詩128「プレローマ」

「プレローマ」

きっと誰も知らないような
夜更けの雨の中を
どしゃ降りの雨の中で
失意の雨の中から
おれは何を知り得て来たのか
ありふれた悲しみは痛みにも及ばない
呟いた言葉は街の排水口より海に還った
一台の車が通り過ぎたその音を耳にして気付くのは
“ 真相は汗じゃない ”
じゃあそれは涙だったのか?
夜歩くディクスン・カーかバンコランに訊ねてみたい
汗と涙に彩られた真相ならば
無慈悲なショービジネスなら蜜の味だと金を払うだろう
だがおれは何も知ることはない
雨のにおいが病院のガーゼみたいだと言う詩や
口づけの小さく甘い感触さえも

夜明けの雨の中を
どしゃ降りの雨の中を
バタバタと窓を小刻みに打ち付ける度に
おれは何かを祈り続けていた
真実は雨に流されて濁りながら消えてしまう
何だかわからない都合の良い信仰ばかりを振りかざし
そっと冷たく祈り続けた
跪いて耳を澄ませて
昨夜のあからさまな悪い夢みたいに
聞き入れられない願いを胸に抱いていた
いくら祈ったところで
やることやって信じるしかない徒労な事実は
昨日も今日も何一つ変わることがないだろう
そんなありふれた挿話(エピソード)は既に御存知さ
やがて降った雨も止むことだろうし
煙草に火でも点してみるか
たとえば
雨音を苦悩の旋律として


Masanao Kata©️ 2021
Anywhere Zero Publication©️ 2022

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