ある日、麦わら屋のメンバーで車に乗っていたとき、どんな流れだったか「子どものころの将来の夢」が話題になった。 遠い遠い記憶を手繰り寄せるように、私は「絵描き屋さん」というかつての夢を思い出した。小さいころは「絵を描くのが好き」という至極シンプルな動機を、ちゃんと大切にしていたんだよなあ、と思う。 一方で古澤さんは、はっきりとした声で「私の夢はラジオパーソナリティでした」と答えた。 そう、古澤さんは生粋のラジオ好き。帰りの送迎車の中でも、ずーっとラジオのフレーズを暗唱して
自分には、決定的に足りないものが2つある。「方向感覚」と「遊び心」だ。突然の自分語りで申し訳ない。 前者はなかなかの重症だと思う。ついさっき通った道なのに、元来た方向が分からない。地図アプリなしではどこへも行けないし、使っていたとしても、なぜか迷ってしまう。自分でも謎だ。 後者に関しては、麦わら屋の利用者さんたちと接しているときに痛感する。「こうあるべき」という価値観が強すぎて、反省することもしばしば。とあるカウンセラー的な人には「君には本当にあそびがないね!」とバッサリ
麦わら屋を代表する作家のひとり、長谷川さんは、不規則で曲線的な模様を描く。まばらだけど、どこかストーリーを感じるような作品。不思議な迫力があって、なんだか圧倒されてしまう。 一方、制作風景はとてもなごやかだ。高い声と独特なリズムで、何かをつぶやきながら作業する。少し耳を澄ませてみると、童話「大きなかぶ」の一節や、「おさかなが食べたい」といった言葉が聞こえてくる。周りの人の会話を、小さな声で反芻していることもある。ひとりごとと音楽のはざまぐらいの、心地よい旋律。私は、この
ネットで色々な情報が得られる時代。高校生のころはよく地域の図書館へ通っていたけど、大人になってからすっかり遠のいてしまった。図書館のすごさを再確認したのは、麦わら屋メンバーのお出かけについていくようになってからだ。 メンバーの過ごし方は十人十色。絵本コーナーに腰を下ろし、文字を指さしながらじっくり読む人。視聴覚コーナーを満喫する人。スポーツ新聞や、旅行ガイドを読み漁る人。わりと早い段階で飽きて、歩き回る人。私は、この時間がとても好きだ。その人が手にとった本のタイトルを見
気づいたら、最後の更新から1か月以上たっていた。言い訳すると、なぜか急に書けなくなってしまったのだ(他の仕事がたまっていたのもあるけど、それだけではない)。うまく言えないけど、「彼らの日常を面白がる自分って、いったい何なんだ」という感じで、文章を書くことに少し罪悪感を抱いてしまった。 麦わら屋に来て約8か月がたち、「外からやってきて、片足をつっこんだ人」から「週に数回通う、中の人」になりつつあるのだと思う。境界線が曖昧になると、ちょっと書きづらくなるのかもしれない。この件
麦わら屋の作家のひとり、篠田さんを紹介したい。彼はあまり言葉を発さず、大きな体をゆっくりゆっくり動かす。歩くのもゆっくり、食べるのもゆっくり。時折ニヤッとしながら辺りを見回したり、よく分からないところでツボにはまって「クックックッ」と笑ったりする。しかも、なぜかこちらの顔を見てクックックッとなることがある。「ちょっとぉ~失礼しちゃう~」と応じると、またクックックッと笑う。篠田さんの周りにはゆったりとした時間が流れていて、私はいつも勝手に癒されている。 篠田さんは、多くの
小野塚さんは、車に乗るのが大好きだ。いや、ちょっと違うかもしれない。乗るのが好きなのか降りるのが嫌いなのか、実際のところよく分からない。麦わら屋の駐車場に無施錠の車があれば、すかさず乗り込む。お出かけした際は、なかなか車から降りない。環境の変化が嫌で車に残るのかなとも思うけど、ささっと降りるときもあるし、私にはまだよく分からない。 もう一つ、小野塚さんは自身の行動を「マル」や「バツ」と評価することがある。例えば、トイレをきれいに利用できたら「マル」。調子が良いときは「ハ
昨年12月末、麦わら屋恒例のボウリング大会に初めて参加した。多くのメンバーが楽しみにするビッグイベントのようで、春田さん(前回note参照)に関しては11月上旬から「ボウリング行く?」と周りに聞いて回っていた。開催2週間前ぐらいになると他の人もソワソワしだし、「今年は優勝するぞ」と気合いを入れる人もいた。ちなみに箱折り作業が大好きで、休み時間も我慢できずに折ってしまう佐藤さんとは、作業中に以下のような会話をした。 佐藤さん:来週はボウリングだね。楽しみ。原さんも行くの?
「めんたいパーク、行く?」。近くにいる職員やメンバーをつかまえ、ニコニコしながら質問する。春田さんの日々のルーティンだ。たいがい「行かないよ」と一蹴されるのに、めげずに1日20回はこの質問をしている。元記者として、このガッツは見習いたいとすら思う(もしかしたら春田さんは、何か答えを求めているわけではないのかもしれない。本人にとっては、質問することに意味があるのかな、と思ったりもする)。 何度も質問されるうちに、めんたいパークってどんな場所だろうと気になり、調べてみた。ホ
麦わら屋メンバーの古澤さんは、とにかく体がでかい。そして声もでかい。毎朝9時半に行われる職員の朝礼をめがけて、「おはようございます!!!」と声を張り上げる。こちらの反応が薄いと「もう一度、おはようございます!!!!」と気合を入れ直し、職員も負けじと「おはようございます!!!」と応じる。麦わら屋へ見学にやってきた人のことは「お疲れさまです!!!」と迎え入れるし、外でもあいさつを欠かさない。 麦わら屋では週に数回、一部メンバーで公園や博物館、図書館へ出かける。これがとにか
題名の通りです。新卒から7年勤めた通信社を辞めて、群馬県に引っ越し、前橋市のNPO法人「麦わら屋」でアルバイトを始め、約5か月がたちました。現在はフリーライターも名乗っています、原菜月と申します(ちなみに通信社というのは、新聞などの媒体に記事を配信しているマスメディアです)。 麦わら屋はいわゆる障害福祉サービス事業所で、障害がある人たちが働いたり、日々を過ごしたりしています。内職や畑作業、めだかの飼育、豚肉加工、アート制作など、活動は多岐にわたります。中には疲れて昼寝し