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ヘレン・ヘイズ主演ミス・マープルシリーズについて(1983・1985)

1980年代にワーナー・ブラザーズ制作のテレビ映画として2作品が作られたヘレン・ヘイズ主演のアメリカ製ミス・マープル。
舞台となっている時代は制作当時の80年代になります。

ミステリーとしてあまり複雑ではない2作品が選ばれ、そこから更に原作よりミステリーとして緩く仕上げてあります。
ヘレン・ヘイズ演じるマープルは原作のマープル像とは違いますが、ヒクソン版以外の映像化も原作のマープル像とは違うマープルの方が多いためさほど気になりません。
2作品とも娯楽ミステリードラマとして充分楽しめる作品となっています。

ただ、2作品とも手軽にみられるジョーン・ヒクソン主演版、ジュリア・マッケンジー主演版が手堅く作られているため、基本的にはそちらで十分楽しめます。
そのため、役者や演出の違いを感じながら観ると楽しめると思います。

日本ではビデオ発売されていますが、執筆時点ではDVDや配信はありません。



カリブ海の秘密 CARIBBEAN MYSTERY(1983)

原作:アガサ・クリスティー『カリブ海の秘密』(1964)
脚本:スー・グラフトン、スティーブ・ハンフリー
監督:ロバート・リュイス
時間:96分

気持ちは17歳のマープルが飛行機から降り立つ場面から始まり、飛び立っていく場面で終わるドラマは、概ね原作に忠実な物語となっていますが、ミステリー的な仕掛けに当たる部分に変更が加えられています。

脚本を担当したのは<キンジー・ミルホーン>シリーズでお馴染みの作家スー・グラフトンと夫のスティーブ・ハンフリーです。ワーナー製作クリスティー作品では『忘られぬ死』の脚本も担当しています。

ドラマでは、序盤のポールグレープ少佐のマープルとの絡みが原作よりも増しています。
原作の重要な場面である少佐が殺人犯を見つける場面の演出が少し緩く、義眼設定も無くなっているため効果が薄まっているのが残念ですが、ダンスパーティーの場面で少佐の口から出る「抜け目のない男だ」の発言と視線は、真相を知ってから読むと裏の意味を感じ取れて良い部分でした。

全体的にアメリカ的で明るいノリの多いワーナー製作シリーズですが、今作はカリブ海が舞台なのもあり、違和感が少なかったのも良かったと思います。
マープルも、ダンスパーティーでは踊り、仮装パーティーではみんなと一緒に海賊の仮装を行い、カリブのバカンスを満喫していました。
〈復讐の女神〉についての言及が無かったのは残念ですが、マープルとレーフィルの丁々発止のやり取りも楽しかったです。

ミステリー部分の演出に少し雑な部分もありますが、時間一杯楽しんで観ることができる映像化でした。

キャスト
ジェーン・マープル/ヘレン・ヘイズ

    レーフィル/バーナード・ヒューズ
 ティム・ケンドル/ジェイムソン・パーカー
 モリー・ケンドル/シーズン ハブリー
ルース・ウォルター/スージー・カーツ
ラッキー・ダイソン/キャシー・イェーツ
 ダベントリー大尉/ゼイクス・モカエ
グレッグ・ダイソン/スティーヴン・マクト
   グレアム医師/ブロック・ピーターズ
ポールグレープ少佐/モーリス・エヴァンス


魔術の殺人 MURDER WITH MIRRORS(1985)

原作:アガサ・クリスティー『魔術の殺人』(1954)
脚本:ジョージ・エクステイン
監督:ディック・ローリー
時間:94分

ロンドンの街を歩くマープルから始まる物語は、マープルとクリスチャンが知り合いに変更になっており、クリスチャンから依頼される形でマープルは事件に関わる事になります。
ジーナの両親の死を知ってから飛行機に乗らなくなったマープルですが、カリブの事件はいつ頃なのでしょう。

ルイスがマープルにキャリーが毒殺されかかっているという話を持ち出すのは館到着直後へ変更になっており、マープルと視聴者は最初から毒殺を疑ってドラマを観ていく事になります。

大筋は原作に沿って展開されますが、マープルがマクベスの一場面を演じている時に縄に切れ目を入れられていた舞台セットが天井から落ちるというサスペンスが追加されています。
他にも、ある登場人物の設定変更により新たな犯罪と派手な車の爆発が追加されており、地味な物語展開に映像的な衝撃を追加しています。
また、事件の決着のつけ方も原作から捻りを加えています。

カレー警部補は原作とはキャラクターが変わっており、いかにもな警察官役ですが、マープルと一緒に活動する中で徐々にマープルのことを信頼していくため結構印象に残ります。

全体的にマープルの活躍は目立ちますが、登場人物のドラマは原作以上のものにはなっていませんでした。
しかし、原作の複雑な人間関係を少し観やすく整理して、主役のマープルの活躍を目立たせる方向に舵を切ったのは悪くないと思いました。

前作に続き、謎解きの華麗さを楽しむというよりは、主役の活躍を楽しむ娯楽ミステリーとして楽しめる作品です。

キャスト
   ジェーン・マープル/ヘレン・ヘイズ

    キャリー・ルイズ/ベティ・デイビス
  ルイス・セリコールド/ジョン・ミルズ
      カレー警部補/レオ・マッカーン
    ジーナ・マーカム/リーン・ラングランド
  ウォーリー・マーカム/ジョン・ローフリン
ミルドレッド・ストレート/ドロシー・チューティン
 マックス・ハーグローブ/アントン・ロジャーズ
      クリスチャン/ジョン・ウッドバイン
   エドガー・ローソン/ティム・ロス




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