逝くのならどちらが先がいいかしら
◆記憶違いのため、一部訂正しました
残るならどちらのほうがいいかしら春の牡丹餅食ぶる父母
この短歌を詠んだのはどれくらい前だろう
まだ短歌を詠んでいたころだから、十数年以上前だ。
両親揃って、八十歳にはなっていなかったころだ。
あの頃は春秋のお彼岸になると、実家の近所にある和菓子屋さんに寄って、両親が電話注文をしていた「春の牡丹餅、秋のお萩」を受け取って実家へ行くのが習慣だった。
何時頃からか墓掃除も、私たち長女夫婦の仕事となってしまっていた。
今となっては、この一首さえ牧歌的に思えてしまう。
結局のところ父が先に逝ったのだ、もう九十を十分すぎている年齢だった。
「もういいよ、ばあちゃんのことは私が面倒みるから」と病床の父に告げてから数日で様態が急変し、それから間もなく亡くなった。
亡くなるとは無くなること、そうではあるのだが
亡くなることによって始まることもある。
そう、亡くなってから始まることもあるのだ
来月末に一周忌を迎えるのだが、やっと昨日相続関連に必要な書類が揃い、司法書士の先生の下へ届けてきた。
夫を亡くした妻の気丈さ(そう称した方がよいのか)暴走はについて話は聞いていたし、姑を見ていたので想像はついていた。
自分が確りとして取り仕切らねば、そう考え気丈に振る舞い、何事も取り仕切りたがるのだ。
情報の処理能力も若い頃と遜色ないと思っていたらしいのだが、身体の動きも儘ならない母の決断を待つと何事も進まなかった。
葬式は私が施主となり、滞りは無かったとは言えないが、無事終わらせた。
相続に関して父の残した資産は、私が相続をし管理するように兄から言われていた。
母は父がいなくなったこと以外は何も変わらす、生活が続くものと思っていたのだろう。
私がワードの太字・大文字で作った、役所関係で父が亡くなったことにより返却しなければならないもの、遺族年金受給のために必要なもの、それらの一覧を読み「なぜ」と呟いていた。
母にとって、父の預金通帳も印鑑登録証も世帯のものであり、自分が管理すべきものだった。
父の預金通帳に振り込まれる(年金と言う)生活費を使い、家と自分の生活を維持するものと思い込んでいたのだ。
ただし自分の通帳に振り込まれる年金は自分のお小遣いであり、預金は母個人の資産であるのだ。元々の性格なのか、認知の衰えによる歪みが生じたのか、その両方なのか判然とはしない。が、姑も似たような思考だったので、あの年代の女性特有のものなのかもしれない。
相続の手続き期限と保留
運が良かったのは、父名義の資産の総額では、相続税の控除金額を上回らなかったことだ。相続税の納付期限を気にせずとも、遺族全員の納得がいってからで良いことだった。
兄も私も、母のことに掛り切ってはいられない、兄も年金受給年齢になるとはいえ、まだ完全リタイアしてはいなかった。
相続の手続きは母のときにまとめてしてしまおうと、そんなことも二人で話したりもした。
これは司法書士事務所や銀行の法務部など有識者からの助言であるが、相続の保留は可能だ。その件での相続税の納付の必要なけれは、両親が亡くなったときにまとめて手続きも可能なのだ。
ただしその時点で相続人は一人分(当家では母)の控除額が減り、全額二人分(父+母)を残りの人数で相続することとなり、相続税の計算となる。
高齢になってから世帯主である夫が亡くなると
税理士事務所の担当職員さんに「名義変更できるものからしておかないと、後で色々と面倒ですよ」と助言されていた。
秋には母も落ち着いてきたので、司法書士の先生に手続きをお願いした。このような状態なので、別件が入ったときはそちらを優先していただいていた。
父の戸籍も揃い、相続協議書に捺印し住民票や戸籍謄本そして印鑑証明書を提出するのだが、想定内ではあったが母は印鑑登録をしていなかった。
母があると言い張り家中をさがしていたのは、役場に返却した父の印鑑登録証だった。
印鑑登録は世帯単位ではなく、個々人でせねばならぬと説明し納得させることが、こんなに難しいとは、想定はしていたが大変だった。
先週説得して役場まで連れて行ったのだが、持っていた身分を証明する書類は三年前と四年前の後期高齢者医療保険証であった。
母は自動車の運転免許証もパスポートも持ってはいなかった。
個人で資産を所有するという概念も身元の保証も、家というものがあって初めて成り立つ世代の人であったのだ。
残されるのならばどちらが楽なのだろう
そんなこんなバタバタしながらも、今月中に不動産の名義が変更され、預金の変更手続きの書類の提出も終わる予定だ。
残されたのが父であったならば、諸手続きはもう少し楽だったのだろう。だが妻を亡くした高齢の男性を、身近に見ることはどのようなものなのだろう。
母は「家」という制度、すなわち父という世帯主に守られ、それを当たり前として享受できた世代だったのだ。
人が一人亡くなることは、多くの多くのエネルギーを消費させる。
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