日記代筆サービス(※後半にお知らせあり!)
麦わら屋を代表する作家のひとり、長谷川さんは、不規則で曲線的な模様を描く。まばらだけど、どこかストーリーを感じるような作品。不思議な迫力があって、なんだか圧倒されてしまう。
一方、制作風景はとてもなごやかだ。高い声と独特なリズムで、何かをつぶやきながら作業する。少し耳を澄ませてみると、童話「大きなかぶ」の一節や、「おさかなが食べたい」といった言葉が聞こえてくる。周りの人の会話を、小さな声で反芻していることもある。ひとりごとと音楽のはざまぐらいの、心地よい旋律。私は、この旋律をこっそり聞くのが好きだ。
そんな長谷川さんには、絶対に欠かさない日課がある。午後2時の休み時間に、その日の日記を書くのだ。だいたい「今日は〇〇の絵を描きました」「お昼(休み)は、〇〇のDVDを観ました」といった記録なのだが、自分で書くわけではない。職員にノートとペンを渡し、代筆を頼むのだ。
しかもどの職員が代筆するかは、長谷川さんがその日の気分で決める。ノートとペンを持ってこられた時は、「今日は選んでもらえた!」と嬉しくなる。反対に「長谷川さん、私ノート書きましょうか~」と声をかけても、ふいっと別の職員のもとへ行かれてしまうこともある。さみしい。
ちなみに長谷川さんは、よく助詞を言い間違える。例えば「〇〇のDVDを」ではなく、「〇〇をDVDを」と言う。最初のころは、こちらで修正したほうが良いのかなあと迷った。でも最近は、本人の言った通りに書く。これは彼の日記であり自己表現なのだから、こちらは代筆に徹しよう、と思うようになったからだ。私はどうしても正しさを追い求めてしまう性格なのだが、この「日記代筆サービス」は、ちょっと立ち止まる機会をくれた。
実は長谷川さんは、作品に日記のようなタイトルをつける。「〇〇くんと〇〇のDVDを観ました」とか、「動物園へ行きました」など、抽象的な絵柄とは対照的だ。「タイトルの〇〇くんって、絵のどこにいるの?」と聞いても、長谷川さんは曖昧に指をさすだけ。しかも指さした箇所に、人物らしきものは見あたらない。
この「本当のところは本人にしか分からない」感じ、たまんないなあ、と思う。日常の出来事と非日常的な作品は、本人の中で何かしらリンクしているのかもしれないし、タイトルはただの思いつきかもしれない。それも含めて、長谷川さんの作品なのだと思う。
そんな長谷川さんの絵を見られる機会が、5月下旬にある。なんと麦わら屋が、群馬県高崎市のイオンモールで展示会を開くことになったのだ!
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【一緒にいることが当たり前だ!!!!!展】
2023年5月24日(水)~28日(日)
イオンモール高崎2F イオンホール
10:00~17:00(最終日は16:00まで)
入場無料
長谷川さんを含む作家22人の作品が展示されるほか、麦わら屋のグッズ販売やワークショップ、体験型メディアアートなどを楽しめます。ぜひお越しください!
(文:広報スタッフ/ライター 原菜月)
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