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ぼくのPoetry gallery

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かつて野に棲んだ詩鬼の残骸をここに記すという悪い趣味です。
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2022年3月の記事一覧

かつての詩130「マルティプルのif」

「マルティプルのif」

田村隆一の詩に触れると
僕の散文はらくがきにもならない

そもそも詩人なんていやしない
ただロマンチックに酔いしれた道化師
それだけの話だ

しかしそこに詩人はいた
詩人は言う
十代で目覚め
多くの経験をし
熟成した四十代で詩が書けると
僕にはそれだけでは足りなかった
時々心配で眠れなくなるくらいだった
しかしそれも経験らしい

だから四半世紀ぐらいで
自分の書いたものを

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詩128「プレローマ」

「プレローマ」

きっと誰も知らないような
夜更けの雨の中を
どしゃ降りの雨の中で
失意の雨の中から
おれは何を知り得て来たのか
ありふれた悲しみは痛みにも及ばない
呟いた言葉は街の排水口より海に還った
一台の車が通り過ぎたその音を耳にして気付くのは
“ 真相は汗じゃない ”
じゃあそれは涙だったのか?
夜歩くディクスン・カーかバンコランに訊ねてみたい
汗と涙に彩られた真相ならば
無慈悲なショービ

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かつての詩129「虹」

「虹」

君の想いの大半は僕には届かない
僕の想いの大半も君には届かない
それでも僕らはずっと想いを抱え
同時に僕らはずっともどかしさも抱える

君の願いの大半は神様には伝わらない
僕の願いの大半も神様には伝わらない
それでも僕らはずっと希望を掲げながら
同時に僕らはずっと絶望に怯えている

いつか翼に憧れていた時間はもういらない
僕は走れれば良かった
虹を越えた先に希望があって
虹の裏側には痛み

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かつての詩127「バスに乗って」

「バスに乗って」

バスに乗って出掛けよう
バスに乗って目的地まで行こう
あの街のことが少しは詳しくなるかもしれない

十月の土曜
柔らかな陽射しの入る窓際が眩しく
僕はバスに乗って
あまり知らない街へ行った
ありふれた日常の当り前の空間の中を
バスは規定速度で進んで行く

映り行く景色は言い訳なんかしない
ただ人の息吹が延々と受け継がれている
そこに在るだけで良い
それ以上も以下もない

バスに

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かつての詩126「螺旋階段」

「螺旋階段」

駆け上がる運命の螺旋階段は永遠に続く
だからどうした?
上り続ければ良い
それだけのこと

上ったことに価値なんかない
上っていることに意味があるんだ
諦めて逃げ出すことは出来ない
そこで立ち止まれば恥じらいが残る

もしも自分のために上れないと言うのなら
誰かを想えば良い
愛する人
大事な仲間
多くの想いの中で
君も生きていることがわかるはずだ
別に苦しいのは一人だけじゃない

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