたり、なかなか難しいんです。

黒川 難しいですよね。作る、売る、支えるは想像できるし、やっている人もいるけど、醸すってむずかしいですよね。

新山 支える、作る、売るだけじゃ解けない課題が出てきたんです。やっぱりこれからは醸すが大事だと思っています。

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※ここからは質疑応答を受けました。

頑張れるモチベーションは何か

女性 新山さんが地方で仕事をつくるうえで、一番重要だな、大事だなと思うところってなんですか?

新山 僕の視点で言ったら、「自分のスキル」「やりたいこと」「町が求めていること」。この3つの最適化を事業のポイントにすることです。例えば、鯖江はものづくりの町なのでデザインが大事だと思った。ここがポイントだったと思います。

もうひとつが、応援してくれる人ですね。地方でやっていると孤独な部分もあります。例えば、その町のルールに違和感を感じる時もあります。でもそれをこっちが一刀両断しちゃうと、村八分になる可能性があるじゃないですか。僕なんかはガッと言っちゃうので(笑)。全員が僕のことを好きなわけではないと思うんですよ。

でも、なんで頑張れるかというと、僕を慕って移住してくれた人とか、それこそ役所の時にお世話になった人のためとか、RENEWの実行委員長の谷口さんが僕を守ってくれているからとか。数人でもいいけど、この人のためなら頑張れるというモチベーションは大事だと思う。まだいっぱいあるんですけど。そんな感じです。

最後に、残り一つのパンチラインも紹介しておきます。

①商品とブランドづくりは、別々

新山さんに「どうやったら売れる確率が上がるんですか」と聞いた時に答えてくれた言葉です。

デザインが綺麗で価格も合っているけど、売れるとは限らない。僕は商品とブランドづくりは別々やと思っていて。「商品づくり」は一発屋芸人的な感じで、「ブランドづくり」は長期的にファンができたり、売れていくこと。そこで僕らが意識するのは、ちゃんとフィロソフィー(哲学)をつくっていくことです。ここをめちゃ頑張ってます。なのでパッケージデザインの案件が、コンセプトやら企画づくりまで発展することもあります。RENEWをやって思うのは、お客さんは商品の背景に見えるもの、姿勢に共感して買ってくれる。なので、ただ見栄えをデザインするのではなく、共感してもらえるように「構造」「計画」を考えていきます。それが結果的にフィロソフィーをつくることやと思います。

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vol.7は、greenz.jpビジネスアドバイザーの小野裕之さんを訪ねて学んだことを報告します。小野さんにぶつけた問いは、「事業ってどうつくるの?」です。それでは、また次回のローカル×ローカルで会いましょう。

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