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【連載小説】マジカル戦隊M.O.G.(第7回)

前略

寒い日が続くけど、元気でやってるか?
こっちは昨日降った雪が、一面の銀世界を構築したところだ。
今は夜明けの少し前ってところだけど、そのせいもあってか、ここが戦場であることを完全に忘れてしまうくらい、静かで透明な雰囲気だ。
もうすぐ日が昇ったとき、街全体が薄紫色に染められて、きっとそれはとても幻想的な光景に違いない。
でも、それをのんびり眺めているヒマはきっとないだろうけど。

戦線の南下に伴って、俺たちの駐屯地も、更に南にある街に移されることになった。
この街はおそらく、今日か明日にも陥落してしまうとの見通しが強い。

なんだかんだ言っても、自分の軍隊が劣勢なのはなんだかやりきれない気持ちだ。
俺だってそこそこ一生懸命にやってるつもりなんだけどな。
だけど、一介の兵士がめっちゃ頑張ったってどうにもならないのが、戦争ってもんだ。
勝ち負けっていう観点から考えると、ちょっと悔しいのは事実。
一番の願いは、当然戦争の終結なんだけど、それが俺たちの敗北っていう形で成るんだとしたら、ちょっと納得いかない気持ちにもなる。
しかしまぁそれは、その時、生きていられたらの話だとは思うんだけどね。

どんな風に俺が頭でごちゃごちゃ考えたって、今ここに戦争はある。
俺にできることは、今この場をどうやって生き残るかちゃんと考えることであって、それは他の連中も一緒で、お前だって一緒。
俺みたいな所詮下っ端が、自分自身の人生についてできることはその程度なんだと思ってしまう。

努力すれば誰だって頂点に立てるなんて、頂点の人間の思い上がりでしかない。
資本主義経済の発展に伴って、人間の倫理観は封建社会の時代よりはマシになってるとは思うけど、それでもまだまだピラミッド型の身分構造ってやつは根本的に覆されてはいないんだと思う。
俺たちはいつまでも底辺、それは実は頂点の人間が意図的にそうさせてるからで、しかもタチの悪いことに、表向きは「努力すれば誰だって頂点に立てる構造」ってことになってるから(そして極々まれに、本当に頂点に立っちゃうやつが出ちゃったりするから)、どんなに頭がよくても、どんなに運動神経が優れていても、下層の人間はいつまでもそれと気付かずに下層をウロウロする羽目になってしまうわけだ。
それはきっと、俺たち全員が幼子の頃から「人生の目的は金持ちランキングの一位になること」というたった一つだけのお題目を、それと気付かないうちに刷り込まれているからで、その刷り込みさえどうにかできりゃ、きっと下層だろうが頂点だろうがどうでもよくなるんだろうなぁとは思うんだけど、生きるためにはやっぱり金がいるからな。
あと住むところとか、心の居場所とかそういうのも。
結局そのために、多くの人が下っ端役を甘んじて受け止めているから、ピラミッドはいつまでもなくならないし、そういう意味で、この構造は人類の役には、ある程度立ってしまっているのかもしれない。
・・・だけど戦争はやっぱり好きじゃないよ。
人が死ぬのも。

夜明けだ。
昼頃にはこの街の雪が、血と泥で醜く濁るのだろうか。
その血の中には、俺のものだって含まれているかもしれない。
俺は実際に銃を手にとって戦うわけじゃないけど、死と隣り合わせなのはみんな一緒だ。
死にたくねぇよ。

早々


「ニンゲンのトリセツ」著者、リリジャス・クリエイター。京都でちまちま生きているぶよんぶよんのオジサンです。新作の原稿を転載中、長編小説連載中。みんなの投げ銭まってるぜ!(笑)