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これでは「採用ミス」が続発する~「第一印象」が90%?そして最後は面接官の「好き嫌い」Vol.2(3/3)

8.重要なのは「自己申告」ではなく「行動事実」

ほかにも、よく見かける「ありがちな面接」の例を挙げておきましよう。その典型的なものは、応募者が書いたり自己アピールする 「自己申告」を行動レベルにまで突っこんで質問しない面接です。


たとえば応募者の履歴書に「体育会系テニス部に所属。全国大会で優勝する」と書いてあれば、「達成意欲が高く、タフなスポーツマン」と思い、「3年生のときに主将を経験」と書かれていた場合に至っては、「リーダーシップもある」と勝手に思い込んで、詳しい話を聞かないといったケースです

履歴書に書かれた内容は事実でしょう。ここで問題にしているのは、履歴書に書かれた申告から面接官が勝手にイメージをふくらませて結論づけてしまい、行動事実を面接時に質問で検証していないことです

また、応募者が面接室に入ってきたときの姿が堂々としていて、しかもキリッと引き締まった顔つきである場合など、もうその第一印象で、面接官は「履歴書の内容も素晴らしかったが、やはりイメージどおりの優秀な学生だ」と信じこんでしまうケースもあります。

「人を見る目」に自信のある人ほど、自分がいだいたイメージをなかなか崩そうとしません。そのイメージどおりの人物像かどうかの検証をしないまま、クラブ活動に関する話題で盛りあがったりするわけです。

もし会社がリーダーシップを採用要件として求めるのであれば、面接官はその学生が「リーダーシップ」の行動要件に見合うような行動を部活動でどのようにとっていたか、そのことを尋ねなくてはなりません。評価の判断材料として重要なことは、履歴書に書かれた、あるいは面接の場で応募者がアピールする「自己申告」ではなく、それを裏打ちする「行動事実」なのです。

実際に面接に同席したときのことでしたが、サークルでリ1ダーをしていたことをアピールした学生に私から詳しい話を聞いてみると、その学生が所属していたサークルは4名のメンバーしかいないとのこと。しかも、サークルのリーダーに選ばれた経緯は、リーダーのなり手がなく、メンバー同士が
じゃんけんをして決めたという事実がわかりました。

何度でも繰り返しますが、重要なのは応募者が話す「自己申告」ではなく、「実際の行動事実」なのです。

9.応募者の雰囲気にたまされるな

私は採用に関するコンサルテーションの一連の仕事の中で、クライアントの採用面接の場面に同席することがあります。そのとき実際に体験した新卒採用の面接でのエピソードをご紹介します。

履歴書とエントリーシートに目を通した面接官は、横に座っている私に、「この学生、とても協調性がありそうですね。これから面接をするのが楽しみです」と、これからはじまる面接への期待を述べられました。

ドアがノックされ、入ってきた学生はとても笑顔がすてきでさわやかな印象です。面接官の目が、その瞬間にハートマークになったことを私は横で感じました。

面接がスタートし、その学生は面接官との受け答えには落ち着いて、にこやかに対応しました。面接がスタートして、まだ時間はそれほどたっていないにもかかわらず、面接官は「合格」と決めたようです。

そこからは、質問に対する学生の回答を満足げに聞くばかり。そして「あなたは、いろいろな人と上手にいい関係をつくることが得意なようですね、と、面接官が自分の期待をこめた質問を投げかけると、その学生はにこやかに、そして力強く「はい、そうだと思います」と答える。そんなやりとりの中で、時間だけが過ぎていきました。

そこで私から、 学生に、 「それでは、自分とは年齢や考え方が違う人たちといい関係をつくったときの経験について、何か一つお話しください」と質問を投げかけてみました。すると学生は、突然笑顔がなくなり、少し考えこんでから、「急に違う人たちと、といわれても……..」「いつも人間関係には恵まれていましたので……..」としどろもどろ。もはや回答になっていません。結局、仲間内だけでの「いい人間関係」だったわけです

面接が終わってから、 面接官がひと言、 「印象だけではわからないものですね。詳しく聞いてみないと本当のところは見えませんね」とおっしゃいました。

チームワークや人間関係の問題は、 企業が新卒採用において重要視しているものです。「協調性あり」と評価し、 いざ採用して職場に配属してみると、 世代や価値観の違う人たちとなじめず、 協力しあいながらうまく仕事が進められないというケースが最近多くなって、採用のコンサルテーションをしているときに、 よくクライアントから相談を受けます。

もちろん面接官は、 学生の回答——たとえば、 「はい、私は学生時代、 クラプだけでなくアルバイト先でも、 たくさんの人たちとうまくつきあってきました」——を頭から信じたわけではないかもしれません。 しかし、 面接での評価は応募者の雰囲気にも左右されているものです。

その学生が明るく元気で、 面接の場でも打ち解けて話をし、面接官との受け答えには笑顔を絶やさない。 そのような学生が醸しだす雰囲気の中で模範的な回答を聞くと、 「この学生は協調性か高そうだーと、 面接官は 「協調性」 の項目に思わず「〇」をつけてしまうのです。先ほどのケースと同じように、 面接官が 「協調性」について行動レベルまで深く聞くことをせず、印象でイメージをもってしまったという構造です。

こういった学生の回答を確認するには、 次のような方法があります。

一つは、 回答の内実を確かめてみる。右の例では、「たくさんの人たち, の中身について質問します。 「それはどういう人たちですか?」「うまくつきあうためにどんなことをしたのですか?」というふうに、 突っこんでいくわけです。

あるいは 「協調性」の行動特性を意識して、 「みんなでうまく何かをしたときの話を一つ、聞かせてください」 「どんなに仲よしでも、うまくいかないことも起こりますよね。 そのような経験をしたことを思い出して、 そのときの経験について話してください」といった質問をし、それを行動レベルで確認するわけです。

新卒採用、 キャリア採用のいずれにおいても、面接で「自分の強みや自己 PR」として応募者がよく回答する「自己申告」 のトップ5は表のとおりです。

応募者からの最も多い回答のトップ5
①良好な人間関係づくりを得意としています。
②私は努力家(働き者)です。
③仕事を覚えるのは早いほうです。
④多くの人から頼りにされています。
⑤チームプレーヤーです。

こうした回答に対しても、面接官はその表面的な内容や応募者の雰囲気に惑わされることなく、 「実際の行動事実を尋ねる」という基本を常に意識して、面接に臨んでいただきたいと思っています。

10.「オーラ」や「ポテンシャル」 は評価基準にならない

「ありがちな面接」の最後として、 採用面接が終わってからの合否決定の場で発生しやすい問題について考えてみましょう。

面接官同士の評価会議に同席したり、 面接官トレーニングの中で行った模擬面接後の評価の話し合いを聞いた経験からいうと、「あれ?」と思う評価基準を耳にすることが少なくありません。

面接官がよくつかうその代表的な例を挙げるとすれば、次のような言葉です。

「オーラを感じる」
「お客さん受けしそう」
「いい人だと思う」

面接の中で何かを感じとっていることはわかるのですが、「面接の質問でどの回答に関するものですか? その評価の理由を説明してください」と確認しても、「う~ん、何となく全体の感じで」というあいまいな答えしか返ってきません。結局は印象なのです。

このほかにも、面接官がよくつかう好きな言葉に「ポテンシャルーがあります。「オーラを感じる」というより、「ポテンシャルが高い」と評するほうが、 いくぶん科学的で理屈があるように感じられますが、何をもってそう判断しているかか判然としないという意味では、どちらも変わるところがありません。

私は、「ポテンシャル」を重視する面接官の方によく問いかけることがあります。

「ポテンシャルは、面接でどのような行動特性として確認しましたか?」「ポテンシャルがあると思って採用したにもかかわらず、1年たっても、2年たっても、結局期待する仕事ぶりを発揮してくれなかった場合、その学生には、ポテンシャルがなかったのではないでしようか?

採用したときに、その学生にポテンシャルを感じたのはなぜですか?」と。

この問いかけに対して、多くの面接官の方たちは、今までの面接を思い出して反省されます。ポテンシャルという言葉をつかいながら、実はポテンシャル評価もまた、面接官の印象評価の域を出ていないといっていいでしょう。

このような「不適切な採用面接」が多くの企業で、しかも人事採用部門がかなりしつかりとした企業においてさえ、行われている現状を私は憂慮せずにはおれません。

次のVol3では、そのために起こる。採用ミスクが組織にどのようなダメージを与え、その結果、企業がどのような代償を払うことになるかについて論じたいと思います。

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【著者プロフィール】 伊東 朋子
株式会社マネジメントサービスセンター 執行役員 DDI事業部事業部長。国内企業および国際企業の人材コンサルティングに従事。

お茶の水女子大学理学部卒業後、デュポンジャパン株式会社を経て、1988年より株式会社マネジメントサービスセンター(MSC)。

人材採用のためのシステム設計、コンピテンシーモデルの設計、アセスメントテクノロジーを用いたハイポテンシャル人材の特定およびリーダー人材の能力開発プログラムの設計を行い、リーダーシップパイプラインの強化に取り組む。
(※掲載されていたものは当時の情報です)

会社名:株式会社マネジメントサービスセンター
創業:1966(昭和41)年9月
資本金:1億円 (令和 2年12月31日)
事業内容:人材開発コンサルティング・人材アセスメント


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