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『日本刀に宿るもの』4

  

  鑑定家の話

 静岡の歴史資料館を訪れた後、一樹は鑑定家の増田修司を訪れた。増田は鑑定家であるに止まらず、日本刀全般について該博な知識を持っていた。

 「増田先生、鬼神丸信俊の刀は妖刀なのでしょうか?」

 増田は慎重に考えた後、静かに語り始めた。

 「鬼神丸信俊は非常に優れた刀鍛冶であり、彼の作品はその美しさと切れ味で多くの人々に感銘を与えました。しかし、彼の生涯は波乱に満ちており、その苦悩が彼の刀に影響を与えたと言われています。彼が作り出した刀の中には、その怨念が込められているという言い伝えもあります」

 「どのような怨念なのでしょうか?」

 増田は一樹に目を向け、深い声で語り続けた。

 「鬼神丸の刀には、持ち主に悪影響を与える力が宿っているとされています。その力は、彼の刀を持つ者の心に影響を与え、次第に持ち主を破滅に導くと言われています。信俊自身の怒りや苦悩が、作品に宿ったのかもしれません」

 一樹はその話を聞き、鬼神丸の刀が持つ力の正体に近づいていることを感じた。しかし、彼はまだその力を完全に理解するには至っていなかった。

 「私は鬼神丸信俊を持っています。どうすれば良いでしょうか?」

 増田は真剣な眼差しで答えた。

 「信俊の作品は非常に貴重であり、手に入れるのは容易ではありません。手放せば二度と手に入れることはできないでしょう。信俊を持っている人から話を聞くことで、より多くの情報が得られるかもしれません」

 そして一樹に、信俊を所有する愛刀家を紹介した。

  愛刀家の話

 増田の紹介を受けて、一樹は愛刀家の井上一成に会った。

 「井上さん、鬼神丸信俊の刀について詳しく知りたいのです。特に、その刀が持つ不吉な力ついてお聞きしたいと思っています」

 井上は一樹の言葉に深く思索しながら、話し始めた。

 「確かに鬼神丸信俊の刀には特別な力が宿っています。私が持っている信俊にも、そんな力を感じます」

 井上は、自らの経験を語り始めた。

 「私は数年前に信俊を手に入れたのですが、それからというもの、奇妙な出来事が続いています。刀を手に取って眺めていると、突然部屋の中の温度が急激に下がるとか。それだけではありません。ある日のこと、友人が家に訪れた際に、信俊を見せたのですが、彼は突然不機嫌になり、帰ってしまいました。それ以来、彼とは疎遠になっています」

 井上は続けた。
 
 「私自身も孤独を感じるようになりました。友人や家族との関係もおかしくなり、いつの間にか誰も寄り付かなくなってしまいした。信俊の不吉な力が原因だと思います」

 その話を聞いて、一樹はますます鬼神丸の持つ力について興味を抱いた。

 「井上さんは、その刀を手放すことは考えたことはありませんか?」

 「もちろん考えました。でも、不思議なことに、手放そうとすると、強い抵抗を感じるんです。まるで刀が私に対して、『手放すな』と言っているかのように」

 井上は苦笑しながら答えた。

 「私は愛刀家として、この刀と向き合うことを決意しました。信俊の刀には、持ち主の心を試す力があると感じたからです。この刀を持つことで、自分自身の心の強さが試されているような気がするんです。『俺を超えてみろ』と」

 井上の話を聞いて、一樹は鬼神丸の刀が持つ不吉な力と、それを超えるための強さについて深く考えるようになった。

続く



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