『ゼロ時間へ』映画・ドラマ 紹介と感想
クリスティー原作の中でもメディアミックス展開されている媒体が多い作品の一つが『ゼロ時間へ』になります。BBC製作のミニシリーズで制作も予定されているため、一度整理したいと思いました。
今回は、映画とドラマを紹介します。
映画『ゼロ時間の謎 L'Heure zéro』(2007/仏/108分)
監督:パスカル・トマ
脚本:フランソワ・カヴィグリオリ
物語は原作と同じくトリーヴス弁護士がゼロ時間の考えを語る所から始まりますが、この場にバタイユ警視(原作のバトル警視)が居る所が違います。
執事とメイドを中心にフランス的なちょっとエッチなコメディ描写などはありますが、物語としては原作に忠実に展開され、ヴェルテル(原作のマクハーター)関連やバタイユ警視の娘のエピソードも描かれます。
オードとキャロリーヌの対比のためか、ネヴィルやオードといる時のキャロリーヌがかなりヒステリー気味に描かれているのが気になる所です。
確かに原作でも怒っていましたが、ある意味で忠実に怒らせすぎたのかもしれません。
ついでに、常識から外れた言動をとる場面も結構目立ちます。
尖った長所はなく、最後の方が急ぎ足だったかなと思う部分もありますが、物語の本筋部分の描き方は良いと思うので、独自の味付け部分が好みに合うかどうかで評価が分かれる作品だと思います。
個人的には、パスカル・トマが映像化したクリスティー作品では、最もバランスが良くて好きです。
キャスト
ギョーム・ヌヴィル/メルヴィル・プポー(滝知史)
オード・ヌヴィル/キアラ・マストロヤンニ(加納千秋)
キャロリーヌ・ヌヴィル/ローラ・スメット(宮島依里)
カミーラ・トレシリアン/ダニエル・ダリュー(織田芙実)
マリ=アドリーヌ/アレサンドラ・マルティネス
バタイユ警視/フランソワ・モレル
トマ・ロンドー/クレマン・トマ
トレヴォーズ弁護士/ジャック・セレ
フレッド・ラティマー/ザヴィエ・ティアム
ヴェルテル/エルヴェ・ピエール
ドラマ『Verso l'ora zero』(1980/伊/110分)※日本未紹介
監督・脚本:ステファノ・ロンコローニ
企画の経緯は分かりませんが、1980年に今作、『L'ospite inatteso』(招かれざる客)、『La tana』(戯曲 ホロー荘の殺人)とクリスティー原作戯曲が、戯曲の展開を意識した形でイタリアでドラマ化されました。
日本未紹介なため、字幕なしで観たので台詞部分は分からず勘違いもあるかもですが、ザっと見た感じでは以下のようでした。
戯曲版を原作としてドラマにしている作品のようで、物語もガルズ・ポイントの客間を中心に、時折テラスや食堂に場面を変えて展開されます。
物語も、ネヴィルが新聞をオードリーに渡す場面が最初にあるなどちょっとした変更はありますが、基本的に戯曲版の脚本に忠実に思えます。
原作戯曲の第二幕第一場の終了時にあたる場面に来た際には、効果音と共に「第1部終了」と出て、一度暗転もします。
戯曲の台本を映像用に直さず、物語の舞台もそのまま映像化するというのは、ありそうで無い面白い試みでしたが、撮り方はテレビドラマになっているため、慣れるまで最初は少し違和感がありました。
また、個人的にキャストのイメージが一部違うかなと思う部分はありました。
ファンなら必ず観たほうがいいと言うほどではありませんが、後半は普通に引き込まれ楽しんで観れました。
原作とは違う展開の映像化が観たくなったり、戯曲版が役者によって演じられているのを観たいと思った際には良いと思います。
キャスト
トーマス・ロイド/セルジオ・ロッシ
ネヴィル・ストレンジ/ジュゼッペ・パンビエリ
ケイ/ローラ・トロッター
オードリイ/マルゲリータ・グッツィナーティ
メアリー・アルディン/アンジェラ・グッドウィン
トリーヴス弁護士/アンドレア・ボシック
レディ・トレシリアン/アリダ・ヴァッリ
テッド・ラティマー/ファブリツィオ・モローニ
バトル警視/レナート・モンタルバーノ
リーチ警部/マウリツィオ・ロモリ
ベンソン巡査/レンツォ・オッツァーノ
ドラマ『アガサ・クリスティー ミス・マープル』 シリーズ3 第3話『ゼロ時間へ Towards Zero』(2007/英/92分)
脚本:ケヴィン・エリオット
監督:デヴィッド・グラインドリー、ニコラス・ウィンディング・レフン
原作との最大の違いは、マープルがトレシリアン夫人と同級生の設定で関係者達と親しくすることですが、意外や本筋はITV版マープル中でもかなり原作に沿っている作品となります。
脚本のケビン・エリオットは、ITV版マープルで「書斎の死体」、「動く指」、今作、「ポケットにライ麦を」、「鏡は横にひび割れて」、「終りなき夜に生れつく」と毎シーズン1話を担当し、デビット・スーシェ主演・名探偵ポワロでも「ナイルに死す」、「五匹の子豚」、「カーテン」を担当しています。脚本の特徴は、オリジナル要素を入れたとしても、大筋は原作に沿って展開するところにあると思います。
「書斎の死体」以外は個人的に好きなエピソードが多く、「ポケットにライ麦を」のドラマはITV版マープル長編原作エピソード中最高傑作だと思っています(「鏡は~」の映像化はヒクソン版が一番面白いですが)。
個人的にはネヴィルに爽やかさが足りないかなと思いましたが、キャスト人も大きな不満はありませんでした。トリーブス弁護士は4代目ドクター・フーでお馴染みのトム・ベイカーになります。
マクハーターとバトル警視は省略され、マクハーターの役割は一部マープルが引き受けています。
バトル警視がメインで捜査する原作に敬意を表してか、マープル1強状態にはせず、警察関係者が比較的賢いのも良い所です。
時間的制約もあり重要情報はいつもマープルが聞いている感が少し面白く感じる時もありましたが、全体の満足度は高く、マクイーワン版マープルの中でも上位に来る1作だと思います。
キャスト
ミス・マープル/ジェラルディン・マクイーワン(草笛光子)
トーマス・ロイド/ジュリアン・サンズ(有本鉄隆)
ネヴィル・ストレンジ/グレッグ・ワイズ(内田直哉)
オードリィ・ストレンジ/サフロン・バロウズ(山崎美美)
ケイ・ストレンジ/ゾーイ・タッパー(斎藤恵理)
メアリー・アルディン/ジュリー・グレアム(宮寺智子)
テッド・ラティマー/ポール・ニコルズ(落合弘治)
カーミラ・トレシリアン/アイリーン・アトキンス(翠 準子)
マラード/アラン・デイヴィス(石塚運昇)
トリーブス/トム・ベイカー(稲垣隆史)
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