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とっかかりコミュニケーションの秘訣
気づいたら、最後の更新から1か月以上たっていた。言い訳すると、なぜか急に書けなくなってしまったのだ(他の仕事がたまっていたのもあるけど、それだけではない)。うまく言えないけど、「彼らの日常を面白がる自分って、いったい何なんだ」という感じで、文章を書くことに少し罪悪感を抱いてしまった。
麦わら屋に来て約8か月がたち、「外からやってきて、片足をつっこんだ人」から「週に数回通う、中の人」になりつつあるのだと思う。境界線が曖昧になると、ちょっと書きづらくなるのかもしれない。この件はまたじっくり考えたい。
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麦わら屋で過ごしていると、利用者さんたちとのコミュニケーションに悩むことがある。でも同じぐらい、いやもしかしたらそれ以上に、彼らのコミュニケーションスキルに感心してしまうことがある。特にうまいのが、人と話すときの「とっかかり」の作り方。私は脳内で勝手に「とっかかり術」と呼んでいる。
例えば、森さん。主にアート班で活動していて、特に立体の作品を作るのが抜群にうまい。毎日粘土をこね、黙々と作業している。本人いわく、頭の中で「ここをこうすれば、だいたいイメージ通りになるな」という計算をしているらしい。
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森さんのとっかかり術は、相手によって違う。たとえば代表の小野さんには、「小野さんだよ~」と話しかける。これに小野さんは「森さんだよ~」と応じ、そのまま雑談する。のほほんとした空気が流れる、不思議な挨拶だなあ、と思う。
実は最近、私にも森さんとの「とっかかり挨拶」ができつつある。森さんは優しいので、ときどき「原さん、かわいいですね」と言ってくれる。最初は照れくさくて「げへへ、そんなことないですよ~」と返していたのだが、自分でその返事に飽きてきたので、この間ふと「森さんのほうがかわいいですよ~」と言ってみた。すると森さんが「いや、原さんのほうがかわいい」と返してきたので、私も「いやいや、森さんが」と続けた。私たちは半笑い状態でしばらく褒め合っていたのだが、最近これが恒例になりつつある。ちょっとした化学反応で独自のコミュニケーションが生まれるのは、とても面白い。
杉本さんも「とっかかり挨拶」がうまい。彼は食べることが大好きで、職員に「きのうの晩ご飯、何食べた?」と質問してくる。「チンご飯にキムチ」という、超手抜きな献立を正直に打ち明けても、杉本さんは「うんうん」とニコニコしながらうなずいてくれる。私も杉本さんが食べた晩ご飯を聞いて、少しずつ話を膨らませる。ほぼ無条件に幸せな気分になれる話題をツールにして、杉本さんは周囲とコミュニケーションを取っているのだ。
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周囲と一定のコミュニケーションを取ることで、自身のペースを守っている人もいる。赤井さんも、おそらくその一人。毎朝出勤してきたタイミングで、職員のSさんに帰宅時間を質問する。質問も答えも、毎日同じ。このルーティーンがコミュニケーションになっているのだなあと思うけど、時々突拍子のない質問もされるから、笑ってしまう。この間は「原さん、昔金髪だった?」と聞かれた。麦わら屋に来た当初、金髪だったのを覚えているのだ。
障害がある人とどう接すれば良いか分からない、と戸惑う人は多いかもしれない。私もそうだったし、今でも戸惑うことが多々ある。でも、安心してほしい。麦わら屋には「とっかかり」を作ってくれる人がたくさんいる。来てしまえさえすれば、何かしら関わりが生まれる。今回は言葉のやり取りについて書いたけど、非言語コミュニケーションもたくさんある。とにかく、ぜひ一度遊びにきてください。
(文:広報スタッフ/ライター 原菜月)
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