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『日本刀に宿るもの』3


  調査

 一樹はまず、信俊について調べることにした。彼は各地の古書店や資料館を訪ね歩いた。刀剣に関する文献を読み漁り、専門家たちに話を聞くことで、何かを得ようとした。

 一樹は埼玉にある古書店刀夢を訪れた。そこには、日本刀に関する希少な書籍や資料が数多く揃っており、一樹の探し求める情報が見つかるかもしれないと思ったのだ。

 店主の山田は、一樹の熱心な姿勢に感心し、貴重な資料を見せてくれた。

 「この書物には、江戸時代に活躍した刀鍛冶の記録が載っています。あなたが持つ刀がその中に含まれているかもしれません」

 一樹はその書物を手に取り、慎重にページをめくった。やがて、彼の目に留まったのは「鬼神丸」という名前だった。

「鬼神丸.. これです!」

 山田はその名前を見て、重々しく語り始めた。

 「鬼神丸信俊は江戸時代末期に活躍した刀匠で、その作品は非常に高い評価を受けていました。しかし、彼が作った刀には不吉な力が宿っているとされ、妖刀と呼ばれることがありました。彼自身、辻斬りに遭って殺されています。あなたの持つ刀にも、その力が宿っているのかもしれません」

 一樹はその話を聞いて、ますます興味をそそられた。鬼神丸がどのような人物であり、なぜその刀が不吉な力を持つとされているのかを知りたいと思った。

 「信俊の生涯について、もっと詳しく知ることはできませんか?」

 山田は少し考えた後、答えた。

 「鬼神丸信俊について詳しく知るには、彼の故郷である遠州(現在の静岡県西部)の歴史資料館を訪れるといいでしょう。そこには彼の生涯や作品について詳しく記録されている資料があるかもしれません」

 一樹はその情報を得て、すぐに静岡へ行くことにした。彼は鬼神丸の故郷を訪れ、その生涯や作品について詳しく知ることで、妖刀の謎を解き明かす手がかりを見つけたいと考えたのだ。

  地元の歴史資料館にて

 静岡に到着した一樹は、地元の歴史資料館を訪れた。館長である山崎洋平は、一樹の訪問を歓迎し、鬼神丸について詳しく説明してくれた。

 「鬼神丸信俊は非常に優れた刀匠であり、その作品は高く評価されています。しかし、彼の作った刀には不吉な力が宿っているとされ、それが原因で彼の生涯も波乱に満ちたものとなったようです」

 山崎は話を続けた。

 「信俊の作った刀には、不思議な力が宿っていると言われています。伝説によれば、彼の魂がその刀に宿り、その力が持ち主に不幸をもたらすそうです。鬼神丸自身もその影響を受け、生涯を通じて多くの試練や困難に直面しました。最期は辻斬りに遭って死んだと伝えられています。誰かの恨みを買っていたのかもしれませんね」

 一樹はその話を聞き、鬼神丸の刀が持つ力の正体に少しずつ近づいていることを感じた。

 一樹は言った。

 「信俊の作品が持つ不吉な力を解き明かすためには、彼がどのような思いでこの刀を作ったのかを知る必要がありますね」

 山崎は深く頷いた。

 「そうです。田中さん。信俊が刀を作る際には、彼の心の中に深い情念があったと思われます。彼は常に完璧を追求し、その過程で多くの苦悩を抱えていました。その苦悩と情念が刀に宿り、それが不吉な力となって現れたのではないでしょうか」

 一樹はさらに尋ねた。

 「信俊について、他に何かご存知ですか?」

 山崎は少し考えてから答えた。

 「鬼神丸信俊は、大慶直胤、細川正義、源清磨、という、3人の師匠に就いたと伝えられています。研究熱心だったとも言えますが、我が強く、他人に従うことを嫌う性格だったのではないでしょうか。そのため、彼が師事した一門の刀鍛冶たちから、嫌われていたようです。独立後も数々の妨害を受けました。悪い噂を流され、旗本や上級武士の注文を受けることができませんでした。彼は孤立し、困窮しました。その辛い思いが刀に宿ったのではないでしょうか」

 一樹は山崎の話を聞き、信俊は理想を追求する気持ちが強く、そのため周囲と軋轢を起こすことがあり、孤独だった、さらに幕末の物情騒然たる時代に直面し、その中で感じた苦悩や怒りが作品に込められているのだと思った。

続く



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