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念願の豊島美術館でいのちを感じる空間を楽しむ

私のバケットリストには、「豊島美術館にいく」という項目があります。2年前、瀬戸内芸術祭で豊島を訪れたときには、予約必須と知らず入れなかったのです。自分の準備不足さを悔やみました。

そのときから、豊島美術館という言葉がやたらと耳に入るようになりました。ついに仲の良い友人が「今までで一番好きだったかも」と言い始めるほど。そんな念願の美術館に行ってきた話です。

宇野に前泊して、8時40分の小型船で島へ。「小型船ですか、フェリーですか」とタクシーの運転手さんに聞かれて、時刻表の「旅客船」と「フェリー」の違いがわからなかったわたしたちは、きっとフェリーだよね、と乗り場に。

結局間違っていて、チケット売り場で「ここじゃないよお」と言われてしまいました。小型船の乗り場は離れていて、走ることになりました。

そんなこんなで朝から走りながら着いた豊島。着いた時にははらはらと雨が降っていて、港の駐輪場で少し雨宿りをしました。

タクシーを呼ぼうかと電話したけれど、「そこからなら歩いて行ったほうがいいよ〜」とやんわりお断りされて、そうこうしていると雨は止みました。唐櫃港から徒歩で15分ほど、キャリーケースの友人と一緒にゆっくり美術館まで歩くことにしました。

10時の開門直前の景色。そういえば私は、事前情報はほとんどないままここに来ました。展示がひとつしかないとは聞いているけど、それって絵が1枚なのかな、なんて思っていた私が今では懐かしいです。

ネットで事前予約したQRコードを見せて、紙のチケットを受け取ります。館内は撮影禁止なので、屋外の景色だけですが、すでに自分がアートを感じている気持ちになる開放感です。

チケットセンターから展示室への道は屋外です。人工物から少しずつ離れて、海と空とみどりに目が慣れていきます。思わず伸びをするほど、良い日差しが出てきました。

展示室まで森を進むと、ぽっかりあけた木の隙間から一面の海が見えます。今日の海、どこまで海かわからないね。本当に水彩画のような海と空。そんな話をしながらゆっくり歩みを進めました。

展示室の入り口はほら穴のようです。靴を脱いでスリッパに履き替え、注意事項を聞きました。

「展示物は水滴やちいさなお皿や玉なので、足元に気をつけてください。」

率直に、どういうことなんだろうかと不思議に思いますが、入ってみてすぐに謎が解けました。

コンクリートのひんやりとした影の空間には、水がひと塊り丸い光をたたえていて、それがゆるゆら、スルスル、ぽてんと動き、光をゆらめかせ、動いたり静止したり生まれたり消えたりしているのです。

あるところで水が湧き出て、連結して重くなると動いていき、大きな泉のように、みずたまりのようになって、てれてれと金属音をたてて落ちてゆく。生命がプログラムされているように動くそれを、飽きることなく見つめていられました。

館内の静かな動きに気を取られ、すっかりと冷えてしまった私たちは、カフェとショップへ。ここで柑橘のお茶を飲み、そして欲望に負けてアイスも食べました。展示室と同じように、自然光が差し込む美しい空間です。

なんて不思議な展示なんでしょう。絵画もなく、工芸品もなく、そこには水滴とちいさな白のモチーフだけ。あとは丸く切り取られた屋根から、まるい光が差し込む、その変化。

けれども、コンクリートのかたまりなのに、外と一体化して鳥の声がいっぱいに響き、水が流れ続けるそこには、あきらかな命を感じるのでした。

みんながそこで思い思いの観察をして、座ったり、目を閉じたりします。そんな美術館がここにあることを体感できてとてもよかった。

とてもおすすめです。できれば朝一番の人が少ないときにゆっくり鑑賞してみてください。


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