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【小説】林檎の味(十九)

 無機的な風景が広がる郊外。国道は家路を急ぐ家畜の群れのような車で渋滞気味だ。そのすぐわき、ポプラの大木に守られた緑地と創成川の流れは、小さなオアシスのよう。並木道はまっすぐまっすぐ北に延びる。夕日に照らされながら、言葉もなく歩くカオルとカオリの遠景。しつこく居座る足元の残雪に、二人の長い影が落ちる。大きなチェロケースを背負い、足を引きずり引きずり歩くカオル。その一歩先をいたわるように歩むカオリ。カオリは林檎をほおばっている。
 「先に行けよ」
 「早く帰ったっていいことないもん」
 カオリは不意に振り返って食べかけの林檎をぽんと放る。カオルははっとして胸でそれを受ける。二人の横を一台の自転車がさっと通り過ぎる。カオルはがぶりと林檎にかじりつく。カオルの口の中にじわっと広がる強い酸味――カオルの脳裏に幸福だった子ども時代の記憶がよみがえる――。

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