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アガサ・クリスティー『殺人は容易だ』ドラマ作品 紹介と感想


『殺人は容易だ』Murder Is Easy(1982/米)

ワーナーが80年代に製作していたクリスティー原作テレビ映画シリーズの1本です。
時代は製作当時の80年代になっており、舞台はイギリスの村ですが、ルークはアメリカ人でコンピューターの専門家になっています。

ルークを事件に呼び込むことになるフラトン(原作のピンカートン)には、同じくワーナー製作版『カリブ海の秘密』『魔術の殺人』でミス・マープルを演じるヘレン・ヘイズが出演しています。
他にも、オリヴィア・デ・ハヴィランドなど、今見ると大分懐かしく顔ぶれが揃っており、役者陣でも楽しめます。

フラトンは、ルークの目の前でひき殺されてしまうという展開になっており、ルークの事件へ関わる動機も強くなっています。
基本的に原作に忠実ですが、一部の事件はルークが村に来てから発見されるなど、不可解な死の状況が視聴者にも分かりやすくなっています。

ルークが得意のパソコンに様々なデータを入れて推理を行う場面もありますが、原作通りルークは真相へ辿り着くのが関係者の中でも遅いので、もちろんパソコンで犯人を特定できることはありません。
そして、リード巡査がバトル警視の役割も吸収しているため、終盤になると怒涛の大活躍を見せるのも見どころになります。

80年代アメリカ2時間ドラマのノリや、現代が舞台になっていることでの原作との違和感などを気にしなければ、原作の映像化としては中々楽しめるドラマ化だと思います。
この後のドラマ化が原作改変度の高い物が多いため、むしろ安心感すら感じるかもしれません。

「コンピューターに全情報を入力して、だれが犯人かを推理させるのさ」
「本気なの?」
「僕はこの道のプロだぞ。データさえ正確なら結果に誤りはない」

ブリジットと一緒にコンピューターを使用して推理をする場面より

ドラマ概要
脚本:カルメン・カルヴァー
演出:クロード・ワサム
時間:95分

キャスト
ルーク・ウィリアムズ/ビル・ビクスビー
     ブリジット/レスリー=アン・ダウン
      ホノリア/オリヴィア・デ・ハヴィランド
ラヴィニア・フラトン/ヘレン・ヘイズ
    ホートン少佐/パトリック・アラン
    トーマス医師/シェーン・ブライアント
     リード巡査/フレディ・ジョーンズ
   エルズワージー/ジョナサン・プライス
      ゴードン/ティモシー・ウェスト
      アボット/アンソニー・バレンタイン


ジュリア・マッケンジー主演『ミス・マープル』(英)
 シーズン4 第2話『殺人は容易だ』(2009)

あらすじ
マープルは列車で移動中、同席したピンカートンという婦人からウィッチウッドと言う小さな村で、誰にも気づかれずに殺人が続いているという話を聞く。
その後、ピンカートンがエスカレーターから転落したという記事を読んだマープルは、ピンカートンの葬式に出る名目でウィッチウッドへと訪れる。
出会ったのは一癖も二癖もある人物達が織りなす不穏な人間関係。
そして、到着の当日にピンカートンが犠牲者として予言していた医師が急性敗血症で死んでしまう。
マープルは、ウィッチウッドで警官をしているルークやリードを協力者に調査を進めていくが、その後も死者は増え続ける……。

紹介と感想
ベネディクト・カンバーバッチが出演していることでITV版マープルの中でも比較的名前が知られている話になります。

脚本を担当したスティーブン・チャーシェットは、ITV版マープルでは今作のほかに、『牧師館の殺人』『パディントン発4時50分』『スリーピング・マーダー』『シタフォードの秘密』『復讐の女神』を担当しており、物語やキャラクターの改変の仕方が個人的には苦手な脚本家です。

担当作の中では、『牧師館の殺人』『パディントン発4時50分』『スリーピング・マーダー』はキャラクターの改変はあれど大筋は原作を活かしている作品になりますが、『シタフォードの秘密』『復讐の女神』『殺人は容易だ』はキャラクターだけでなく物語も改変が多く、中でも今作は、この時期のITV版マープル改変作の特徴である、クリスティー的ではないタイプの後味悪い系物語に仕上がっています。

殺害方法や順番など原作を踏襲している部分も多いのですが、選挙戦やレナード・ウェインフリートの存在など原作との違いや、元々存在しているキャラクターの印象も変わっているため、全体的に原作とは異なる物語という印象が強いまま進みます。

そして、事件の真相が明かされた時に、原作とは決定的に違う物語であったことがわかるのです。
とても2サス的な動機になったことで、怖ろしい連続殺人との噛み合わせが悪くなりましたが、ある意味ではよりサイコパス感が出ているとは思いました。

全体的にギスギスと空気の悪い中で、マープルとリード巡査が祖母と孫に見えてホッコリ感を提供してくれたのが救いの物語でした。

 尋問を終えたリード巡査が部屋から出てくると、マープルが駆け寄ってくる。
「お疲れさま」
「テストをやり終えた気分」
「あなた見事に合格よ」

村の人たちに尋問する様子をマープルに聞かれていたリード巡査の感想

ドラマ概要
脚本:スティーブン・チャーシェット
監督:ヘティ・マクドナルド
時間:93分

キャスト
    ジェーン・マープル/ジュリア・マッケンジー(藤田弓子)

ルーク・フィッツウィリアム/ベネディクト・カンバーバッチ(三上 哲)
オノリア・ウェインフリート/シャーリー・ヘンダーソン(桜井明美)
  ブリジット・コンウェイ/マルゴ・スティリー(林 真里花)
    リディア・ホートン/アンナ・チャンセラー(藤生聖子)
  ジェシー・ハンブルビー/ジェマ・レッドグレイヴ(佐藤しのぶ)
   ローズ・ハンブルビー/カミラ・アーフウェドソン(小舘絵梨)
       ホートン少佐/デヴィッド・ヘイグ(佐藤祐四)
   ジェームズ・アボット/ヒューゴ・スピアー(水野龍司)
   テレンス・リード巡査/ラッセル・トヴェイ(福田賢二)
       トーマス医師/ジェームズ・ランス(みやざこ夏穂)
  ラビニア・ピンカートン/シルヴィア・シムズ(二瓶美江)
     エイミー・ギブス/リンゼイ・マーシャル(山川亜弥)
    ヘンリー・ウェイク/スティーヴ・ペンバートン(浦山 迅)


『アガサ・クリスティーの謎解きゲーム』Les petits meurtres d'Agatha Christie(仏)
 シーズン2 第9話『殺人は容易だ』Un meurtre est-il facile?(2015)

あらすじ
織物工場の社長・ドゥブークから求婚されたアリス。
歳の差が気になり逡巡していたが、説得を繰り返されたことや、新聞社での扱いに我慢できない思いもあり受け入れることにした。
しかし、ドゥブークの屋敷で暮らし始めたころから、工場関係者が次々と死んでいく事件が発生、ロランスが捜査を開始する。
アリスも、ドゥブークの力になろうと工場の企画開発部長として働きながら事件の謎を追っていく。
その頃、ロランスの秘書・マルレーヌもロランスからの𠮟責に悩み、従姉のアニクの家に世話になりながら、アリスへ相談をしていた。

紹介と感想
原作から物語部分は大きく変更されていますが、ミステリー部分に関しては被害者や殺害方法の変更など違いもありますが、骨組み部分は原作を活かした映像化となっています。

物語の最初にジョジアーヌ(原作のピンカートン)の話を聞くのがマルレーヌに変更になっており、その話をロランスへ伝え忘れ、ジョジアーヌが死んでから思い出したことで叱責されてしまいます(それだけが理由ではありませんが)。

ジョジアーヌが殺されるまでに死んでいるのは一人だけで、殆どの殺人は捜査開始後に行われます。
ロランスと対峙されることによって、エミール(原作のホイットフィールド卿)の存在感が原作よりも増していました。

シリーズ的には、次作「マギンティ夫人は死んだ」で登場するアリスの元夫ロベールの話を出して布石を置いています。

事件自体よりも、事件に関わるシリーズキャラクターの動向を楽しみにみる感じの話ではありますが、面白く観ることが出来ました。

「動機は❝退屈❞だよ
 人は退屈しのぎに何を?
 退屈しのぎに行うことは2つだけ
 愛か殺人だ」

逮捕されると思ったエミールが、ロランスに自身が考えた❝動機❞を語る場面より

ドラマ概要
脚本:ジャン=リュック・ガゲ
監督:マルク・アンジェロ
時間:91分

キャスト
  スワン・ロランス/サミュエル・ラバルト
  アリス・アブリル/ブランディーヌ・ベラヴォア
 マルレーネ・ルロイ/エロディ・フランク
     マーティン/エリック・ボーシャン

エミール・ドゥブーク/フィリップ・ナオン
アニク・デヴァセーヌ/アンヌ・ブノワ
 ジャン・キャスター/アレクサンドル・ステイガー
      サビーヌ/エミリー・ウィースト
    ジョジアーヌ/マルセル・フォンテーヌ
     トリカード/ドミニク・トマ
      ロベール/フランソワ・ゴダール
 フリック・パジェス/サヴェリオ・マリーニョ


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