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アガサクリスティーについて

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アガサ・クリスティー関係の記事をまとめています
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#アガサ・クリスティ

アガサ・クリスティー『シタフォードの秘密』The Sittaford Mystery(1931)紹介と再読感想

アガサ・クリスティー 田村隆一訳『シタフォードの秘密』早川書房, 1985 『雪山書店と嘘つきな死体』を読んだら読みたくなったため、かなり久しぶりの再読をしました。昔読んだ時より全体の印象が良く面白かったです。 あらすじ 雪深い夜にシタフォード荘を借りているウィリット母娘に招待された人々は、降霊会を行うことになった。 緩い空気の中で行われていた降霊会だが、シタフォード荘の持主であるトリヴィリアン大佐の死が予言されたことで空気が変わる。 親友のバーナビー少佐は雪が降ってい

ポワロ長編7『エッジウェア卿の死』Lord Edgware Dies(1933)紹介と再読感想

アガサ・クリスティー 福島正実 訳『エッジウェア卿の死』早川書房, 1979 今年放送された『アリバイ崩し承ります』のSPドラマで取り上げられたことも記憶に新しい本書を再読しました。かなり久しぶりのポワロ(早川書房ではポアロ表記)長編再読です。 本書の再読は、ドラマではたまに再見していましたが、20年ぶり位かもしれない。 あらすじ ポアロは、新進気鋭の女優カーロッタ・アダムズの寸劇を観に行った夜に、大人気女優ジェーン・ウイルキンスンから夫と離婚するのに協力して欲しいと依

ポワロ長編27『死者のあやまち』Dead Man's Folly(1956)紹介と再読感想

アガサ・クリスティー 田村隆一訳『死者のあやまち』早川書房, 1983 アガサ・クリスティー 羽田詩津子訳『ポアロとグリーンショアの阿房宮』早川書房, 2015 クリスティーが夏の休暇を過ごしたダート川のほとりにあるグリーンウェイをモデルに描かれた長編になります。 また、最初は中編として描かれながら、長編に書き改められて刊行された経緯を持つ小説でもあります。 『ポアロとグリーンショアの阿房宮』が刊行された時以来の再読となります。 あらすじ オリヴァ夫人にナスコームのナス

アガサ・クリスティー『死者のあやまち』映像化作品 紹介と感想

ピーター・ユスティノフ主演 ドラマ版 第2作『死者のあやまち』Dead Man's Folly(1986/米) ヘイスティングスとオリヴァー夫人が夢の競演をするユスティノフ版は、他のドラマ版と変わらず制作当時が舞台となっています。 80年代を舞台としているのが、日本の2時間サスペンスでも良く見る当時を再現するには予算や時間がかかるという都合によるもので、80年代である意味がなく、むしろ雑音であるというのは雰囲気に浸りたい人にはマイナスポイントになるかと思います。 ジーン

ミス・マープル長編05『魔術の殺人』They Do It with Mirrors(1954)紹介と再読感想

アガサ・クリスティー 田村隆一訳『魔術の殺人』早川書房, 1982 『カリブ海の秘密』を読んだので、続けてヘレン・ヘイズ主演2作目の原作『魔術の殺人』も十数年ぶりに再読しました。 あらすじ マープルは旧友のヴァン・ライドック夫人に頼まれ、夫人の妹でマープルも友人であるキャリイの邸宅ストニイゲイトを訪れた。 キャリイは3番目の夫・ルイスと共に非行少年の更生を図る事業に取り組んでいた。 どこか現実離れしたキャリイに、理想家のルイス、キャリイの娘ミルドレッド、キャリイの幼女だ

ミス・マープル長編09『カリブ海の秘密』The Caribbean Mystery(1964)紹介と再読感想

アガサ・クリスティー 永井 淳訳『カリブ海の秘密』早川書房, 1977 あらすじ 少し前まで肺炎を患っていたマープルは、甥のレイモンドの後押しもあり、西インド諸島のサン・トレノにあるホテルに滞在していた。 ある日、宿泊客の一人であるパルグレイヴ少佐がマープル相手に殺人の話をしていると、マープルの後方を気にしてから殺人犯が写っているという写真を慌ててしまった。翌日、少佐が急死していまい、病死として処理される。 不審に思ったマープルが独自に捜査を開始すると、少佐が持っていた写

ヘレン・ヘイズ主演ミス・マープルシリーズについて(1983・1985)

1980年代にワーナー・ブラザーズ制作のテレビ映画として2作品が作られたヘレン・ヘイズ主演のアメリカ製ミス・マープル。 舞台となっている時代は制作当時の80年代になります。 ミステリーとしてあまり複雑ではない2作品が選ばれ、そこから更に原作よりミステリーとして緩く仕上げてあります。 ヘレン・ヘイズ演じるマープルは原作のマープル像とは違いますが、ヒクソン版以外の映像化も原作のマープル像とは違うマープルの方が多いためさほど気になりません。 2作品とも娯楽ミステリードラマとして充

トミーとタペンス第2弾『二人で探偵を』Partners in Crime(1929)紹介と再読感想

アガサ・クリスティー 野口百合子訳『二人で探偵を』東京創元社, 2024 早川書房からは『おしどり探偵』として出版されている本作。 今回は今年出版された創元推理文庫の新訳版で再読しました。 収録短編あらすじ 「フラットの妖精」 結婚して6年、暇を持て余していたタペンスの願いに応えたかのように、ミスター・カーターから新たな任務と共に、国際探偵社をやってみないかと誘いを受けた。 「お茶を一杯」 二つ返事で引き受けた探偵社だったが、離婚問題以外の仕事が来ないのだった。タペン

アガサ・クリスティー『茶色の服の男』The Man in the Brown Suit(1924)+殺しのブラウン・スーツ(1989)紹介と感想

アガサ・クリスティー 深町眞理子訳『茶色の服の男』早川書房, 2020 今回は、購入以来読めていなかったハヤカワ・ジュニア・ミステリ版で再読しました。 あらすじ 冒険に憧れていたアン・ベディングフェルドは、父親が死んだことを機に、僅かな遺産を持ってロンドンへと出て来た。 ある日のこと、アンは地下鉄のホームから男が落ちて死んだ現場に遭遇し、その死体に近寄った茶色の服の男が落としたメモを拾う。 その後、二人の男はサー・ユースタス・ペドラーの持ち家であるミル・ハウスで起こった

アガサ・クリスティー『七つの時計』The Seven Dials Mystery(1929)紹介と再読感想

アガサ・クリスティー 深町眞理子 訳『七つの時計』早川書房, 1981 Netflixでドラマ化が発表された『七つの時計』を再読しました。 かなり久しぶりの再読でしたが、20年代末期の発表だけあり、初期冒険物では意図して謎解きミステリー要素を強めており面白かったです。 あらすじ チムニーズ館に滞在しているビルやジミーら若者達は、寝坊助の友人ジェリー・ウェイドの部屋に、8つの目覚まし時計を仕掛ける悪戯を実行した。 しかし、翌朝目覚ましが鳴り響く中、ジャリーは既に息絶えてお

アガサ・クリスティー『パーカー・パインの事件簿』紹介と再読感想

アガサ・クリスティ 山田順子訳『パーカー・パインの事件簿【新訳版】』東京創元社, 2021 アガサ・クリスティー・アワーを再見したため、シリーズ内でドラマ化されたパーカー・パインも再読しました。 また、パーカー・パインは個別短編集の他に2編の短編があり、早川書房では『パーカー・パイン登場』と『黄色いアイリス』に分かれて収録されています。 東京創元社の『パーカー・パインの事件簿【新訳版】』では、この別に収録されていた2編も合わせて1冊に納めておりクリスティーによる前書きもあ

アガサ・クリスティー『殺人は容易だ Murder is easy』(1939)紹介と再読感想

アガサ・クリスティー/高橋 豊 訳『殺人は容易だ』早川書房, 1978 『ゼロ時間へ』を再読した流れから、去年のBBC製作クリスティー原作ミニドラマシリーズに選ばれた『殺人は容易だ』も、10数年ぶりに再読してみました。 あらすじ 植民地で警官をしていたルークは、引退してイギリスへ戻って来た。 友人の家へ行く途中の列車で同席したピンカートンという老婦人から、ウイッチウッド・アンダー・アッシュと言う小さな町で3人の人間が殺され、近く4人目が殺されそうなのでロンドン警視庁へ行

アガサ・クリスティー『殺人は容易だ』ドラマ作品 紹介と感想

『殺人は容易だ』Murder Is Easy(1982/米) ワーナーが80年代に製作していたクリスティー原作テレビ映画シリーズの1本です。 時代は製作当時の80年代になっており、舞台はイギリスの村ですが、ルークはアメリカ人でコンピューターの専門家になっています。 ルークを事件に呼び込むことになるフラトン(原作のピンカートン)には、同じくワーナー製作版『カリブ海の秘密』『魔術の殺人』でミス・マープルを演じるヘレン・ヘイズが出演しています。 他にも、オリヴィア・デ・ハヴィ

アガサ・クリスティー『ゼロ時間へ Towards Zero』(1944)紹介&再読感想

アガサ・クリスティー/田村隆一訳『ゼロ時間へ』早川書房, 1976 BBC製作のクリスティー原作ミニドラマシリーズの次作が『ゼロ時間へ』だと発表され、最近読んだ『殺人は容易ではない アガサ・クリスティーの法科学』の著者が好きだと言っていたのもあり、10数年ぶりに再読しました。 あらすじ 著名な弁護士であるトリーヴス氏は常々、「殺人というものは終局であり、ゼロ時間の一点に集中されている」と考えていた。 1月、マクハーターという男が自殺に失敗し病院に入院していた。 2月、一