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【エネルギー事業者必見】成功する発電アセット投資とは?~火力発電所を事例に評価手法を紐解く~

はじめに

本記事の目的は、電力、石油、ガスなどのエネルギー事業者に対して、上流資源(例:ガス田)への投資と発電アセットを同時に保有することで、燃料価格の変動を相互に吸収し、価格変動リスクを軽減する手法を提供することにあります。これは、燃料価格の変動が事業収益に与える影響を最小限に抑え、事業の安定性を向上させるための戦略です。

本記事では、こうしたリスク軽減のためのフレームワークを構築するために必要な論点を整理し、具体的な分析手法や評価基準を提供します。その中でも、特に2つの重要な視点に焦点を当てています。1つ目は、ポートフォリオ効果の定量的評価であり、2つ目は、主要なリスク要因の特定とそれらが事業採算性に与える影響の分析です。

ポートフォリオ効果とは、上流と下流のアセット(資産)を同時に保有することで、リスクを低減できる効果を指します。本書では、上流と下流に単独で投資する場合と比較して、両方に同時に投資した場合のリスクがどのように小さくなるかを具体的なデータと計算を用いて示します。また、投資ポートフォリオにおいて、リスクを一定の条件下に抑えつつ、最大の期待収益を得るための最適な権益比率を探索します。このプロセスでは、リスクを収益の変動幅、リターンを期待収益率として定義し、これらの関係を数値的に評価します。

次に、本書ではガスの井戸元価格やガス輸送価格、原油価格、電力販売価格といったリスク要因を抽出し、各要因が投資リターンにどの程度の影響を与えるかを感度分析によって明確にします。この分析により、エネルギー事業におけるリスク管理の重要性を示し、事業の成功に不可欠なリスク要因を適切に管理する方法を提示します。

各章の概要は以下の通りです。

第一章では、具体的な投資先や初期投資額、電力価格やガス輸送価格などの計算条件を詳細に設定し、財務データの分析を行います。これにより、事業の収益性に影響を与える主要な要因を特定します。

第二章では、異なるケース設定に基づく計算結果を提示し、ガス価格や化石燃料価格の変動が事業採算性にどのような影響を及ぼすかを比較分析します。

第三章では、効率的フロンティアと感度分析の結果を基に、どのような投資戦略がリスクとリターンの最適なバランスを取れるかを示します。

第四章では、これらの分析結果を総括し、最適な投資判断を導き出すための結論をまとめます。

これらの分析を通じて、本書はエネルギー事業者が価格変動リスクに対してより効果的に対処し、持続可能な収益性を確保するための道筋を提供します。

<目次>

はじめに
第一章 条件設定
1.計算条件の整備
1.1 投資先について
1.2 初期投資額の算定
表1-1 ガス火力発電のM&A取引実績
表1-2 プロジェクトコストから逆算した単位発電容量あたりの買収価格
表1-3 負債額と資本比率から逆算した単位発電容量あたりの買収価格
図1-1 単位容量あたり買収価格の推移
1.3 電力価格の設定
表1-4 NEMMCOのWebサイトによる電力トレーディング価格
図1-2 電力平均価格の最低値と最高値
表1-5 HSBCの資料による電力の年平均価格
表1-6 NEMMCOのWebサイトによる電力の年平均価格
1.4 ガス輸送価格
表1-7 参考ガス輸送コスト
1.5 蒸気収入
1.5.1 蒸気量
1.5.2 蒸気価値の設定
表1-8 蒸気価値の設定値
1.5.3 排熱利用率
1.5.4 蒸気買取契約の取扱い
1.6 メンテナンス費用とその他の費用
表1-9 A発電所におけるメンテナンス費、人件費等のコスト内訳
表1-10 A発電所におけるメンテナンス費、人件費等のコスト内訳
表1-11 単位発電容量あたりの費用
表1-12 各費用項目の経年比
1.7 税金の取扱い
1.8 PPAの取扱い
1.9 ピークカットの取扱い
1.10 スタートアップ費用
2.計算条件の設定
表2-1 井戸元価格の設定
表2-2 単位換算と為替レート
表2-4 上流アセットの条件
表2-5 下流(発電)アセットの条件
表2-6 その他の条件設定値
表2-7 電力価格ピーク時上昇率
第二章
3.財務データの分析
3.1 上流(ガス田)の財務データ分析
3.1.1 生産物
表3-1 The table below gives an overview
3.1.2 年間収入
表3-2 各生産物の年間収入の推定値
3.1.3 オペレーションコスト
表3-4 オペレーションコスト
3.1.4 内部収益率と負債残高
表3-5 内部収益率(IRR)の算出
表3-6 負債残高の推移
3.2 下流(発電所)の財務データ分析
3.2.1 Osborne Cogen
表3-7 Osborne Cogenの将来の予測キャッシュフローと予測IRR
3.2.2 Bulwer Island CGS
表3-8 Bulwer Island CGSの将来の予測キャッシュフローと予測IRR
3.2.3 Valley Power Peaking
表3-9 Vally Power Peakingの将来の予測キャッシュフローと予測IRR
4.投資先のケース設定
表4-1 上流と発電所の権益比率
表4-2 上流と発電所の投資額
5.ケース毎の計算結果
5.1 標準ケースの計算結果
表5-1 標準ケースの計算結果
5.2 天然ガス価格がLowケースの計算結果
表5-2 天然ガス価格がLowケースの計算結果
表5-3 天然ガス以外の化石燃料がLowケースの計算結果
表5-4 ボラティリティー(リスク量)
第三章 結果
6.効率的フロンティア
表6-1 分析結果
図6-1 効率的フロンティアの算出
7.感度分析(各パラメーターの寄与度の把握)
表7-1 IRRの感度分析
図7-1 上流のみに投資した場合のトルネードチャート
図7-2 発電アセット(1)のみに投資した場合のトルネードチャート
図7-3 発電アセット(2)のみに投資した場合のトルネードチャート
図7-4 ケース3の配分で上流・下流に投資した場合のトルネードチャート
第四章 結論
8.まとめ

第一章 条件設定

1.計算条件の整備

1.1 投資先について

 上流資産(ガス田)と下流資産(発電所)を同時に保有することで、燃料価格の変動リスクがどの程度低減されるかを定量的に評価します。具体的には、まず上流資産に関しては、投資する権益の取得比率を設定します。次に、下流資産については、2つの発電所を同時に保有した場合のリスク低減効果を中心に分析します。ただし、本分析手法は汎用性が高く、3つ以上の発電所を保有する場合でも同様に適用できることを念頭に置いています。

これにより、上流資産と下流資産を組み合わせることで、燃料価格の変動によるリスクをより効果的に管理できる可能性があることを示すことを目指します。この分析は、資産の組み合わせや保有割合によってリスクがどのように変化するかを明らかにするものであり、リスク管理において重要な判断材料を提供します。

 1.2 初期投資額の算定

 まず、過去の類似した買収事例を参考にして、買収価格の範囲を把握しました。表1-1に示すように、利用可能なデータとしては、過去の3件の買収事例のみを収集しました。これらのデータは限定的ではありますが、買収価格の目安を把握するための貴重な参考資料となります。

 次に、実際のシミュレーションを行うにあたり、初期投資額については、2つの異なる視点から単位発電容量あたりの買収価格を算出しました。1つ目の視点は、過去のディール(買収案件)の価格や資産構成比率に基づいて算出した買収価格です。2つ目の視点は、タイやアメリカにおける過去の実績(注1)を基に推定した買収価格です。

このように、複数の視点から算出されたデータを組み合わせることで、より正確な初期投資額の目安を得ることができます。このアプローチにより、異なる市場や事例に基づく分析を行い、シミュレーションの精度を向上させることを目指しています。

表1-1 ガス火力発電のM&A取引実績(※最新のデータ公開不可)

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