村越正海(職業釣り師)

釣り師、物書き、釣り具メーカー他のアドバイザー&コンサル、テレビ番組(『THEフィッシ…

村越正海(職業釣り師)

釣り師、物書き、釣り具メーカー他のアドバイザー&コンサル、テレビ番組(『THEフィッシング』)の監修・出演、合同会社セイカイコレクション代表。40年以上活動を続けてきた集大成としての「釣り小説」をお楽しみください。いずれは全てのジャンルをカバーしてゆく予定です。

最近の記事

潮騒の詩(うた) 第10話 伊豆半島のヒラスズキ<吉田大根>

16 老釣り師とタタキ釣り「竜司、来ていたのか」 「小太郎さん、お先にはじめさせてもらってます」  午後6時。 「奄美屋」の店内には、まだ他の客はきていない。  カウンター席の右端に座った松本竜司が1人、アジの刺身を肴に黒糖焼酎を飲んでいるだけだった。  隣の席に畠山小太郎が腰を下ろす。 「どうします?」  マスターの川田良平が聞いた。 「生ビールを頼む」 「分かりました」  冷蔵庫から冷えたジョッキを取り出し、生ビールを注いでカウンター越しに手渡す。  小太郎は、ジョッキを

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    • 潮騒の詩(うた) 第9話 房総半島のシーバス③<岩井袋港&センズイの磯>

      15 連続ヒットには理由がある「きたっ! エッ、何だこの引きは?」  小川徹也の手にしていた細身のロッドが大きくしなり、小型スピニングリールのスプールが逆転し、ラインが勢いよく飛び出してゆく。 「どうした? 何かヒットしたのか?」  5メートルほど離れて釣りをしていた浅利大介が、異変に気づき、素早く駆け寄ってきて小川に聞いた。 「どうやらシーバスがヒットしちまったようだ。参ったなぁ」 「その様子だと、結構でかそうだな」 「ああ。50センチや60センチのフッコクラスじゃあなさそ

      • 潮騒の詩(うた) 第8話 房総半島のシーバス➁<岩井海岸・センズイの磯➁>

        13 ヒットルアーは『TDペンシル』「竜司も『TDペンシル』でやってみた方がいいんじゃないか?」  良型のシーバスを立てつづけに2尾釣りあげたところで、小太郎が言った。 「もちろん、そうさせていただきます」  間髪を入れず、竜司が答える。  タックルを右脇下に挟み込むように持ち、空いた両手でライフジャケットのポケットからルアーボックスを取り出す。  ボックスの中には、ミノー、バイブレーション、シンキングペンシル、メタルジグ、トップウォータープラグといったルアーがぎっしり詰め込

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        • 潮騒の詩(うた) 第7話 房総半島のシーバス①<岩井海岸・センズイの磯①>

          11 プロ釣り師のプライド 午後6時。  畠山小太郎が「奄美屋」のドアを開け店内へ入ると、奥のテーブル席に2人の男が座っているのが見えた。 「いらっしゃい。お客様がお待ちですよ」  マスターの川田良平が奥の2人に目をやりながら小太郎に告げる。  カウンター席の横を通り抜けテーブル席のところまで行くと、2人はすでに立ちあがっていた。 「初めまして。お電話でお話しさせていただきました、NKテレビの小西です」  差し出された名刺には、<NKテレビ制作部プロデューサー・小西和幸>と書

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        潮騒の詩(うた) 第10話 伊豆半島のヒラスズキ<吉田大根>

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          潮騒の詩(うた) 第6話 伊豆半島のヒラスズキ<石廊崎の事故>

          10 大波が釣り師に襲いかかる 目の前に広がっていたのは、大荒れの海であった。  ドドーッという、心臓まで突き抜けるような振動とも響きともつかぬ衝撃音を伴いながら、大波がひっきりなしに磯に襲いかかっている。  一瞬のうちにすべてをのみ込み、数秒後には、ゴーッという不気味な唸りとともに、あるものすべてを大海に引きずり込んでしまうほどの荒れっぷりだ。 磯の周囲には、ぶ厚いサラシが広がっている。 ヒラスズキ釣りには、おあつらえ向きの条件といってよい。  問題は、釣り人が磯に立って釣

          潮騒の詩(うた) 第6話 伊豆半島のヒラスズキ<石廊崎の事故>

          潮騒の詩(うた) 第5話 伊豆半島のワラサと投げシロギス<モズガネ・宇佐美海岸>

          8 魚の動きを自由に操る釣り師 「この魚はどうする?」 「えっ?」 「リリースするかキープするか、どっちを選ぶか?ってことだ」  松本竜司の釣りあげた、優に5キロ以上はあろうかというヒラマサを前に、師匠格の畠山小太郎が聞いた。 今、その魚は磯の上で静かに横たわっている。  リリースするなら、できるだけ早く、魚が少しでも元気なうちに海に帰してやらなければならない。  キープするなら、おいしく食べるために、エラを切って血抜きをした方がよい。  どちらにするかは、その魚を釣りあげた

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          潮騒の詩(うた) 第5話 伊豆半島のワラサと投げシロギス<モズガネ・宇佐美海岸>

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          潮騒の詩(うた) 第4話 伊豆半島のワラサとヒラマサ<城ケ崎・モズガネ>

          7 ワラサがガバッと飛び出した「このあいだの釣行記はもう書きあがったのか?」  伊豆半島へ釣りに行った3日後の夜、畠山小太郎と松本竜司は「奄美屋」のカウンター席に座っていた。「奄美屋」は小田原市の外れにある小さな居酒屋で、マスターの川田良平が大の釣り好きであることから、訪れる客も釣り人が多い。  店内に設置された大きな水槽の中で泳いでいる大ダイやマアジは、みな、マスターが釣りあげ生かしたまま運んできた魚たちだ。 生ビールのジョッキをカチンと合わせ、ノドに流し込んだところで小太

          潮騒の詩(うた) 第4話 伊豆半島のワラサとヒラマサ<城ケ崎・モズガネ>

          潮騒の詩(うた) 第3話 伊豆半島のヒラスズキ編<爪木崎・影山>

          5 15年前の思い出「それじゃあ『影山』へ移動するか」  小太郎が落ち着いた声で言った。 「『影山』っていうのは、『たかん場』の左側にある磯ってことですか?」  自己記録となるヒラスズキを釣りあげたばかりの竜司の声は、まだ高揚していた。 「昔、小太郎さんが良型のヒラスズキを短時間に何尾も釣りあげたっていうアノ場所ですよねぇ」 「そうだ。それにしてもそんなことをよく覚えているなぁ。オレなんか、話をしたことさえ忘れちまってるっていうのに。ともあれ、この釣り場はもう危険だ。波が大き

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          潮騒の詩(うた) 第3話 伊豆半島のヒラスズキ編<爪木崎・影山>

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          潮騒の詩(うた) 第2話 伊豆半島のヒラスズキ編<爪木崎・たかん場>

          3 うねりが徐々に大きくなる「さて次はどこにする? オマエはまだ1尾も釣っていないんだから、好きな釣り場を選んでいいぞ」  夜明け直後から北川のゴロタ場と熱川の高磯(穴切の磯)を攻め、すでに3尾のヒラスズキをキャッチした小太郎が、落ち着いた口調で竜司に問いかける。 「そうですねぇ。この状況ならどこもよさそうですし、迷いますねぇ」 ◇     ◇     ◇  小太郎と竜司がねらっているのは、ヒラスズキ。  西から近づいてくる低気圧の影響でナライが吹き、徐々にうねりが大きく

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          潮騒の詩(うた) 第2話 伊豆半島のヒラスズキ編<爪木崎・たかん場>

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          潮騒の詩(うた) 第1話 伊豆半島のヒラスズキ編<北川・ゴロタ場&熱川・高磯(穴切りの磯)>

          1 ナライが吹けば、東伊豆はシケになる「ナライが吹き始めているようだな」  ハンドルを握りながらチラッと海を見た小太郎が、ニヤリと顔を緩ませつぶやくように言った。 「はい、予想通りです」 助手席で竜司が、相槌を打つように応える。彼の顔もまたニヤけていた。 ナライというのは釣り人や漁師が使う言葉で、北東風のこと。  昨夜の天気予報によれば、紀伊半島沖で発生した低気圧が発達しながらゆっくり東に進んでいるらしい。太平洋岸では、低気圧が西から近づいてくる際に東寄りの風が吹き、通過する

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          潮騒の詩(うた) 第1話 伊豆半島のヒラスズキ編<北川・ゴロタ場&熱川・高磯(穴切りの磯)>

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