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2020年2月の記事一覧
この話は無かったことに
ある男についての話。
この男の過去については語られない。なぜなら、そんなものは無いからだ。過去を持たない男。そんなものが存在しうるだろうか?子どもであったことも、学生であったこともなく、突如この世に現れた男。あるいは、男自身が過去を語ることもあるかもしれない。貧困家庭に生まれ育った、権力を憎む男。富裕層の家庭で何一つ不自由なく育ち、教育と教養を身につけた男。その他さまざまな過去を、男は持って
あなた自身を所有するということ
「わたしの父は」と彼は言った。「彼自身を所有したということがありませんでした」
外は激しい吹雪だった。道路という道路は封鎖され、乗るつもりだった長距離バスは運休となった。それで身動きとれなくなって、終夜営業のレストランに逃げ込んだという次第だ。終夜営業、といったところで、従業員たちもきっと大雪に足止めされたのだろう。近場であろうと、外を出歩くのは危険だ。もちろん事前の天気予報は大雪だったから、