雲を食べる者

貿易会社経営を経て現在は投資家です。西洋近代哲学と宗教思想を研究しています。日本哲学会…

雲を食べる者

貿易会社経営を経て現在は投資家です。西洋近代哲学と宗教思想を研究しています。日本哲学会で発表経験があります。

最近の記事

『日本刀に宿るもの』完

    希望の朝  一樹は庭で鬼神丸の刀を手に取り、日の光の中でその輝きを確かめた。その刃紋は一層鮮やかに、まるで新たな生命を得たかのように輝いていた。  その時、妻の美咲が庭に出てきた。彼女は一樹の側に寄り添い、穏やかな微笑みを浮かべた。  「鬼神丸がこんなに美しく輝くなんて。本当にすごいわ」  一樹は妻の言葉に応え、深い感謝の念を込めて彼女を見つめた。  「ありがとう、美咲。君がいてくれたから、僕はこの刀の謎に挑むことができたんだ」  美咲はそっと一樹の手を

    • 『日本刀に宿るもの』9

        鬼神丸と向き合う  日本刀作りと杉田の教えにより、精神的に成長した一樹は、鬼神丸信俊の刀と本格的に向き合う決意を固めた。自宅に戻った彼の心に、迷いはなかった。  「これからが本当の始まりだ」  その朝、一樹は自室で鬼神丸を取り出した。朝の光りの中で、刀身が静かに輝く。その刃紋は嵐の前の入道雲のように見えた。  一樹は杉田の教えを思い出していた。  「刀は持ち主の心を映し出す鏡のような存在だ。お前は私に何を伝えたいのか?」  心の中で問いかけると、一樹はあるビジ

      • 『日本刀に宿るもの』8

          名刀とは何か  数週間が過ぎると、一樹の心には少しずつ変化が現れ始めた。杉田の道場で学ぶうちに、彼の心は不安から解放され、日本刀に対する新たな視点と深い敬意を抱くようになった。  ある日、杉田は一樹に一振りの短刀を見せた。それは杉田の常の作風とは違い、穏やかな直刃だが、地鉄は秋水のように透き通り、精霊のように美しかった。  「この短刀は、私が自分の守り刀として作ったものです。この短刀を見て、何か感じることはありますか?」  一樹はその短刀を手に取り、その純粋さに驚

        • 『日本刀に宿るもの』7

            鍛練場で  杉田善昭の鍛練場を訪れた一樹は、そこが単なる作業場ではなく、聖域のような場所であることを感じ取った。神棚が祭られ、壁には古今の名刀の押し型が整然と貼られている。そこには杉田の長年の努力と情熱が凝縮されていることが一目でわかった。  杉田は一樹を迎え入れ、道場の奥にある作業台の前に座らせた。  「まずはあなたの刀を見せてください」  一樹は鬼神丸を取り出し、杉田に手渡した。彼は慎重にその刀を見つめ、細部まで注意深く観察した後、深く息をついた。  「この

        『日本刀に宿るもの』完

          『日本刀に宿るもの』6

            運命の出会い  一樹はさらなる手掛かりを求めて、各地の古書店や刀剣展覧会を巡っていた。    その展覧会は東京の大規模な美術館で開催されており、多くの刀剣愛好家たちが訪れていた。古刀から現代刀までの名品を集めた一大イベントである。一樹もその中に混じり、展示されている刀剣の数々を見て回った。  一樹が現代刀匠の作品が展示されているコーナーに足を踏み入れた瞬間、その場の空気が変わったように感じた。目の前に展示されている一振りの刀は、他の刀とは一線を画した美しさと力強さを放

          『日本刀に宿るもの』6

          『日本刀に宿るもの』4

               鑑定家の話  遠州の歴史資料館を訪れた後、一樹は鑑定家の増田修司を訪れた。増田は鑑定家であるに止まらず、日本刀全般について該博な知識を持っていた。  「増田先生、鬼神丸信俊の刀は妖刀なのでしょうか?」  増田は慎重に考えた後、静かに語り始めた。  「鬼神丸信俊は非常に優れた刀鍛冶であり、彼の作品はその美しさと切れ味で多くの人々に感銘を与えました。しかし、彼の生涯は波乱に満ちており、その苦悩が彼の刀に影響を与えたと言われています。彼が作り出した刀の中には、そ

          『日本刀に宿るもの』4

          『日本刀に宿るもの』3

            調査  一樹はまず、信俊について調べることにした。彼は各地の古書店や資料館を訪ね歩いた。刀剣に関する文献を読み漁り、専門家たちに話を聞くことで、何かを得ようとした。  一樹は埼玉にある古書店刀夢を訪れた。そこには、日本刀に関する希少な書籍や資料が数多く揃っており、一樹の探し求める情報が見つかるかもしれないと思ったのだ。  店主の山田は、一樹の熱心な姿勢に感心し、貴重な資料を見せてくれた。  「この書物には、江戸時代に活躍した刀鍛冶の記録が載っています。あなたが持つ

          『日本刀に宿るもの』3

          『日本刀に宿るもの』5

              魔境  一樹が鬼神丸を手に入れてから数か月が過ぎた。彼の周囲で起こる不可解な出来事は増え続け、彼自身の心にも変化が現れ始めた。夜になると、眠れない日々が続き、奇妙な悪夢に悩まされるようになった。夢の中で、彼は刀を振りかざし、何かから逃げ惑う自分を見ていた。  「この刀、やっぱり手放した方がいいのかな?」  一樹は自問自答しながらも、鬼神丸の美しさに魅了されていた。彼はこの刀に宿る力の謎を解き明かしたいという思いから、手放すことができなかった。  そんなある日

          『日本刀に宿るもの』5

          『日本刀に宿るもの』2

            妖刀  不吉な予感を抱えながらも、一樹は鬼神丸信俊の魅力に引き込まれていった。夜になると、鬼神丸を手に取り、その激しい地刃を鑑賞することが習慣となった。すると、手にするたびに、心の奥底から何かが囁くような感覚が広がった  最初の兆しは小さなものであった。  ある晩、一樹が刀を手にしていると、手のひらに小さな切り傷ができていることに気づいた。最初は油を拭き取る際にうっかり刃に触れてしまったのだと思っていたが、その後も同じことが繰り返されるようになった。刀を見つめるだけで

          『日本刀に宿るもの』2

          『日本刀に宿るもの』1

           この物語はフィクションであり、実在の個人、団体、刀剣とは無関係である。    あらすじ  愛刀家である田中一樹は、日本刀の美しさとその歴史に深い敬意を持っている。ある日、刀屋で奇妙なオーラを放つ刀を手に入れ、その刀が彼の心に不吉な感情をもたらすようになる。不安の中で一樹は、伝説の現代刀匠と出会い、真の名刀とは何かを学ぶことになる。   刀への愛   東京の繁華街から少し離れた街並みに、ひと際目を引く一軒の刀屋があった。想剣堂というその店は、日本刀を専門に扱っており、

          『日本刀に宿るもの』1

           日本刀にまつわる不思議な話

           刀が祟るという事はないと思うが、日本刀は見る者の意識に強い影響を与えるのは確かだ。  刀に興味がない人でも博物館で日本刀を見ると引き込まれるような気がすると言うし、そもそも芸術には人の意識を日常とは別の次元に導くという目的がある。また近年、光の点滅が脳に影響を与え、気分が悪くなったり癲癇の発作を起こしたりする事例が知られるようになった。古くは催眠術において、宝石や万華鏡のようなキラキラ光る物体を長時間見つめていると顕在意識の働きが弱まり、潜在意識が優位になるという事がよく

           日本刀にまつわる不思議な話

          『不老不死の檻』完

              新たな旅立ち  ニューララインの事件から数ヶ月後、ジャックはその実績と影響力を認められ、スペースZの火星都市計画CEOに就任することとなった。スペースZは火星都市建設を推進しており、人類の未来を宇宙に拓くことを目指していた。ジャックは、この新たな挑戦に胸を躍らせた。  巨大なロケットが静かにその威容を見せる宇宙センター。周囲には最後の点検を行うエンジニアたちの忙しげな動きがあり、発射を待つ緊張感が漂っていた。遠くに広がる地平線には朝日が差し込み、未来への希望を象

          『不老不死の檻』完

          『不老不死の檻』7

            裁判の日  法廷へと続く石畳の道を歩くジャック、サラ、リンダの三人。彼らの足音は、重い決意と覚悟を反映して、静かに響いていた。雲ひとつない青空が広がる中、正義の時が訪れようとしていた。  ジャックは先頭に立ち、しっかりとした足取りで歩いていた。彼の顔には決意と冷静さが漂っていた。ニューララインの実験によって得た新たな力と知識が、彼に自信を与えていた。かつての被験者から正義の代弁者へと変わった彼は、アーロンを裁く瞬間を待ち望んでいた。  ジャックは心の中で、戦場での経

          『不老不死の檻』7

          『不老不死の檻』6

              対決  ジャックは、アーロンの冷たい視線を感じながら、ニューララインの能力が脳内で全開になるのを待った。微かな電子音が耳元で響き渡り、視界が一瞬でクリアになる。  「やってみろ、ジャック」  アーロンが冷酷に言い放った。  警備員たちは銃を構え、一斉にジャックに向けて狙いを定めた。その瞬間、ジャックの世界はスローモーションのように変わった。彼の脳は瞬時に状況を分析し、最適な行動パターンを計算した。  ジャックは一瞬で警備員の一人に向かって飛びかかり、彼の腕

          『不老不死の檻』6

          『不老不死の檻』5

            秘密のアジトで  ジャック、サラ、リンダが集まっている。彼らはアーロンが広めた誤情報を打ち破るための計画を立てている。  サラが鋭いまなざしで口を開く。  「アーロンはメディアと政府の一部を操作して、自分の計画を正当化している。私たちが持っているデータを公開すれば、彼の嘘を暴くことができるわ」  ジャックは不安げに応える。  「しかし、公開するだけでは不十分だ。アーロンの影響力は強大だ。確実な方法で証拠を広める必要がある」  「それなら、ニューララインの中枢か

          『不老不死の檻』5

          『不老不死の檻』4

              取引  ホログラムのアーロンは自信満々の笑みを浮かべながら言う。  「ジャック、サラ、リンダ。君たちは私の計画を阻止しようとしているが、私にはもっと良い提案がある」  「何を企んでいるんだ、アーロン?」  アーロンは冷静に答える。  「ジャック、君の能力は素晴らしい。私たちは対立するべきではない。協力することで、より大きな目標を達成できると思わないか?」  アーロンは微笑む。  「君たちがここに来た理由は理解している。しかし、戦うよりも協力する方が賢明

          『不老不死の檻』4