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第5章<成長する>学習したことを職場で適用する

1.研修で学習したビジネススキルを現場で実践する

トレーニングだけではスキルの高いリーダーを作ることはできない。トレーニングは、速く熟練させるためのものに過ぎないのだ。学習したことを、いかに職場で適用するか。それこそがスキルを永続的なものにする。これは多くの研究により証明されていることだ。例えばCEBコーポレート・リーダーシップ・カウンシルが2008年に行った研究では、人事のプログラムの成功の68%の要因が、新たに習得したスキルの職場での実践の質と量によるものだと判明した。DDIとThe Conference Boardによるグローバル・リーダーシップ・フォーキャストでは、トレーニングの職場での適用を妨げる最も大きな2つの障害が、学習後の上司からのコーチングおよびフィードバックの質の低さと、学習したことを職場で適用する機会の少なさだと指摘している(図5.3参照)。


多くの学習者、そしてその上司が、トレーニングをしぶしぶ受けるものと見なしている。その一方で、多くの経営幹部はトレーニングを成長を加速するための唯一の手段と考えている。どちらも焦点が狭すぎる。

リハーサルを習慣化する。習得したスキルをリスクの高い状況でいきなり試す前に、上司、メンターや同僚からのコーチングを受けながらリハーサルを行うことが効果的である。学習のこの観点は見過ごされがちである。トレーニングを終えた多くの人にとって――いくらプログラムの内容が良くても、いくら練習ができても――リハーサルで獲得できる追加の学習と自信は有益である。バンドは観客の前で演奏する前に何百回とリハーサルをする。俳優、ゴルフ選手、消防士、その他のスキルに成否がかかっているプロフェッショナルは、リハーサルをすることで成功する。しかしリーダー、特に新任者が難しい会話の前に何度リハーサルを行っているだろうか?経営幹部としてあなたはどのぐらいの頻度で、学習者と膝を交え、スキルについて話し合うだけでなく、一緒に練習しているだろう? 

俳優、ゴルフ選手、消防士、その他のスキルに成否がかかっているプロフェッショナルは、リハーサルをすることで成功する。しかしリーダーが難しい会話の前にリハーサルを行うことなどあるだろうか?

5.3図 OJT学習の障害 ~重要度が高いものから~(注)
学習者による評価(DDIグローバル・リーダーシップ・フォーキャスト 2014|2015

コミュミケーション力や影響力などの対人スキルは、リハーサルの効果が最も出やすい例である。しかし、やる気の鼓舞、コーチングと人材育成、同意の獲得、変革リーダーシップといった、他の多くのリーダーシップスキルも、能力開発プロセスにコーチつきのリハーサルが組み込まれれば、より速く、よりうまく学習、適用できるようになるだろう。コーチとともに練習することで、経験の浅いリーダーが自分の経験レベルをはるかに超えた職務への準備ができるようになることも多い。理事会へのプレゼンテーション、大きな交渉(顧客と、あるいは労働組合と)、提携に関する会議、組織内での重要なスピーチやコミュニケーションのスキルは、リハーサルが効果的ないくつかの例である。 

フィードバックの役割を上げる。世界的大手小売業のCEOが、フィードバックの見方と使い方を変え始めた。リーダー(学習者であることが多い)の能力開発が進捗したと聞くたびに、彼は「どんなフィードバックがあった?」と尋ねる。それから、フィードバックはどのように、誰によって集められ、どのように使われたかを確認する。彼の目標は、組織内でのフィードバックの活用を増やし、能力開発の進捗測定を厳密にして、学習者が継続的にフィードバックを使うようにすることだ。彼はよくこう言う。「わが社の最高のリーダーは、フィードバック・シーカー(フィードバックを求める人)と呼ばれなければならない」

2.ちょっとした仕組みが、リハーサルを容易に、そして繰り返しやすくする

リハーサルには、何の決まりもない。時間の制約のせいで、多忙なスケジュールに練習を組み込むのがほぼ不可能となっているが、ほんのわずかな仕組みでこの認識と、リハーサルの頻度や効果を変えることができる。われわれの顧客の中でも特に成功している企業は、「話し合いプランナー」(付録5.2)を日常的に使っている。プランナーのシンプルな構造が思考を整理し、話し合いがどのように進むかを予測させ、どんな話が出るのかを考えさせる。プランナーは数分あれば埋めることができ、計画立案やリハーサルに大きな効果をもたらす。多くのリーダーが、難しいリーダーシップの状況を克服していくうちに、こういったツールが不可欠であることに気づくだろう。 

フィードバックは学習プロセスには欠かせない。そしてリーダーが昇進するにつれて、フィートバックを集めて活用することは、スキルの開発を速めるだけでなく、大きな過ちを防ぐのにも役立つようになる。学習者が、新たに習得したスキルの活かし方のフィードバックを求めるのは大事なことだ。同僚たちに前もってフィードバックがほしいと伝えておけば、彼らはコンピテンシー開発の取り組みの進捗状況について、快くフィードバックしてくれるだろう。これにより、仕事ぶりに良い意味での緊張感が生まれ、組織文化の中でフィードバックがより尊重され、求められるようになる。 

フィードバックを日常の業務に組み込めば、非常に重要なリーダーシップ資源となる。マルコム・グラッドウェル(『天才!成功する人々の法則』2008年/日本語版は2009年)は、何事においても卓越するには 1万時間の練習が必要だと書いた。しかし、大半の経営幹部は、卓越している必要はない。有能であればいい。だからわれわれは、有能なコーチや変革リーダー、権限委譲の当事者となるためにフィードバックつきの練習が1万時間必要だと言うつもりはない。だが、年に2、3度以上の練習とフィードバックが必要なのは確かだ。学習者の進捗状況を評価する際は、フィードバックの活用を標準的な要素とする。

3.フィードバックの重要な情報源としてのソーシャルメディア

ソーシャルメディアに精通しているユーザーは、ソーシャル・ネットワークに貢献するほど、得られるものも大きいこと、そして、わずかな貢献でも意味のある利益をもたらすことを理解している。学習者にとって、リーダーの成長に関心を持つ同僚や友人のネットワークは、新たな課題に取り組む際に、洞察やデータ、リソースなどの源となってくれる。多くの組織は、社内SNSツール(Yammerなど)を採用しているが、通常のSNSツール(Twitter、Facebookなど)も有用だ。こうしたものを活用し、さまざまな情報を共有することで、他の方法では得ることが難しい洞察を得られるだろう。多くのユーザーが、必要なときに必要なアドバイスやヒントを得たり、事後のフィードバックを得たりする手段としてネットワークを利用している。以下のようなツイートは、瞬時に有用な助言が得られる。
 

「新しい仕事に就いたばかりで、初めて自分でP&Lを作っているんだけど、どうしたら速く簡単に作れるか、誰か教えて」
 
あるいはこんな書き込みは、どうすれば良いコーチングスキルを実践できるかのヒントが得られる。
 
「コーチングに取り組んでいて、もっと質問をしようとしているのにチームは不満気。何がいけないのだろう?」

スキルの開発に関心を持つコミュニティーへの参加と貢献は、フィードバックを集めて活用する能力を強化し、その結果さらに成長を加速化させてくれる。優れた学習プログラムは、コミュニティーを作り、維持することを重要な要素として設計に組み込んでいる。

リアルタイムで点数をつける。自分のシュートした球がゴールに入ったかどうかが見られないバスケットボールの選手を想像してみてほしい。あるいは、観客の姿が見えず、笑い声も聞こえないコメディアン。あるいは、的の見えない射撃手。高いスキルを発揮しても、それによって何が起こるのかを知ることができなければ、人はあっという間にそのスキルの改善に興味を失うものだ。なぜか?それは、そもそもスキルを身につけようとした主な理由のひとつを奪われてしまったからだ。その理由とは、得点し、成功し、改善する満足感を得ること。学習者に対して、リーダーシップスキルを伸ばす努力を続けさせるためには、点数をつけて満足感を覚えさせなければならない。
 
そのためには、試合後や会計年度の最後に見られるものではなく、リアルタイムの測定が必要である。バスケットボール選手が見ることができるのがチームの勝敗結果だけならば、シュートのフォームを改善する気にはならないだろう。
 
多くのリーダーは、コンピテンシーの成長の影響力を測るとき、売上や利益、生産性、取引高といった関連するビジネスの数字に証拠を求めようとする。これらも重要であるが、リアルタイムの測定ほど行動に影響を及ぼしはしない。「戦略実施の推進」の開発を必要とするリーダーの管理をするプロジェクトが、締め切りに間に合った上に予算内に収まった場合、それが彼の得点となる。「コーチング」の練習をしているリーダーに、最近受けたコーチングが役に立ったのでもっとお願いしたいと部下が言ってきたら、それも得点になる。「計画と組織化」ができているかは、プロジェクトが計画通り進んだかどうかで判断できるし、「権限委譲」は、職務を明確にしたり混乱を解消したりするのに必要となる支援の頻度で判断できる。大事なのは、あらゆるコンピテンシーの開発の取り組みに、関連するリアルタイムの測定が行われることだ。測定基準が何であるかを正確に決め、学習者が能力開発計画の進捗をどのように測るかを説明するのには、キーアクションが有効である。
 
学習アクセラレーターを使う。人事部門が、トレーニングなどの能力開発後にコンピテンシーとキーアクションの開発を支援する方法は数多くある。そういった方法を「学習アクセラレーター」と呼ぶ(図5.1参照)。いくつか例を挙げよう。

・ビデオ学習テスト…簡単なテストで、対象となるコンピテンシーやキーアクションの開発の進捗度を測ることができる。学習者は得点を受け取り、ゲーム感覚でスキルを磨き、進捗度を測り、前向きな緊張感を高める。
 
・学習コミュニティー…多くの人は、他者と一緒に学ぶこと、アイデアや経験を共有することで生産的に学ぶのを好む。コミュニティーは現実でもバーチャルでも構わないし、学習のプロセスや内容のどの側面に焦点を当てても構わない。他者の学習目標に向けての進捗状況について情報を集めるのは、特にその目標が共通している場合、健全な競争を生む。また学習コミュニティーは、バーチャルなやりとりを利用して、主要な学習ポイントを強化し、学習者に議論の場を提供する。こういったネットワークを通じて、学習者は成功体験を共有し、仲間とともに課題について話し合うことができるのだ。
 
・多面(360度)診断…一部の組織は、学習者が開発しようとしているコンピテンシーやキーアクションに合わせた簡単なアンケート調査(たいていは多くても5項目)を行っている。多面的で使いやすい技術プラットフォームにより、回答者の匿名性を保ちつつ、標準的な、あるいはカスタマイズされた項目を作ることができる。
 
・実践的なシミュレーション…特定のコンピテンシーを対象とした実践的なシミュレーションは、非常に短くて、時間、場所やデバイスを問わずに、自由に行うことが可能だ。何度も繰り返すことでスキルに磨きがかかり、学習者は職場で実践する準備ができる。例えば、自動化されたコーチングのシミュレーションでは、学習者はリーダーとチームメンバーのコーチングの話し合いを見ながら理想的な行動を選択肢の中から選ぶことができる。

4.エネルギーを作り出す(成果を出すための緊張感)

ここまで取り上げてきた、スキル開発の重要な側面(行動モデルと実践を使ったトレーニング、リハーサル、フィードバック、測定、学習アクセラレーター)は、どれも成長のプロセスにエネルギーを生みだす。だがもうひとつ、スキル開発にエネルギーを注ぐ気にさせる緊張感を学習者にもたらすものがある。
 
われわれは折りにつけ、成果を出すための緊張感を経験する。グループで演奏するとき、スポーツチームで試合に出るとき、あるいは大きなイベントで学校や会社の代表を務めるときなどだ。そのようなときは、その人の貢献がどれだけ成功に影響を与えたかが明確になる。成功するか否かはその人にかかっているのだ。こういったプレッシャー(成果を出すための緊張感)は、学ぶ動機となる。多くの人はその緊張感を嫌がるが、特にハイポテンシャル・リーダーは緊張感を持つことによって成功する。以下に、学習プロセスでよく見られる例を紹介しよう。

・学習者(個人でもチームでも)が、経営幹部に重要なビジネス上の問題に関するプレゼンテーションおよび質問を行い、結論に関する経営幹部からの難しい問いかけに答える。
 
・一人あるいは複数の経営幹部との会議で、自身の能力開発の進捗状況を詳細に伝え、学んだことのビジネスにおける影響と、それをどのように実践したかについて話し合う。
 
・製品やサービスで嫌な思いをした批判的な顧客など、好意的でない関係者に対して、ビジネスあるいはプロセスを改善するアイデアを示す。

以下は、われわれが実際に目撃した、成果を出すための緊張感がスキルの成長に役立った例である。

・確実に面接スキルを定着させ、活用できるようにする。DDIは1970年に行動面接法を開発し、それ以来、上司の面接スキル――リーダーシップの重要なコンピテンシー――についてさまざまな研究を行ってきた。ターゲット・セレクション面接者トレーニングでは、参加者は行動面接スキルを学び、その後面接のシミュレーションで実習し、そのたびにフィードバックを受ける。このようにトレーニングを受けた面接者は、採用がうまく、組織に対する面接を受ける者の反応も良い。

だが、効果的なトレーニングと初期の成功にもかかわらず、その後スキルが低下する面接者がいることが追跡調査で明らかになった。しかし、候補者全員の面接終了後にデータ統合会議に出席した面接者には、そのような傾向はなかった。むしろ、常にスキルの改善を続け、採用結果にも改善が見られた。データ統合会議は、各候補者のコンピテンシーの観察結果を面接者同士で共有するグループ・ディスカッションである。観察結果を言葉にし合うことで、その個人に対する貴重な洞察を得られ、また、それぞれが他の面接者からスキルを学べる。この会議では、成果を出すための緊張感が非常に高くなる。面接者は、会議に同席している同僚やその上司の目に悪く映りたくないと考えるからだ。面接者の報告を同僚が聞けば、面接がうまく行ったかどうかすぐわかってしまうのだ。

・リーダーがメディアとの関係構築スキルを習得し活用するのを支援する。水圧破砕に関わるあるエネルギー関連企業が、メディアから注目を浴びて事細かに取材された。頻繁にメディア対応を行う主要なリーダーは徹底的なトレーニングを受けていたにもかかわらず、対応スキルを忘れてしまっていたり、そもそもきちんと身につけていなかったりした。その結果、組織の安全性と自然環境への配慮に関する評判が傷つくようなニュースを流されてしまった。これを解決するために、マネージャーをグループに分け、一人を記者役にしてインタビューの練習をさせた。そして、グループ同士で競わせた。インタビューのシミュレーションが終わるたびに、彼らは互いに批評し合った。

5.学習経路

ここまで読んでいただければ、なぜわれわれが行動を変える取り組みを学習経路として説明しているか理解いただけるだろう。図5.1で、学習経路が図で示されている。本章で後ほど、学習経路についてさらに詳しく取り上げると同時に、学習者がともに能力開発の取り組みを経験していく、グループでの「ラーニング・ジャーニー」も説明する。

6.おすすめ人材アセスメントソリューション

7.DDIとは

DDIは、世界最大手の革新的なリーダーシップ・コンサルティング企業です。1970年の設立以来、この分野の先駆者として、リーダーのアセスメントや能力開発を専門としてきました。顧客の多くは、『フォーチュン500』に名を連ねる世界有数の多国籍企業や、『働きがいのある会社ベスト100』に選ばれている世界の優良企業です。
DDIでは、組織全体におよぶリーダーの採用、昇進昇格、能力開発手法に変革をもたらす支援をすることで、すべての階層において事業戦略を理解し、実行し、困難な課題に対処できるリーダーの輩出に貢献しています。
DDIのサービスは、現地事務所や提携先を通じて、多言語で93カ国に提供されています。また、同社の研究開発投資は業界平均の2倍であり、長年にわたる実績と科学的根拠に基づいた最新の手法を駆使して、組織の課題を解決しています。

◆DDI社の4つの専門分野

DDI社は、4つの専門分野を中心に、長年の実績と科学的根拠に裏付けられたソリューションと、より深い洞察を提供し、優れた成果を生み出しています。

8.会社概要

会社名:株式会社マネジメントサービスセンター
創業:1966(昭和41)年9月
資本金:1億円
事業内容:人材開発コンサルティング・人材アセスメント

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