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『ゼロ時間へ』戯曲・漫画 紹介と感想

クリスティー原作の中でもメディアミックス展開されている媒体が多い作品の一つが『ゼロ時間へ』になります。BBC製作のミニシリーズで制作も予定されているため、一度整理したいと思いました。
今回は、戯曲版と漫画版を紹介します。


戯曲『ゼロ時間へ Towards Zero』(1956)

 脚色:ジェラルド・ヴァーナー
 初稿:アガサ・クリスティー(1944)

ガルズ・ポイントの客間のみで展開される物語は、何人かの役割や性格が原作から変更されています。また、マクハーターは省略されています。

トーマスとオードリーは原作よりも口数が多くハキハキ話す感じになっており、トレシリアン夫人の秘書となったメアリも少し雰囲気が変わっています。

なにより、トリーヴズ弁護士の扱いが、もっとも原作から変更があり、美味しい役回りになっていたと思います。
その分、バトル警視がキャラ描写として少しだけ割を喰ったかもしれませんが、これは実際に演じた際の色の出し方で補えそうです。

「殺人は終着点であり、ゼロ時間である」という文言も、原作とは違う部分で発せられ、先が気になる効果を創り出していました。

ミステリー要素は原作より簡略化されていますが、その扱い方が上手いため、原作より納得度が高いと思う人もいるかもしれません。
また、舞台映えするクライマックスが用意されており、多くのスリラーを書いたという脚色者の強みが活かされています。

原作小説の戯曲化として高いレベルでまとまっておりオススメです。


漫画「ソルトクリークの秘密の夏」(2006/日)

榛野なな恵さんが『コーラス』2006年8月号に掲載し、『アガサ・クリスティー作品集 チムニーズ館の秘密』に「チムニーズ館の秘密」「追憶のローズマリー(原作:忘られぬ死)」と一緒に収録されています。

70ページ弱のページ数で展開され、原作を上手くまとめています。
マクワーター視点の場面が増えているのが特徴で、ソルトクリークへもコーネリー卿のお供で来ている設定に変更、コーネリー卿が事件に興味を持ったので調べているという設定で、この二人がコメディリリーフとして原作とは違う味を出していました。

主要登場人物からはトリーヴス弁護士とテッド・ラティマーを省略し、二人が絡むエピソードも省略となっています。

謎解きミステリー要素は大きく簡略化され雰囲気を楽しむ感じとなっていますが、その雰囲気が良いので面白く読む事が出来ます。

本格ミステリー目当ての人には向きませんが、手軽にロマンティックミステリーな雰囲気を摂取したい際にはオススメです。


参考文献
・アガサ・クリスティー著 渕上痩平訳『十人の小さなインディアン』論創社, 2018, p.329-499
・榛野なな恵『アガサ・クリスティー作品集 チムニーズ館の秘密』集英社, 2006, p.137-209


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