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アガサクリスティーについて

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アガサ・クリスティー関係の記事をまとめています
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記事一覧

アガサ・クリスティー『殺人は容易だ Murder is easy』(1939)紹介と再読感想

アガサ・クリスティー/高橋 豊 訳『殺人は容易だ』早川書房, 1978 『ゼロ時間へ』を再読した流れから、去年のBBC製作クリスティー原作ミニドラマシリーズに選ばれた『殺人は容易だ』も、10数年ぶりに再読してみました。 あらすじ 植民地で警官をしていたルークは、引退してイギリスへ戻って来た。 友人の家へ行く途中の列車で同席したピンカートンという老婦人から、ウイッチウッド・アンダー・アッシュと言う小さな町で3人の人間が殺され、近く4人目が殺されそうなのでロンドン警視庁へ行

アガサ・クリスティー『殺人は容易だ』ドラマ作品 紹介と感想

『殺人は容易だ』Murder Is Easy(1982/米) ワーナーが80年代に製作していたクリスティー原作テレビ映画シリーズの1本です。 時代は製作当時の80年代になっており、舞台はイギリスの村ですが、ルークはアメリカ人でコンピューターの専門家になっています。 ルークを事件に呼び込むことになるフラトン(原作のピンカートン)には、同じくワーナー製作版『カリブ海の秘密』『魔術の殺人』でミス・マープルを演じるヘレン・ヘイズが出演しています。 他にも、オリヴィア・デ・ハヴィ

アガサ・クリスティー『ゼロ時間へ Towards Zero』(1944)紹介&再読感想

アガサ・クリスティー/田村隆一訳『ゼロ時間へ』早川書房, 1976 BBC製作のクリスティー原作ミニドラマシリーズの次作が『ゼロ時間へ』だと発表され、最近読んだ『殺人は容易ではない アガサ・クリスティーの法科学』の著者が好きだと言っていたのもあり、10数年ぶりに再読しました。 あらすじ 著名な弁護士であるトリーヴス氏は常々、「殺人というものは終局であり、ゼロ時間の一点に集中されている」と考えていた。 1月、マクハーターという男が自殺に失敗し病院に入院していた。 2月、一

『ゼロ時間へ』戯曲・漫画 紹介と感想

クリスティー原作の中でもメディアミックス展開されている媒体が多い作品の一つが『ゼロ時間へ』になります。BBC製作のミニシリーズで制作も予定されているため、一度整理したいと思いました。 今回は、戯曲版と漫画版を紹介します。 戯曲『ゼロ時間へ Towards Zero』(1956)  脚色:ジェラルド・ヴァーナー  初稿:アガサ・クリスティー(1944) ガルズ・ポイントの客間のみで展開される物語は、何人かの役割や性格が原作から変更されています。また、マクハーターは省略され

『ゼロ時間へ』映画・ドラマ 紹介と感想

クリスティー原作の中でもメディアミックス展開されている媒体が多い作品の一つが『ゼロ時間へ』になります。BBC製作のミニシリーズで制作も予定されているため、一度整理したいと思いました。 今回は、映画とドラマを紹介します。 映画『ゼロ時間の謎 L'Heure zéro』(2007/仏/108分)  監督:パスカル・トマ  脚本:フランソワ・カヴィグリオリ 物語は原作と同じくトリーヴス弁護士がゼロ時間の考えを語る所から始まりますが、この場にバタイユ警視(原作のバトル警視)が居

アガサ・クリスティー『忘られぬ死』(1945)紹介と再読感想

アガサ・クリスティー  中村能三訳『忘られぬ死 Sparkling Cyanide』早川書房, 2012(電子書籍) 個人的に、BBCミニシリーズでドラマ化して欲しい作品で上位に来る原作を、久しぶりに再読しました。 あらすじ 自身の誕生日パーティーの最中に青酸カリを飲んで死んだローズマリー・バートン。その死は、自殺として処理された。 それから1年が経ったが、妹のアイリス、夫のジョージ、ジョージの秘書であるルース、ローズマリーの不倫相手だったスティーヴン、スティーヴンの妻

アガサ・クリスティー『招かれざる客』The Unexpected Guest(1958)紹介と再読感想

アガサ・クリスティー 深町眞理子訳『招かれざる客』早川書房, 2011(電子書籍) あらすじ 霧の濃いある晩。サウス・ウェールズにあるウォリック家のリチャードの書斎に、スタークウェッダーという男が訪ねてきた。 車が溝にはまってしまったため助けを求めに来たスタークウェッダーは、車イスの上で死んでいるリチャードを発見した。 書斎の中にはもう一人、リチャードの妻・ローラが銃を手に持ち茫然と立っていた。 彼女は、スタークウェッダーの質問に答える形で自分が殺した事を認めた。 スター

アガサ・クリスティー『終りなき夜に生れつく』Endless Night(1967)紹介と再読感想

アガサ・クリスティー 矢沢聖子訳『終りなき夜に生れつく』早川書房, 2012 (電子書籍) 昔から大好きな作品の一つであり、時折再読したくなります。この作品もBBCミニドラマシリーズの計画が発表された時から映像化されないかなぁと思っています。 あらすじ マイクは、様々な職を転々としながら生活をしている青年だった。 彼は、ある時出会った〈ジプシーが丘〉に一目惚れし、友人である天才建築家・サントニックスが設計した家を建てたかった。 ある日、マイクは〈ジプシーが丘〉でエリーと

アガサ・クリスティー「ナイチンゲール荘」原作・戯曲・映画 比較感想

ネタバレ全開で記載しています。 原作「ナイチンゲール荘(うぐいす荘) Philomel Cottage」 1924年のグランドマガジン11月号で発表。1934年出版の『リスタデール卿の謎』に収録。 主人公はアリクス・マーティン。殺人者はジェラルド・マーティン。元カレはディック・ウィンディフード。 アリクスとジェラルドが出会ったきっかけは友人の家の集まり。現在のコテージの様子以外はすべてアリクスの回想で語られる。 アリクスの緊張状態での心理描写や、後の戯曲では削られたジェ

アガサ・クリスティー「事故」原作・戯曲 紹介と感想

「ナイチンゲール荘」の記事を書いてから、同じく『リスタデール卿の謎』に収録されている「事故」も他者の手による戯曲があったと思い出し、久しぶりに読み、情報を一つにまとめようと思い立ちました。 ネタバレ全開で記載しています。 原作「事故 Accident」 1929年にイギリスの新聞Sunday Despatchへ掲載後、1934年出版の『リスタデール卿の謎』に収録。 登場人物も少なく、ページ数的にもショートショート的なサスペンスです。現代の眼で見れば良くある話といえますが

アガサ・クリスティー/中村妙子・訳『暗い抱擁 The Rose and the Yew Tree』(1947)再読感想

アガサ・クリスティー/中村妙子・訳『暗い抱擁』早川書房, 1974 あらすじ 現代の聖人・クレメントおやじ、本名をジョン・ゲイブリエルと言う。 ひょんなことからヒューは、ゲイブリエルと再会する。 これは、ヒュー・ノリーズが回想する、聖人と呼ばれる前のジョン・ゲイブリエルと過ごした日々の記録である。物語は、再会したゲイブリエルが、最後に発したひとことへ向けて進んでいく。 交通事故で半身不随になったヒューは、兄夫婦とコーンワルにあるセント・ルーへ越してきた。 姉・テレサの影

アガサ・クリスティー『娘は娘』A Daughter's a Daughter(1952)紹介と再読感想

アガサ・クリスティー 中村妙子訳『娘は娘』早川書房, 1973 メアリ・ウェストマコット名義の第5作目にあたる作品になります。好きな長篇ですがしばらく再読していなかったので、久しぶりに読みました。 あらすじ アンとセアラの母娘は、お互いを大切に思いながら暮らしていた。 ある時、セアラが3週間のスキー旅行へ出掛けた際に、アンはリチャードと出会い恋をした。 2人は幸せな時を過ごし結婚を考えるようになったが、セアラが帰ってきたことで全ては変わってしまった。 セアラとリチャード

アガサ・クリスティー『ベツレヘムの星 Star Over Bethlehem』(1965)紹介と感想

アガサ・クリスティー/中村能三 訳『ベツレヘムの星』早川書房, 2003 概要1965年にアガサ・クリスティー・マローワン名義で出版された本で、5本の詩と6本の短編から成っています。 聖書の理解が試される場面も多いですが、短編は単独で理解が不可能と言うものではなく、知識が無くても楽しむことができると思います(「島」は少し難しいかもしれません)。 収録作と短編あらすじごあいさつ(詩) ベツレヘムの星(短編) クリスマスの花束(詩) いたずらロバ(短編) 黄金、乳香、没薬(詩

アガサ・クリスティー『ベツレヘムの星 Star Over Bethlehem』(1965)作中で注釈がついている聖書内容の引用・要約

アガサ・クリスティー/中村能三 訳『ベツレヘムの星』早川書房, 2003 『ベツレヘムの星』の感想を読んでいると、「聖書の知識が無いから100%楽しめない」「理解が難しい」と聞くことがあります。 個人的には、知識が無くても、キリスト教を題材にした様々なジャンルの短編集として楽しめる短編集だと思います。 ただ、小説の題材となった内容を知っておくと理解がしやすいのは間違いないと思うので、本書で取り上げられている場面について、自分用に調べた事をnoteにも載せておきます。 筆