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行動科学で考える人材採用~偶然を期待する採用からの脱却―「名人芸」から「科学的」へVol.5(1/4)

1.人柄のセレクションから能力のセレクションヘ~行動は繰り返される

採用面接は、先にも述べましたが、企業にとって重要な投資活動です。

ある役員の方が、「採用だけは理屈じゃない。結局は“勘”を頼るしかない。もし根拠や理由を明確にできる採用があれば、知りたいところだ」とおっしゃっていました。これは、「ビジネスの世界において、唯一偶然によるところが大きいのは、採用だ」と言い換えることができるでしょう。


一方で、企業側のこうした弱点を突くかのように、ことに学生の場合、巷(ちまた)には面接の「傾向と対策」本が溢(あふ)れかえるほど出版されており、マニュアル世代の彼・彼女らは、そこに記されたマニュアルどおりに対策を立てて面接に臨んできます。学生たちにとって採用面接はある意味で人生の分岐点の一つ。彼らだって必死なのです。

悪いのはマニュアル(安直な面接の処方箋(しょほうせん))ではなく、そんなマニユアルでも合格してしまうような“一般的な面接”のあり方ではないでしょうか。学生にとっては、採用面接を攻略するための戦略(ゲームに勝っための戦略)がある。企業側は、手の内を見られているわけです。

しかし企業側も、採用面接で、「事実に基づく仮説と判断による意思決定を行うこと」は可能です。

面接する側に求められるのは、応募者の印象や自分の経験・勘を信じるのではなく、自分自身の判断を裏づける、あるいは検証できるだけの事実情報を集めること。言い換えれば、自社に必要とされるコンピテンシーの有無・強弱を応募者の行動事実の中に見極めるだけの、十分な情報(データ)を集めること。つまりは「コンピテンシー面接」の実施なのです。

これこそが、ビジネスの重要課題である採用を、「賭けや偶然」ではなく、「科学的」アプローチで行うことだといえるでしょう。

コンピテンシー面接が採用の精度を高めることにつながる理由は、人の行動のメカニズムと深く関係しています。コンピテンシー面接では行動質問によっていくつかの行動事実を収集し、そこから応募者の行動特性(行動様式)を抽出するのが、面接官としての重要な役割であることに変わりはありません。

では、なぜ面接で応募者の行動事実にフォーカスをすることが重要なのかというと、「ある状況下でとった行動は、その後同じような状況下で再び繰り返される――人は同様の刺激に対し、同様の反応を示す」という行動科学の考え方を前提としているからなのです。

つまり、過去(学生時代、あるいは前の会社で)の行動から、入社後の成功を高い確率で予測できる。逆に、過去にできなかったことは、面接でいくら「やります」「頑張ります」と口頭で力強く語っても、やはり高い確率でできない。このように将来の行動を予測できる「人間の行動メカニズム」があるからこそ、採用後の応募者の仕事ぶりを予測するための材料(情報)として、面接官が応募者の行動事実を収集することは、とても重要なのです。

コンピテンシー面接の核心は、応募者の現在までの行動に関する情報を収集することによって、成功の可能性が最も高い人を選抜することができる、というところにあります。

「行動は繰り返される」。この考えは、人問の行動メカニズムについての仮説ではあります

しかし、確率論的根拠のある仮説なのです

ここで確率論的根拠というのは、Vol.1でも触れたように、私たちMSCのパートナーであるDDI社が、人間行動にかかわる膨大な母集団データを統計学的に処理し、そこから得られた信頼性の高い結果(バラツキの少ない相関関係を示す結果)に基づいています。

行動に的を絞る「コンピテンシー面接」を、私たちが「科学的」というのは以上のような倫拠があるからにほかなりません。

過去の行動は繰り返されるこのことを念頭に置いて、人事部門の採用担当の方、あるいは面接官に選ばれた方には、「だから、行動質問を自分はきちんと行うべきなんだ」という姿勢で面接に臨んでいただきたいのです。そうすれば、印象や感覚好き嫌いによる「思いこみ採用・決めつけ採用」 ―――
それによる。サプライズ社員の流入は基本的に避けられるでしょう。

2.現在までの行動かう将来の成功を予測する~行動は行動を予測する

さて、ここで前章即ヘージ)に記した二つのキーワード、「行動は、こまかせない」「行動は行動を予測する」の後者を説明する段階になりました。

――――行動は行動を予測する。

このことをもう少し正確にいえば、「過去の行動は将来の行動」を予測するとなります(図参照)。

そのべースにあるのが、先の項で述べた「行動は繰り返される」なのです。

もう、みなさんはおわかりでしょうか。 「コンヒテンシー面接」においては行動質問をことのほか重視し、それによって応募者の「過去の行動」を引きだそうとするのは、その行動事実の中に「将来の行動」を予測できる相当量の情報が含まれているからにほかなりません。

つまり、同じ様式の行動を繰り返す人間の行動メカニズムから見て、過去の行動」がわかれば(行動事実に関する十分な情隷量が収集できれば)、ある高い確率において「将来の行動」の予測ができるのです。

このことは採用面接にかぎらず、部下をもつ管理職の多くの方が経験的に理解していることではないでしょうか。

たとえば、期首の目標ル収定において「未開拓のAエリアでW%のシエアを獲得する」という目標を立て、その達成に向けて常に数字を積むためのプランをつくり、それを着実に実行して目標をクリアLた部下は、未開拓のBエリアでもCエリアでも、同様のやり方で成果をあげると期待できることを逆に、 1年めも2年めも自分の立てた目標を、ぎりぎりのところであきらめてしまい達成できなかった部下は、「今期こそやってみせます」といくら盲喜園したところで、3年めもやはり目標未達に終わるだろうと予測でき、実際そのとおりになることを。

人の行動特性・行動様式というものは、よい行動も問題のある行動も、おいそれと変わるものではありません。

なかなか成果に結びつくための効果的な行動をとれない部下は、「頑張ります」と意志表示して当初は何度かトライしても、いつしか固有の行動特性に戻ってしまうあるいは、自分の問題点や欠点は認識していても、それを変えることは難しい。

つまり、過去から現在までやってきたことと伺じような行動(たとえば、「なじみの薄い顧客には、足しげく通って関係をつくることは苦手」とか、「困難な課題に直面すると、チャレンジするのではなく回避しようとする」とか)をそこでもまた繰り返してしまうのです。

コンビテンシー面接では、人間のこうした「行動メカニズム」に注目し、採用面接においても、 行動質問にょって過去の行動事実を徹底して確認しますそしてその情報から、入社後の行動(仕事ぶり)を予測するのです。

【著者プロフィール】 伊東 朋子
株式会社マネジメントサービスセンター執行役員 DDI事業部事業部長。国内企業および国際企業の人材コンサルティングに従事。

お茶の水女子大学理学部卒業後、デュポンジャパン株式会社を経て、1988年より株式会社マネジメントサービスセンター(MSC)。

人材採用のためのシステム設計、コンピテンシーモデルの設計、アセスメントテクノロジーを用いたハイポテンシャル人材の特定およびリーダー人材の能力開発プログラムの設計を行い、リーダーシップパイプラインの強化に取り組む。
(※掲載されていたものは当時の情報です)

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会社名:株式会社マネジメントサービスセンター
創業:1966(昭和41)年9月
資本金:1億円
事業内容:人材開発コンサルティング・人材アセスメント


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