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ミス・マープル長編09『カリブ海の秘密』The Caribbean Mystery(1964)紹介と再読感想

アガサ・クリスティー 永井 淳訳『カリブ海の秘密』早川書房, 1977


あらすじ

少し前まで肺炎を患っていたマープルは、甥のレイモンドの後押しもあり、西インド諸島のサン・トレノにあるホテルに滞在していた。
ある日、宿泊客の一人であるパルグレイヴ少佐がマープル相手に殺人の話をしていると、マープルの後方を気にしてから殺人犯が写っているという写真を慌ててしまった。翌日、少佐が急死していまい、病死として処理される。
不審に思ったマープルが独自に捜査を開始すると、少佐が持っていた写真が消えていた。
その後も止まらない悲劇。果たして、島に潜む殺人者は誰なのか。


紹介と感想

マープル唯一の海外がメインの舞台となった事件は、運命の出会いも導いてくれました。

口は悪いし偏見は多いしという偏屈なラフィール氏ですが、マープルと一緒に居ると何故かかわいく見えてくるから不思議です。


物語は大きく、少佐の死が描かれるオープニングパート、少佐の死が殺人なのかを判断するためにマープルが動き出すパート、ヴィクトリアの死以降どんどん裏に隠された人間関係が明らかにされていくパートに分かれています。

警察関係者も出てくるのですが、その出番はかなり少なく、代わりにマープルの出番が比較的多いのも特徴です。
そのため、主人公が表立って活躍する物語が好きな人にも満足感があると思います。

マープルは、少し前まで肺炎だったとは思えないほど活動的で、ハイヒールのヒール部分を爪やすりでぐらつかせて転んだように見せかける作戦は、プロの方ですか?と驚いてしまいます。


ミステリーとしては、序盤に重要な伏線を多く配置し、中盤は多くの噂話で煙に巻きながら少しずつ不穏な気配を強めていき、終盤になって序盤に書かれていた伏線により事件が解決されます。

クリスティーは比較的このようなタイプのミステリーが多いですが、中でもその趣向が特に目立っている作品の一つだと思います。
そのため、論理的に積み上げていくタイプのミステリー好きにはお勧めできませんが、終盤の展開に繋がる伏線はしっかり張ってあるため、伏線を楽しむタイプの読み手には、マープルの活躍と合わせて楽しめます。


個人的にも、ミステリー部分は少し弱いかなと思いつつも、再序盤に終盤につながる伏線を堂々と配置している事や、ホテル内の人間関係が異常にドロドロしていること、全体のページ数が短くスピーディなこともあり楽しんで再読することができました。

「でも」と、ミス・マープルはひとりごちた。「これはあくまで推測の域を出ない。わたしはなんてばかなんだろう。そして自分がばかなことをしていることをちゃんと承知している。よけいな夾雑物をきれいに片づけることさえできたら、真相はきっと単純明快なんだわ。あまりにも夾雑物が多すぎる点が問題なのよ」

アガサ・クリスティー 永井 淳訳『カリブ海の秘密』早川書房, 1977, p.251

映像化作品

ヘレン・ヘイズ主演『カリブ海の秘密』(1983/米)

ジョーン・ヒクソン主演『ミス・マープル』(英)
 第10話「カリブ海の秘密」(1989)

ジュリア・マッケンジー主演『アガサ・クリスティー ミス・マープル』(英米)
 シーズン6 第1話「カリブ海の秘密」(2013)

『アガサ・クリスティーの謎解きゲーム』Les petits meurtres d'Agatha Christie(仏)
 シーズン2 第16話「Albert Major parlait trop」(2016)※日本未放送


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