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第1章<コミットする>成長に重点をおく~人材開発の加速化をビジネスの最優先事項に引き上げる

0.人材開発の加速化戦略ための5つの要素の概要

戦略とは、ゲームではない。ゲームに勝つための計画である。道路地図、青写真、素案…呼び方は自由だが、最高経営幹部が実施するリーダーシップ人材開発の加速化戦略は、経営陣、ハイポテンシャル人材、その上司、人事部門、そして組織全体の行動を舵取りするものだ。戦略なしで、あるいは中途半端な戦略のみで動こうとすれば、大きな成果は得られない。
 
人材開発の加速化は、より多くの人材をより早い段階でゲームに引き入れて、自社のビジネスに必要な能力を身につけるための学習や助言を授けることで、組織の人材開発システムをより効果的に、より速く機能させる手法である。単に学習の支援をするのではない。学習したことを自社の問題解決に活用しながら、成長の支援をするのだ。最高経営幹部は、学習と能力開発活動を承認して、あとは脇から見守るというだけでは不十分だ。自分たちもゲームに参加しなければならない。人材開発の加速化に積極的に関わり、他の最優先事項と同等の優先度をつけて管理していかなければならない。
 
最高経営幹部が人材開発の加速化戦略に積極的に関わるということは、下記の5つの要素を注視し、推進することである。


1.リーダーシップの優先事項(ビジネス・ドライバー):
「ビジネス・ドライバー」とは、ビジネスを発展させ、健全な組織文化を作り上げていく――つまり、ビジネスをドライブする(=進める)――ために乗り越えなければならないリーダーシップに関わる障害や課題を意味する言葉である。ビジネスの優先事項(戦略的優先事項と求められる組織文化)を実施するために、リーダーが直面する大きな課題を3~4つ選び出し、そこに重点を置く必要がある。それが組織のリーダーシップ優先事項(ビジネス・ドライバー)であり、以下で説明するように、人材開発の加速化戦略の基本となる。 

2.リーダーシップ人材のギャップ:
「自社にはもっとリーダーが必要だ」と言っているだけでは十分ではない。どこ(階層、ポジション、ユニット、地域等)に何人必要か、いつまでに準備が整っていなければならないかを明確にしなければならない。これは人材開発の加速化のための論拠となる。常に注意を向け、最新のものに更新していく必要がある。

3.成長の原動力:
リーダーシップの優先事項とギャップをもとに、リーダーのパイプラインを確保、拡大できるよう、どのプログラムを作り取り組むか、あるいは改良するかを選ぶ。この選択には、リーダーシップのポテンシャルをどう特定するか、準備度をどう評価するか、成長をどう加速させるか、実績をどうあげるかが含まれる。 

4.人材開発の加速化に関するデータ一覧(ダッシュボード):
重要な戦略目標はすべてそうだが、進捗状況を明確に表す手段が必要となる。すべてを測定することはできないので、実際に成長していることを示すであろう重要な測定基準をいくつか選んでおく。それを定期的に提示して議論する方法を見つけるのだ。この作業を飛ばしてはいけない。

5.持続させる方策:
これは、多くの加速化の仕組みにとって弱点となっている。戦略を実施する前にまず、コミュニケーションを強化し、足並みをそろえ、スキルを高め、アカウンタビリティを明確にし、進捗状況を測る策を講じなければならない。これらの策を講じることによって、戦略は、組織の通常の業務に合う実用的なものとなり、常に改善を続け、リーダーの能力を上げることができる。

上記の要素をひとつひとつ実行するのは、経営幹部の仕事ではないが、幹部は一丸となって、取り組みの優先順位をつけていく必要がある。人材開発の加速化に重点的に取り組むと、本業にかける時間が足りなくなると考えるなら、今すぐこの本を閉じたほうがよい。確かに人材開発の加速化に取り組めば、リーダーシップにかける時間は増えるだろう。だが、それは日々の業務時間が増えてしまうということではない。優れた加速化戦略が立てられれば、リーダーシップの優先事項と戦略の優先事項が統合され、まとめて取り組めるようになる。この章では、どのようにしてそれを実現するかを説明する(注)。 

(注)これらがすでに実現できているのであれば、表1.2を使ってあなたの組織の加速化戦略を評価し、さらなる強化の機会を明らかにすることができる。


1.リーダーシップの最優先事項(ビジネス・ドライバー)を選び出す

ビジネス戦略として最も成功するのは、何よりも優先すべき少数の項目を明確にし、そこに重点を置いて進める方法だ。だがどういうわけか、リーダーシップ戦略では、そういった方法が取られていない。大事なのは重点を置くことである。われわれは、このリーダーシップの最優先事項を「ビジネス・ドライバー」と呼んでいるが、これはビジネスを前に進めるためにリーダーが乗り越えるべき少数(4つ以内)の課題である。

ビジネス・ドライバーは、リーダーシップとビジネスの成功の関係性を作り、強化する。ビジネス戦略には組織内の変化と改善がつきものであり、そのような変化を起こすにはリーダーシップが必要となるだろう。しかし戦略の性質によって、必要となるリーダーのタイプは変わってくる。「東南アジアの市場を独占したい」、「ある分野で最高の品質を保つ組織になりたい」、「発展途上経済の競争に勝ちたい」…など、ビジネス戦略はさまざまであり、それぞれが組織の文化と関わって、独自のリーダー要件、特定のリーダーシップ状況が作られるのだ。 

人事部門は従来、コンピテンシーを用いてそういった独自の要件(状況)を定義してきた。コンピテンシーが人材開発システムを構築する際の主要な要素になることは間違いないが、コンピテンシーをすべて網羅したリストは長すぎ、かつ詳細すぎて、経営会議で人材の話をするには使いづらい。そのため、多くの組織ではコンピテンシーをいくつか選んで、短いリストを作ろうとしている。だがそうすると、重要なスキルがリストから漏れてしまうこともあり、フィードバックや能力開発のためのコンピテンシー・モデルの有用性が低下してしまう。
 
では、一体どうすればよいのだろうか。どうすれば、長すぎるリストを用意することなく、ビジネスと文化の双方において組織独自のリーダーシップ状況に合致したものが作れるのだろう?その答えがビジネス・ドライバーだ。組織がその戦略を実施するにあたって乗り越えなければならない、リーダーシップに関わる少数の課題である。例えば効率性アップ、新製品の発売、競争戦略の実施など着目してほしいのは、これらがビジネス戦略ではなく、ビジネス戦略から生じるリーダーシップの課題であるということ。どんなビジネス・ドライバーも、成功するためには複数のコンピテンシーを必要とする。第2章では、ビジネス・ドライバーについてさらに詳しく述べ、その確定と定義の仕方、コンピテンシーとサクセス・プロフィールをそれらと結びつける方法等を説明する。

🔵「1.2表」ビジネス・ドライバーがいかにリーダーシップと戦略の関係性を簡潔にまとめるか

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ここでは、ビジネス・ドライバーがいかにしてリーダーシップの人材開発の加速化戦略を、より明確に、より説得力のあるものにするかという点に焦点を当てよう。表1.2は、ある大手消費者向け製品の企業による実例を示している。1列目、2列目で、戦略的優先事項と求められる組織文化を明らかにしたあと、3列目で優先的なリーダーシップのニーズ(ビジネス・ドライバー)を、4列目でコンピテンシーを特定した。この組織のビジネスおよび組織文化の優先事項と、その達成に必要なリーダーの能力の関係性がひと目でわかる。 

表1.2の消費者向け製品企業は明らかに、「プロセス革新の推進」、「競争戦略の実施」、「ハイパフォーマンスの指向の組織文化の構築」という3つの主要な目標を達成するためにリーダーを育成しようとしている。戦略的人材の必要性について、10以上あるコンピテンシーとは対照的に、この3つのビジネス・ドライバーのみを話し合えば、簡潔なコミュニケーションができるはずだ。また、もうひとつの利点として挙げられるのは、ビジネス・ドライバーが、リーダーの特性ではなく、普段ビジネスリーダーが使っている言語でリーダーシップの状況を論じているので、分かりやすいということである。人材開発の加速化戦略は、即戦力となるリーダーを増やすための戦略であるが、ビジネス・ドライバーは「何のための準備ができているのか?」という問いに、正確に、そして簡潔に答えてくれる。

2.リーダーシップ人材のギャップを数値化する 

リーダーシップの優先事項がはっきりしたので、次に、現在どんなリーダー人材がいるか、組織のどの部分にどんなリーダーが必要かを特定する。ここでは、人材管理の面で組織が今どのような状況にあるのか、新たな行動を起こさないとどのようなことが起こるのかを、ありのままに洗い出して、人材開発の加速化のための論拠を具体化する。

ここでは、組織の状態をありのままに洗い出して、人材開発の加速化のための論拠を具体化する。

まずは、組織内の人材の需要と供給に影響を与える要因を明らかにしよう。
 

🔶必要人材の予測:
戦略的優先事項や、ビジネス・ドライバー、主要な業務を考えたとき、現在のリーダーの供給と質はどのような状況だろうか?例えば、画期的な新薬を全世界で発売するためには、何人の販売担当リーダーが新たに必要だろうか?あなたは、ある事業を拡大しようとしているのか、それとも縮小しようとしているのか?新しい市場に対して従来と違うアプローチをしようとしているのか?もしそうだとしたら、新しい市場に向けてスタッフを増やす必要はあるのか?

🔶人材の動向:
組織の内外のどのような動向が、リーダーの供給に影響を及ぼしているだろうか?例えば、定年を間近に控えた高齢者層、民族および性別の多様性、離職率リスク、地域によって異なる人材獲得力とその維持力、そして若い世代への新たな期待などが含まれるだろう。 

🔶組織の取り組みの状況:
あなたの組織内の人事システムはどの程度成熟しているか?トップはコミットし、支援しているか?人事システム(求人、採用、能力開発、業績管理、報酬)のうち現在機能しているものと、していないものは?新たな戦略を作って実行する際、人事部門にはどのような強みがあるか?そして彼らは、最高経営幹部から信頼されているのか? 

🔶重要な役割:
戦略の実施に必要不可欠で、かつ、組織の価値の源に影響を与える重要な役割やポジションはなんだろうか?例えば世界的な小売企業では、店舗のマネージャーを、戦略の実施に最も不可欠なポジションと捉えているかもしれない。一方、ある製造会社では、製品担当マネージャーを重要なポジションのひとつと見ているかもしれない。どのような組織も自分たちの役割をよく考えて、重要だと定義づける要因を決める必要があるが、同時に以下についても考える必要があるだろう。

  • 本業の業績に与える影響:売り上げ、利益、品質、顧客満足など。

  • 主要なビジネス優先事項や戦略的取り組みに与える影響。

  • 候補者や現職者から後任を探すのが難しい特別なスキル。

  • 多数の従業員や組織の文化など広範囲に与える影響。

  • 成長、拡大、優先事項の変更による、ポジションの需要拡大の予測。

重要な役割は、組織の業績に大きな影響を及ぼす。つまり、リーダーシップ人材のニーズの優先順位を決める際、そして人材の配置と能力開発を決める際には、重要な業務の定義づけが欠かせないということである。

階層ごとのリーダーシップのニーズ:どのような組織も、独自のリーダーのパイプラインを持っており、リーダーはそこを通って昇進したり横滑りしたりする。一般社員からCEOまで階級が上がるにつれて、役割と責任の複雑さが増す一方で、役割に求められる要件が大きく変わる移行期が存在する。そのため、即戦力のあるリーダーを安定的に供給すること、そしてリーダーシップ人材の質と量を予測する際に組織のこれらの階層区分を考慮することが重要に(そして難しく)なる。分析の結果、われわれは組織のパイプラインには通常3~4箇所の大きなリーダーシップの移行期があることが明らかになった。 

組織の中には、7~8の階層に分けているところもあるが、リーダーシップの育成戦略が成功しているのは、4~5の階層(例えば、最高経営幹部、戦略リーダー、業務リーダー、人事リーダー、一般社員)に分けている組織が多い。この構造はよりシンプルなため、リーダーが昇進していく中で最も難しい移行期が明確になる。図1.2は、リーダーシップの階層(移行)の定義の例を示している。

🔵1.2図リーダーシップ・パイプラインの例

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🔵1.3図リーダーシップ能力のギャップの計算方法

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人材の必要性についての数量的な説明は、人材開発の加速化のために非常に強力な論拠を生みだす。

🔶人材のギャップ:
図1.3で示したような単純な計算方法で、リーダーシップのギャップは数量化できる(詳細は付録1.3を参照)。これはいくつもある人材の予測方法のひとつに過ぎないが、重要なのは、人材の必要性についての質的な説明に加わる数量的な説明である。これにより、もし育成の取り組みが失敗した場合、どのようなことが起こるのかが想像でき、人材開発の加速化のための非常に強力な諭拠を生みだすことができる。組織のリーダーシップの必要性を数値化すると諭拠が明確になり、どんな成長エンジンを用意すればよいかがわかる。

3.成長エンジンを調整する 

リーダーシップのギャップを洗い出すことができたら、次はそれをどのようにして埋めるのか計画を立てよう。つまり、リーダーの育成を目的としたプログラムや取り組み――成長エンジン――の構築や調整をするのだ。期間は、ビジネス目標の期間に合わせればよい。ビジネス目標は長期で立てているにもかかわらず、人材開発戦略は毎年作り直される例をよく目にするが、そもそも人材に関する取り組みは、短期と長期両方のビジネス目標の達成を支援するものでなければならない。また計画は、求められる活動(取り組みの優先順位づけ、タイミング、アカウンタビリティ、マイルストーンなど)も明らかにしなければならない。
 
成長エンジンは、人材開発の取り組みにどのような要素を含めるか、さらにその取り組みをどのように実施していくかの両方を定義しなければならない。取り上げるべき分野は以下の通りである。
 

サクセス・プロフィール:
成長エンジンの中心にあるのは、各階層における優れたリーダーシップがどのようなものかを明確に示すサクセス・プロフィールである。これはビジネス・ドライバーから生じるもので、求められる知識や経験、コンピテンシー、個人特性(モチベーション、性格など)が含まれる。第2章で、より詳細なサクセス・プロフィールの決め方と作り方について述べる。 

◆パイプラインの充足:
これには、より時間やリソースをかけて能力開発を加速化するハイポテンシャル人材の特定のほか、外部からの募集と採用も含まれる。第3章で、組織のリーダーシップを明確に示すタレントレビュー(現在/将来の事業戦略における人材の見極め)への取り組みや、速い成長と高い階層での成功が見込まれるハイポテンシャル・リーダーのプールへの取り組みについて詳説する。 

準備度の診断:
これには、誰がひとつ上の階層のリーダーになれるかを判断し、その成長を加速化する最優先事項を選び出すための診断法が含まれる。アセスメントは、大規模な能力開発の取り組みのリスクを減らし、どの能力開発の取り組み(エグゼクティブ・コーチング、トレーニング、仕事のアサインメントなど)が最も有用であるかを決めるのに役立つ。第4章で、アセスメント・システムを人材開発の加速化のために最大限に利用する方法を詳しく述べる。 

能力開発の加速化:
次の階層に移行する準備と同時に、現在のポジションでの仕事ぶりを強化するためには、どのような能力開発をしたらよいのだろうか。そのプロセスは、個々人のさまざまな学習ニーズと、パイプラインのそれぞれの階層の同僚や上司からの期待に合うように作らなければならない。さらに、能力開発戦略は個人レベルおよび集団レベルの両方で定義し、トレーニングとそれ以外の取り組み――アクション・ラーニング、ラーニング・ジャーニー、同僚あるいは経営幹部によるコーチングなど――の双方が組み込まれていなければならない。理想的な能力開発戦略を作る方法は第5章で説明する。

パフォーマンスの促進:
これは主に個人とチームの目標を、組織のビジネス目標(戦略的優先事項)と結びつけるパフォーマンス・マネジメントプロセスである。

4.ダッシュボードを作成する

リーダーシップの優先事項を、ビジネスの成功を促進するいくつかのビジネス・ドライバーに集約したら、今度は進捗状況を継続的に確認しなければならない。これはなかなか厄介だ。次に何をするかが重要であり、それがただのリップサービスと意昧のある行動の違いをはっきりさせる。どんなリーダーシップが必要なのかを語るのと、実際にそれを達成するための進捗度合いを示すのは別ものだ。人材開発の加速化システムを厳密に評価し、成長を加速化すると口約束をしておいて、結局必要なエネルギーや緊張を作り出すことができなかった組織をわれわれはいくつも見てきた。 

ある金融サービス企業が実際に経験したことが良い例だ。その企業は、当面の利益の素となる、そして将来的には会社の末来を担う可能性のある事業で、深刻な人材不足に陥った。ビジネスモデルは前途有望だったが、それを機能させるリーダーシップ能力が足りなかったのだ。そこで経営幹部はリーダーシップの人材開発の加速化プログラムを設計し、2つの測定基準を、進捗状況を測る主要な指標とした。①主要な人材の定着と、②各人の能力開発計画の作成である。しかし経営幹部の作ったこの測定基準は、成長を保証するには至らなかった。リーダーシップ能力の実際の成長や準備度の進展を示すような測定基準ではなかったのだ。やがて2年も経たないうちに事業は低迷し、経営幹部は主要な事業を売却し、大幅な人員削減を行わざるを得なくなった。

これを、似たような課題に直面した外食企業と比べてみよう。その企業も、35人のハイポテンシャル・リーダーを対象に精力的な人材開発の加速化プログラムを実行した。だが、その企業が採用した進捗状況の確認方法は、金融サービス企業とはまるで違っていた。経営幹部が注目したのは次の6つの測定基準である。

🔶能力開発計画に対する進捗状況:
能力開発計画を作るだけでは十分ではない。すべての計画について四半期ごとに経営幹部がレビューを行い、目標が達成されたか、さらなる開発が必要かなどを判断した。その後、進展が見られた計画と見られなかった計画の比率を調べた。

🔶能力開発の難易度:
経験の少ないリーダーは早急に能力を開発する必要があるため、段階的に進めていてはうまくいかない。すべての開発計画について、どれだけ負荷をかけて個人の能力をどこまで伸ばして、ビジネスに必要な新しい能力をいかに習得するか…という観点でレビューを実施し、集約した難易度は一覧表で共有された。

🔶能力開発計画の完了のスピード:
計画は開始日が決められ、目標が達成されると終了日が記録された。人事部門は完了までの期間をモニタリングし、経営幹部の検討会議で時間や人材開発の加速について話し合いや評価が行われた。完了までのスピードは段々速くなっていった。 

🔶能力開発計画のビジネスへの影響:
できあがった能力開発計画が、ビジネスにどれだけ好影響を与えたのかが評価された。人材の定着や一般的な能力開発を中心に作りこんだ最初のプランはその多くが作り直され、ビジネスの特定の取り組みと結びつけられた。これはある種の賭けでもあったが、計画がうまく行った場合のメリットも多くなった。 

🔶準備度:
リーダーシップ能力のギャップを数値化した後、経営幹部は四半期ごとにギャップの充足の進捗度を見直した。ハイポテンシャル・リーダーが能力開発計画を完了して、さらに上の階層の業務に取りかかるようになると、幹部陣は準備度のレベルを調整した。リーダーシップの準備度が、重要な役割に対する準備度と、全社的なギャップに対する進捗度で示された(図1.4参照)。 

🔶多様性:
経営幹部は、準備度と同様に、多様性を測る目標を決め、それに対する進捗度を定期的に見直して、性別や民族、経歴(技術系か管理系か)に焦点を当てた。このデータによって、それに続くリーダーシップのポテンシャルを特定する取り組みの必要性が指摘され、少数派のグループからのリーダーの比率が増えた。
 
ダッシュボードでモニタリングできるデータは他にもあった(付録1.4に、人材開発の加速化の進捗度を測るのによく使われる他の指標が紹介されている)が、この外食企業は、優先度が高く、加速化の進展と準備度の向上に貢献した項目のみに絞ったところ、非常にうまくいった。取り組みを開始してから2年後、この企業では主要なポジションの80%以上の後任者が確保できた。多様性の目標も達成し、チャンスをうまく利用して堅調な成長を続けることができた。

🔵1.4図人材開発の加速化のダッシュボード例

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5.持続のための戦術を作る

人材開発の加速化戦略は、どのようにしてそこに重点を置き続けるか、重要なことを放って緊急性の高いほうに取り組みたいという誘惑に、いかに勝つかを理解するまでは、まだ完成したとは言えない。

リーダーシップに関する話し合いとビジネスに関する話し合いを整合させる。リーダーシップの人材開発の加速化に関する話し合いが、ビジネスに関する話と乖離していると、最終的には前者が忘れ去られてしまう。リーダーシップに関する話し合いは、年に一度のタレントレビューでは確実に足りない。人材開発の加速化を維持するためには、戦略やビジネスに関する話し合いの際に、リーダーシップも話題にすることが必要だ。もちろん、どの組織にも計画作成にはそれぞれの取り組みがあるし、それを変えるという難題に取り組んだことがあるかもしれない。だが最善の取り組みは、戦略的ビジネス計画のプロセスを根本から変えないことだ。それよりも、人材に関する話をしていくことでそのプロセスを補強するほうがよい。

リーダーシップに重点を置き直すことにしたある製薬会社は、人材について話し合う一年に一度のプロセスを以下のように変えた。

・期初に、CEOとビジネスユニット(BU)リーダーとの間で目標設定のための個人面談を実施する際、CEOがリーダーシップに関する項目を追加した。CEOとBUリーダーは、何をリーダーシップの最優先事項とするかについて合意し、リーダーの成長目標を設定し、進捗を毎月の最新情報の報告に組み込んだ。これらの目標に対する実績は、BUリーダーのボーナスの決定要因のひとつになった。

・戦略計画の作成のプロセスに、リーダーシップ開発に関わる目標設定を加えた。BUごとに優先事項が決まったので、リーダーシップに関するニーズも特定された。そして、会社全体とビジネスユニットリーダーに求められることが、戦略計画作成のセッションの最後に決定され、翌年の全社レベルおよびBU レベルのリーダーの成長目標ができた。

・四半期ごとの業務レビュー(CEOと各BUのリーダーから成るリーダーシップチームとで行う)に、BUレベルのリーダーの成長目標に対する進捗度合いや、特別な(加速化された)能力開発を受けているハイポテンシャル・リーダーのより詳細な最新情報も組み込むようにした。

・重要な役割に関する話し合いに加え、全社レベルおよびBUレベルでのリーダーシップ能力のギャップ(数値化された)の話し合いも年に一度のタレントレビューに組み込まれた。これには目標に対する進捗度合いや成長エンジンの取り組みにどんな調整を加えたらよいかという助言も含まれた。

・戦略計画作成の全プロセスと業務レビューは同じスケジュールとルーティンで行われ、人材に関する話し合いもこれらのレビューにより深く組み込まれた。新たな戦略は、それを実施するために必要なリーダーシップも含めて検討された。そしてリーダーシップの能力不足が障壁となっていることが確認された場合は、経営幹部がそのギャップを埋めるための目標を設定し、それがビジネスプランに組み込まれた。

こうすることで、この製薬会社はビジネスのプロセスを解体することなく、リーダーシップに関する話し合いを新たに作り直した。第3章でタレントレビューについて論じるときに、この問題を再び取りあげる。

「なぜか」を頻繁に伝える。「Good」な人材開発の取り組みでは、すべてのプロセスがどのように完結するかを明らかに[河野1] する。「Great!」なタレントマネジメント・システムも同様だが、ただし、理由を先に説明する。どんなにうまく設計された学習プログラムでも、その存在理由が説得力のある言葉で説明されないと、効果は薄れてしまうだろう。強力なコミュニケーション戦略があれば、人材開発の加速化についての説得力や推進力が増し、それぞれの取り組みがビジネス目標にとっていかに重要かをわかりやすく伝えることができる。

例を挙げよう。ある大手自動車メーカーに長く勤めるリーダーが、経営陣の同僚にこう訴えた。「若いリーダーたちがただ単にわれわれを真似るだけなら、わが社の将来は大変なことになるだろう」と。そして、今社内で行われているリーダーシップの取り組みが、競争優位性を得る障害になっていることを、実例をあげて説明した。リーダーシップを学び、会社を前に進めていく、よりよい方法を見つけだして前任者たちをしのげ――経営幹部は、若いリーダーにそう伝えて鼓舞しなければならない。彼の主張は、経営陣とハイポテンシャルな人材を参画させる有効な基盤となった。

相互にアカウンタビリティを持つ。人材開発の加速化活動(タレントレビュー、アセスメント、能力開発計画の作成)が明らかになったら、経営陣はグループ内に圧力を感じ(そして与え)なければならない。進展が不十分か、目標が適切かというような質問を互いにし合うことで、さらなる取り組みに向けての意識が高まり、目標達成やアカウンタビリティへの関わりが強くなる。もちろん、CEO自身もこの取り組みを積極的に進め、模範とならなければならないが、グループが互いに高い水準を保つことに慣れれば、自立的な取り組みになるだろう。人材育成のために相互に緊張を与え合うことは、組織全員のためになり、システムにかかる健全な圧力の強化になる。

人材開発の加速化のリーダーとしてのスキルを身につける。経営幹部は、コーチやメンターとして他者の能力開発を支援しなければならない。だがその分野の才能に恵まれている人は実は少ない(04)。そうなると、メンター、コーチ、人事担当者、その他の関係者などに、能力開発の支援に必要なスキルを身に付けさせる必要が出てくる可能性がある。コーチング、人材開発計画の作成と継続的な進捗確認、能力開発に関するトレーニングなどだ。また、人事担当者を対象に、ビジネスリーダーの戦略的パートナーとしてのスキルを身につけさせるトレーニングが行われることもある。この章では、人事や人材管理のプロが、どのようにビジネスリーダーの戦略的パートナーとなり、自分たちの価値を高めることをできるかを示している。

進捗度合いを測る。「測定しないものは管理できない」とよく言われる。これは特に人材開発の加速化戦略によく当てはまる言葉だ。測定することで、焦点が定まり緊張が生まれ、人材開発戦略の実施に必要な具体的な目標を決めることができる。最も効果的な測定は、人材開発の何がうまくいっているか、なぜその取り組みが効果的なのか、それが組織にどんな影響を与えているか…といったことを数値化する統計にとどまらない。多くの組織では、バランス・スコアカードに人材管理の成果の厳格な測定基準を含め、 役員会でそれを見直す。興味深いことに、多くの組織で、1年を超える期間(18カ月、2年など)の戦略に対して測定基準を使う傾向が見られる。付録1.4に、人材開発の加速化システムでよく使われる測定基準を紹介している。

✅「まとめ」リーダーシップ開発の加速化はビジネスの優先事項である 

人材育成で成功を収めたCEOは、人材管理に最大の関心を示す。この章で述べられた(図1.5 リーダーシップ開発の加速化戦略モデルに描かれた)活動を採用する組織は、採用しない組織と比べて能力開発戦略の実施において効率的で、より高い実績をあげている。優れたリーダーがいる組織は、財務面で最優良企業になる可能性が、凡庸なリーダーしかいない組織の6倍以上となっている(05)。このような組織は人材管理の測定基準を最重視して、組織内のリーダーシップ状況をより速く、より徹底的に変えるために、人やプロセス、戦略を動かす方法を常に模索している。彼らは容易に組織の外から新しい人材を採用したり、人事部門にすべてを委託することはしない。彼らは組織が自力で成長を加速化するための戦略を採用し、それをビジネスにおける最優先事項に引き上げるのだ。

🔵1.5リーダーシップの人材開発の加速化戦略モデル

🔷おすすめ人材アセスメントソリューション

①コンサルティングソリューション

②オンラインシミュレーションアセスメント&アセスメントシステム

③オンライントレーニング&ディベロップメント

🔷DDIとは

DDIは、世界最大手の革新的なリーダーシップ・コンサルティング企業です。1970年の設立以来、この分野の先駆者として、リーダーのアセスメントや能力開発を専門としてきました。顧客の多くは、『フォーチュン500』に名を連ねる世界有数の多国籍企業や、『働きがいのある会社ベスト100』に選ばれている世界の優良企業です。

DDIでは、組織全体におよぶリーダーの採用、昇進昇格、能力開発手法に変革をもたらす支援をすることで、すべての階層において事業戦略を理解し、実行し、困難な課題に対処できるリーダーの輩出に貢献しています。

DDIのサービスは、現地事務所や提携先を通じて、多言語で93カ国に提供されています。また、同社の研究開発投資は業界平均の2倍であり、長年にわたる実績と科学的根拠に基づいた最新の手法を駆使して、組織の課題を解決しています。

◆DDI社の4つの専門分野

DDI社は、4つの専門分野を中心に、長年の実績と科学的根拠に裏付けられたソリューションと、より深い洞察を提供し、優れた成果を生み出しています。

🔷会社概要

会社名:株式会社マネジメントサービスセンター
創業:1966(昭和41)年9月
資本金:1億円 (令和 2年12月31日)
事業内容:人材開発コンサルティング・人材アセスメント

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