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元気な歯茎を取り戻すまで

先日、初めて口腔外科手術を受けた。歯並びが悪く、下の前歯の歯茎が11か月間も炎症していた。そんな中、移植手術で歯茎を増やせることを知り治療した。

今回は共感しづらいであろう、とてもニッチな歯肉移植のことをお伝えする。興味ない方が大半だと思うけれど、歯茎で悩んでいる方がすこしでも未来を前向きに生きられるよう、わたしの経験をまとめた。


1) 今の歯医者さんに出会うまで

仕事の都合で、ここ数年は静岡と東京を往来していた。そのため、歯医者さんを転々としていた。
「下がった歯茎は戻りません」
今年の1月、当時住んでいた静岡の歯医者さんに言われた。下の前歯の歯茎が炎症し始めていた。そのうえ歯茎が下がってしまったように見える。歯茎は元に戻らないから、現状維持することしかできないと言われた。
教えてもらった通り優しく歯ブラシを当てていたが、炎症は治らなかった。

結婚を機に上京し、歯医者さんを変えた。そこは大掛かりな口腔外科手術もしている歯医者さんだった。炎症のことを相談すると原因は歯並びだということが分かった。
一般的に、歯は歯茎が盛り上がっているてっぺんに生えるのだが、わたしの場合は歯茎の山の8合目あたりから生えている。そのため、外にかかる圧がどうしても強くなってしまい炎症が治らないのだと言う。
磨き方が原因ではないことが分かって、ものすごく安心した。

先生から、上顎の肉を取って下の歯茎に移植する手術を勧められた。そうすることで歯茎に厚みが増して炎症が治るそうだ。しかも、上顎の肉は歯茎と違って何度でも再生する。模型を使って丁寧に説明してくれたのだが、聞けば聞くほど痛そうで怖くなった。
「麻酔を効かせるから痛くないし、中にはリラックスして寝ちゃう方もいるよ」と言われたが、そんなはずはない!と心の中で叫びながら話を聞いていた。
手術が怖くて渋った。そこで、わたしに合う形の歯ブラシを勧めてもらった。しばらくの間、炎症が抑えられるか様子を見ることになった。

2) 手術を決心するまで

それでも、変なところに生えてしまった歯の圧に耐えられず、歯茎の炎症はどんどん酷くなっていった。
9月の検診では、もう待ったなしの状態だと言われた。歯並びを矯正するか、歯肉移植するか、二択しか残っていなかった。コストと労力を天秤にかけ、移植することにした。

ふと別居している祖母のことを思い出した。祖母は入れ歯をしていた。毎日手入れが大変そうだった。
一昨年、長年連れ添った夫(祖父)を亡くした。もともと少食だった祖母は、ますます食が細くなり、食べることが楽しくないと言っていた。
全く料理をしなくなり、心配した母や祖母の妹が手料理を冷凍して持って来る。それを少しずつ食べながら、生活している。
わたしが小さかったころの祖母は、ぬか漬けや梅干しづくりなど、手の込んだ料理をしていた。手ぎわ良く料理する姿を見て、カッコイイと思った。
死ぬまで自分の歯で食べて、おいしい料理を家族と一緒に味わいたい。老後も「いただきます」を笑顔で言いたい。だから、今のうちに手術をしようと心に決め、当日を迎えた。

3) いよいよ手術本番!

3時間半にもおよぶ大手術だった。
歯を綺麗にクリーニングした後、歯茎に麻酔を何本か打った。受付に戻り、麻酔が効いてくるまで少し休憩することになった。水を飲もうとコップに口を当てるのだが、下顎の感覚が全くなく、こぼさないように飲むのに一苦労だった。
呼ばれて行くとドラマで見るようなオペ手術の格好をした歯科衛生士さんが立っていた。全身が震え、今すぐ立ち去りたくなった。
上顎にも麻酔をかけて皮を切り、肉を取り出して、何針か縫った。下の歯茎の皮をめくり、上顎の肉を縫い付けて、皮をひっぱって元に戻した。下の歯茎を縫った糸は、少しずつ体内に溶けて消えていく吸収性糸なので、抜糸の必要がない。

麻酔が切れて、針や糸が歯茎を通っていく感覚がなんとなく分かった。痛かったら手をあげてくださいと言われていたが、思わず「痛い」と声に出してしまった。
調べて分かったのだが、炎症している歯茎は麻酔が効きにくいようだ。二度も麻酔を追加してもらった。
手術後は歯茎の傷口を保護するため、歯周パックをつけてもらった。

書くと痛そうだが、麻酔が効いて感覚がないので大丈夫だ。それに痛いと伝えれば、麻酔を追加してくれる。助手の歯科衛生士さんが始終「体調は大丈夫ですか?」「寒くないですか?」と気にかけてくれた。手術中は気がまぎれるように洋楽を流してくれた。

4) 抜糸までの生活

帰宅後に鏡を見ると上の歯は糸が巻きつけられ、下の歯は歯周パックで覆われ、とんでもない姿になっていた。
当日は入浴、激しい運動、飲酒、喫煙はできない。疲れていたのか、手術後は昼寝もふくめて、12時間も眠ってしまった。

抗生物質と鎮痛剤が3日分処方された。歯茎も上顎も痛くない。ただ、歯に色々なモノがついているため、食事が大変だ。実質、何もついていない右の歯しか使えない。固いものを食べ続けると右の顎が疲れてしまうので、みそ汁や蕎麦などやわらかいモノを食べた。

抜糸までの間は口腔洗浄液でうがいして殺菌し、手術した場所は触らないよう心がける。手や舌で触ってしまうと歯茎がくっつかず、手術の不成功を招いてしまうからだ。

幸い転職活動中で仕事はしていなかったが、最低でも手術翌日は仕事を休んだ方がよいと思った。神経が集中している下の歯茎を切ったので、人によっては頬や顎に内出血のアザが出るそうだ。

5) 10日後、ついに抜糸する

上顎に巻きついている糸を抜いた。ほんの一瞬で全く痛みはなかった。上顎の傷口は綺麗にくっついていた。
下の前歯の歯茎につけている歯周パックも外してくれた。手術後の歯茎を初めて見た。まだ完全にくっついていなかったが、手術前よりも明らかに歯茎の量が増えていた。ものすごく嬉しかった。ついに冷たい水が飲めるのだ。
もう2週間もすれば完全にくっつくらしく、しばらく糸で歯茎をひっぱったままにすることになった。

6) 最後に

前職は農業関係の会社だったため、多くの農家さんを取材させてもらった。スーパーに行けば、当たり前のように規格のそろった農産物が陳列されている。それがどれだけ大変なことか。
自分の歯でよく噛んで食べ、大地や海の恵みを感じていたい。長生きをして、一日でも長く家族と食事したい。だから、歯茎を治療した。
目指すは、100歳でもよく食べるスーパーおばあちゃんだ。天国にいる祖父やご先祖様を驚かせようと今から企んでいる。

あなたの周りで歯茎に悩んでいる方がいたら、歯肉手術を教えてあげてほしい。問題を抱えていても、歯を長生きさせることができるのだ。
誰だって未来を変えられる。


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