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第3章<特定する>組織の未来を見据えたタレントレビュー~リーダーの能力開発とビジネス目標の連携

1.組織レビュー

卓越したタレントレビューは、まずビジネスのニーズに対する共通理解と、それを現在も将来も円滑に実施するために重要なリーダー職に対する共通理解を築くことから始まる。組織レビューでは、ビジネスユニットや階層、リーダーのグループ(地域、部署)全体が評価される。


リーダーシップの強みと能力開発のニーズ(グループレベルでの)がビジネス目標と関連して話し合われ、予想される重要なポジションの空きを埋める即戦力となる候補者の有無がまとめられる。多くの組織では、主要なポジションの後任者計画もこの場で話し合われる。

組織レビューは、大きな組織では特に重要な議題として着目されることが多い。経営幹部が人材に関する正確な洞察を得にくく、組織能力に関する迅速な調査報告を求めるからだ(注)。焦点を広げ、大勢のリーダーについて話し合うことで、効率的であるとの認識は生まれるが、一方で、個人の能力について話し合う時間が減り、判断の根拠となるデータが十分に得られなくなる傾向がある。

(注)テストや簡単なアセスメントによる測定をグループ全体やビジネスユニット全体に適用して、全組織からリーダー人材を探そうとする組織もある。適切なツールとプロセスを使えば、この測定は有益な洞察となるだろう。だが、それ単体で使用したり、ポテンシャルや準備度の最も重要な指標として活用すると、人材開発の加速化の取り組みに支障をきたす可能性がある。本章の後半で、タレントレビュー・プロセスにおける客観的なアセスメントの適切な使い方を論じる。

このため、組織レビューをタレントレビューの唯一の仕組みとして使う場合、人材開発の加速化が進みにくい。リーダーシップ・ポテンシャルや昇進への準備度の徹底的な測定をせず、現在の仕事ぶりだけを根拠に話し合いを進めると、主観的な結論や裏付けのない予想に終始することが多い。

また、高い階層に向けて能力開発をしているリーダーのプールを、大きくしたり質を高めたりすることができない。そのようなレビューは、初めのうちはうまくいっていると錯覚するかもしれないが、結局はリーダーを将棋の駒のように職務から職務へと異動させるだけで、独創性のない能力開発戦略や、リーダーシップの誤った予測、能力開発活動への曖昧なアカウンタビリティを生み出し、想定していた見返りがあげられなくなってしまう。

2.人材開発加速化のレビュー

適切な能力開発活動を起こすために、タレントレビューでは少数のリーダーについて深く掘り下げる必要がある。グループのサイズは、リーダーシップのギャップのサイズと、その能力開発に充てる予定の人員の規模に合わせる(開発の加速化の対象者や人数の決め方については第1章を参照)

人材開発加速化のレビューでは、経営陣は主要な人材についてのより細かいデータに時間を割き、育成速度の向上に重きを置く。人材開発加速化のレビューは組織レビューと同時に行うが、時間の配分は慎重にしなければならない。深刻なリーダー不足に陥っている企業では、リーダーグループの迅速な評価と新たな空きポジションの後任決め(後任者計画)に加え、ハイポテンシャル・リーダーのグループ(アクセラレーション・プール)の育成の加速化が不可欠である。

人材開発加速化のレビューを特徴づける要素は、リーダーシップ・ポテンシャルの特定であり、それによって特別な(より速い)能力開発を受ける人々の集団が形成される。この人々の呼び方は、ハイポテンシャル人材、主要な人材、人材プールなど、組織によって異なるが、なかには排他的、優遇措置と受け取られることを避けるために、このグループに名称をつけていない組織もあるようだ。

しかし、ポテンシャルを特定することを秘密にする必要はない。これまで述べてきたようにビシネス上必要なことだからだ。そうした中、われわれは特別な能力開発の機会を与えられる人々を指すのに「アクセラレーション・プール」という言葉が役立つことに気づいた。能力開発を受けるのは彼らだけではない(組織内の全員が受けるべきである)し、プールに入っているからといって昇進が保証されるものではない。だが、加速化の対象となる個人を明確にすることは、人材開発加速化のレビューの最も基本的な成果である。

3.組織レビューと人材開発加速化のレビューの統合

組織レビューと人材開発加速化レビューをひとつのプロセスに効果的に統合するには:

・ビジネスの話の延長線上にタレントレビューのセッションを構築し、順序づけをしなければならない。

・リーダーシップ・ポテンシャルを持った隠れた人材を見いだし、適切に投資しなければならない。

・質の高いデータを使って準備度を正確に評価し、戦略的にリーダーを配置しなければならない。

・学習者を主要なビジネス課題に巻きこむような思い切った能力開発を行わなければならない

この章では以降、上記について説明する。

4.ビジネスの話の延長線上にタレントレビューのセッションを構築し、順序づけをする

ある大手製造会社のCEOは、自社の将来のために必要なスキルを持つリーダーが絶望的に不足していることに気づき、自分の行動を振り返った。そして、ビジネスリーダーと日常的に行っている一対一の最新情報報告で、人材についてほとんど疑問を投げかけなかったことを明かした。最近行われた年に一度の目標設定会議でも、人材に関連する目標を挙げた部下はたった一人だった。その後の会議の席で、CEOは経営幹部に言った。「わが社は、人材に関する話し合いをビジネスに関するものと切り離してきたせいで、弱体化してしまった」。

リーダーシップの育成を加速化する際にできる重要な行動のひとつが、リーダーシップ人材に関する話を経営陣のビジネス会議に組み入れることだ。図3.1は、成功している組織がどのようにしてこのプロセスを継続的なものにしているかを示してしている。多くが、長期の計画を実施するために年に一度のイベントや会議を行い、その後、次年度の業績目標を設定する。これが、短期目標の進捗状況を継続的に確認する定期的なビジネスレビューや業務レビューにつながる。このような業務レビューはグループレベルで定期的に行われ、CEOをビジネスリーダー、地域リーダー、部署リーダーと結びつけるほか、企業全体のリーダーをひとつにする。

期初には戦略的優先事項の貝体化、特定の取り組みへの合意とともに、人材に関する予測、育成目標の設定が行われる。通常、これが一年で最も重要なタレントレビューのセッションとなる。あなたの組織が新製品の発売、競争的ポジショニングの変更、効率性重視から革新性重視への方向転換を予定しているとして、それを実現させるのに相応しいリーダーが適切な場所に十分いるだろうか?ビジネス上の意思決定には、それぞれ特定のニーズとギャップがあり、リーダーシップ開発の加速化戦略(第1章)を立てる際に、それに対処しなければならない。このため、タレントレビューのタイミングは、長期と短期両方の施策を決めるタイミングと合わせなければならない。

次第に、タレントレビューはリーダーシップ開発の加速化戦略が――それに関連する成功の測定基準とともに――更新される場となっていく。そしてその後、年間を通じて行われるレビューセッションは、目標に対する進捗度を継続的に確認し、必要に応じて修正を加える場となっていく。

3.1図 ビジネス&タレントレビューカレンダーの例

タイミングと順序は重要だが、ビジネスリーダーにとってタレントレビューがより話し合いやすく、生産的でより興味深いものになるよう、レビューの話し合いを工夫し準備するとよい。

そのために:

🔶重要なビジネス上の優先事項に注目させる。
タレントレビューの参加者全員が、特別な人材の投入や配置替えが必要なビジネス上の優先事項や取り組み(中国に焦点を置く、技術能力など)をよく理解し、耳を傾けなければならない。これにより、個人に関する話し合い(「彼女は中国でリーダーを務める準備ができているか?」など)とビジネスとの関連性が明らかになり、強力で有用な能力開発を行うのに役立つ。

🔶空きが予測されるポジションをまとめる。
タレントレビューに先立って、人事部門はビジネスパートナーと協力して、現在空いているポジション、次年度および今後2~3年の間に空きそうなポジションの一覧を作らなければならない。そこには、ビジネスの新しい優先事項、組織構造の変更(買収など)、異動や昇進、退職など、さらにビジネスユニット内の職務、関連するユニットや部署などの職務が含まれていなければならない。第1章で取り上げたリーダーシップ能力分析(図1.3)などが良いテンプレートになるだろう。

🔶事前準備に重点を置く。
タレントレビューの参加者全員に事前準備を課せば、話し合いとその結果に大きな影響が現れるだろう。ビジネス上のニーズとその組織内の主要なリーダーについて熟慮してからタレントレビューに参加することで、会議の質とスピードが上がる。

🔶非公式な人脈からの情報をまとめる。
人事部門は人材について継続的に深く知っておく義務がある。人事のプロは組織内のリーダーについて、特に組織文化への適応具合など、彼らに対する非公式な見解をさまざまな人から引き出すことができる立場にある。これは、隠れた人材を見つける際に有効だ。

5.タレントレビューの事前準備

・タレントレビューで取り上げようとしている重要なビジネス上の優先事項。たとえよく知られているものであっても、前もってレビューの参加者で共有し、レビューの結果に焦点を当て、整合性を取れるようにしておく。

・主要なポジションの現在の空席および予想される空席をすべてまとめたリーダーシップ能力の分析(第1章参照)。

・グループのメンバーの属性や、現在の空席および予想される空席、多様性、全体的な仕事ぶりの傾向、能力開発の進捗度などを示す総合的な人材データ。

・話し合いで取りあげられるリーダー個人のプロフィール。下記を含む。

―個人情報(職歴、学歴、トレーニング歴、属性)
―最近のパフォーマンスレビューの結果
―関心やモチベーション(昇進へのモチベーション、転勤への関心、退職リスクなど)
―行動診断データ(アセスメント・センター、多面評価など)
―現在の能力開発の優先事項
―最近の成功した能力開発

・信頼できる人事担当幹部を進行役にする。タレントレビュー会議は戦略的かつデリケートなものなので、有能な進行役が必要だ。あなたがCEOなら、人事部門のリーダーにタレントレビューを任せ、会議をコントロールさせる必要がある。さらにタレントレビューの進行役は下記を備えていなければならない。

―組織のビジネス状況と戦略に対する深い理解。
―落ち着き、信頼性、経営陣からの信用、生産的な方法で疑問を投げ掛けたり、つき返したりする能力。
―最重要リーダーシップ能力のギャップについての詳細な認識。
―組織のタレントレビュー・プロセスが他のプロセスやシステムとどのように整合しているかの理解。

人材に関する話し合いでは、組織内の個人やグループの能力に関するデータや事例、体験、個人の説明(そして偏見)を深く掘り下げることが多い。判断力に優れた進行役は、人材に関する話し合いをビジネスとの関連性、客観性、規律あるいはプロセス、誠実さのもとで導くことができる。付録3.2は、タレントレビュー会議の議題の例である。

6.隠れたリーダーシップ・ポテンシャルを見いだし、適切な人材に投資する

人材開発加速化のレビューの2つ目の目的は、組織内から最も有能なリーダーシップ・ポテンシャルを持つ個人を探し出すことである(03)。経営陣が正確に評価できる明確なポテンシャルの定義と、ポテンシャルを診断する適切なアプローチが必要だ(04)。どんなタイプのアセスメントを使うかは、判断と規模の問題である。これについては後ほど触れる。まずは定義から始めよう。

7.おすすめ人材アセスメントソリューション

①コンサルティングソリューション

②オンラインシミュレーションアセスメント&アセスメントシステム

③オンライントレーニング&ディベロップメント

8.DDIとは

DDIは、世界最大手の革新的なリーダーシップ・コンサルティング企業です。1970年の設立以来、この分野の先駆者として、リーダーのアセスメントや能力開発を専門としてきました。顧客の多くは、『フォーチュン500』に名を連ねる世界有数の多国籍企業や、『働きがいのある会社ベスト100』に選ばれている世界の優良企業です。
DDIでは、組織全体におよぶリーダーの採用、昇進昇格、能力開発手法に変革をもたらす支援をすることで、すべての階層において事業戦略を理解し、実行し、困難な課題に対処できるリーダーの輩出に貢献しています。
DDIのサービスは、現地事務所や提携先を通じて、多言語で93カ国に提供されています。また、同社の研究開発投資は業界平均の2倍であり、長年にわたる実績と科学的根拠に基づいた最新の手法を駆使して、組織の課題を解決しています。

◆DDI社の4つの専門分野

DDI社は、4つの専門分野を中心に、長年の実績と科学的根拠に裏付けられたソリューションと、より深い洞察を提供し、優れた成果を生み出しています。

9.会社概要

会社名:株式会社マネジメントサービスセンター
創業:1966(昭和41)年9月
資本金:1億円
事業内容:人材開発コンサルティング・人材アセスメント

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