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トミーとタペンス第2弾『二人で探偵を』Partners in Crime(1929)紹介と再読感想

アガサ・クリスティー 野口百合子訳『二人で探偵を』東京創元社, 2024

早川書房からは『おしどり探偵』として出版されている本作。
今回は今年出版された創元推理文庫の新訳版で再読しました。


収録短編あらすじ

「フラットの妖精」
結婚して6年、暇を持て余していたタペンスの願いに応えたかのように、ミスター・カーターから新たな任務と共に、国際探偵社をやってみないかと誘いを受けた。

「お茶を一杯」
二つ返事で引き受けた探偵社だったが、離婚問題以外の仕事が来ないのだった。タペンスが「策がある」と動き出すが特に状況に変化はない。しかし、遂に上客が訪れるのだった。

「ピンクの真珠の謎」
キングストン・ブルースという女性から、客の高価なピンクの真珠が無くなってしまったと依頼を受けた探偵社。事件を解決するカギは、トミーが使いたくてたまらない新しいカメラ!?

「不審な来訪者」
遂にミスター・カーターから注意を受けていたロシアの切手が貼られた青い封筒が届く。そして、同じタイミングで探偵社を訪ねて来た男に怪しさを感じた二人は……。

「キングの裏を書く」「新聞紙の服を着た紳士」
タペンスがみつけた謎めいた広告に導かれて、スリー・アーツ舞踏会の日に〈スペードのエース〉という店へ向かった二人。何が起こるのかと周囲を見回していると、女性が短剣に刺されて死にゆく現場に遭遇してしまう。

「失踪した夫人の謎」
北極から帰って来たばかりの探検家ゲイブリエル・スタヴァンソン。ケイブリエルから恋人であるハーマイオニー・クレインの居所が分からないので探して欲しいと依頼を受けた二人は、調べるうちにとある療養所に辿り着く。

「目隠し遊び」
トミーは、盲目の探偵ソーンリー・コールトンになりきってタペンスとともにレストランを訪れた。そこで、ブレアガウリー公爵と名乗る男から、誘拐された娘を見つけてほしいと依頼を受けるが……。

「霧の中の男」
アドリントンまで来て事件の解決に失敗したトミーとタペンスは、駅に向かう道すがら旧友と遭遇した。その後、旧友と一緒に居た女優が彼女の姉の自宅で死んでいるのが発見され、赤毛の若者が逮捕される。しかし、トミーは彼が犯人ではないと感じ、殺人前後の状況について考え始める。

「ぱりぱり屋」
マリオット警部からギャングの一味が偽札をバラまいている事件を調べてみないかと相談を受けた二人。早速、怪しいとの情報があるレイドロー夫妻に近づき、偽札が使われていることを確認する。果たして、誰が偽札をバラまいているのだろうか。

「サニングデールの謎」
タペンスと〈ABCショップ〉へ来たトミーは隅の老人になりきって、最近話題の〝サニングデールの謎〟について挑戦することにした。ゴルフ場でセッスル大尉が死んでいるのが発見された事件は、容疑者はいるが決め手がなかった。二人は事件について討論することで、真相へと近づいていく。

「死の潜む家」
ロイス・ハーグリーヴスという女性から、最近村で話題になっている毒入りチョコレートが自分の住んでいるサーンリー館にも届いたが、ある理由からチョコは館内の誰かが送ったと思うと相談を受ける。翌日に館を訪ねる事を約束したトミーだったが、悲劇は探偵を待ってはくれなかった。

「アリバイ崩し」
モンゴメリー・ジョーンズという男から、好きな女性から同時に二か所に居た謎を解けるかと賭けを持ちかけられた、自分では解けそうもないので解いて欲しいと依頼を受ける。タペンスが主導して引き受けるが、調べれば調べる程、同時に二か所に居たとしか思えないのだった。

「牧師の娘」「レッドハウス」
牧師の娘の手助けをしたいと思っていたタペンスのもとに、モニカ・ディーンという牧師の娘がやってくる。伯母から相続した家でポルターガイスト騒動が起き困っている。しかも、家を買いたいとやってきた心霊研究協会の男が怪しいと相談を受けた二人は、さっそくレッドハウスを訪れた。

「大使の靴」
アメリカの大使から、船から降りるタイミングで鞄の取り違えが起こったが、後に取り違えが起きた本人と話した際に、そんな事実は無いと否定された。一体どんな理由でそんなことが起こったのか知りたいと依頼を受けた。捜査を始めると、事件は思いもよらぬ広がりを見せていく。

「十六号だった男」
スパイの本部が探偵局を疑い出したと情報が入った。特殊工作員が一人派遣されたらしく、キーワードは十六らしい。その後、二人が事務所へ帰ってくると、部屋のカレンダーが十六日にされていた。二人はナンバー四よりも強い十六号を倒すため、灰色の脳細胞を働かせ始めた。

※早川書房版では複数話に分かれている話を統合しているため収録話数が変わっています。


紹介と再読感想

トミーとタペンス第2弾は、シリーズ唯一の連作短編集になっており、殆どの短編はクリスティーが雑誌に短編を書きまくっていた1920年代前半に書かれています。

もともと初期短編は、ポワロものでも緩めの話が多いのですが、トミタペは更に緩いキャラクター主導の軽ミステリーとなっています。

キャラクター小説としては抜群で、長編では別れて行動することも多いトミーとタペンスの二人が、夫婦漫才の如く楽しそうに丁々発止を繰り広げています。
ただし、連載雑誌の関係もあるのでしょうが1話毎のページ数が少ないため、レギュラーキャラクター以外の描写は基本的に最低限のものとなっています。

かなり久しぶりに原作を読みましたが、やはり自分はお気楽極楽なノリのコメディーが好きだなぁ~という気持ちになりました。

ミステリーとしては緩いですが、それでも緩さを受け入れると中々面白い話もあったと思います。
ホームズパロディ+先入観で捜査する素人探偵の危うさが面白い「失踪した夫人の謎」、ブラウン神父のノリをトミーとタペンスの空気感で意外とうまく描いている「霧の中の男」、本短編集で唯一の読了後も暗い影が残る「死の潜む家」、リアル謎解きゲーム的な謎が楽しい「牧師の娘」「レッドハウス」辺りがお気に入りです。

本格ミステリーを期待すると楽しめないと思いますが、殺人事件が絡まない話も多いため、明るく楽しい軽ミステリー短編を気楽に読みたい人にはしっかり面白さを提供してくれると思います。

「なあ、タペンス、ぼくたちはこの仕事ではアマチュアであることは否めない――もちろん、ある意味でアマチュアなのはいたしかたないよ。だが、いわゆる専門技術を習得してみても害はないだろう。ここにある本はこの分野の巨匠たちによる探偵小説なんだ。いろいろ違うスタイルを試して、結果を比較してみようと思ってね」
「ふーん。こういう探偵たちが現実にいたらどれほどの活躍をするんだろうって、よく考えるのよ」

アガサ・クリスティー 野口百合子訳『二人で探偵を』東京創元社, 2024, p.34-35
名作探偵小説の探偵達を手本にしようと考えているトミー

映像化作品

LWT制作『おしどり探偵』Agatha Christie's Partners in Crime(1983~84/英/全10話)

原作から、国際的な陰謀が絡む連作エピソードを除いた作品が映像化されています。原作では意外と出番が少なめのアルバートやマリオット警部の出番も増えており、こちらも明るく楽しい1話完結コメディミステリードラマです。

   タペンス/フランセスカ・アニス(田島令子)
    トミー/ジェームズ・ワーウィック(佐々木功/家中 宏)
  アルバート/リース・ディンズデール(中尾隆聖)
マリオット警部/アーサー・コックス(水島鉄夫)


トミーとタペンス シリーズ一覧

01.秘密機関 The Secret Adversary(1922)
02.二人で探偵を/おしどり探偵 Partners in Crime(1929)
03.NかMか N or M?(1941)
04.親指のうずき By the Pricking of my Thumbs(1968)
05.運命の裏木戸 Postern of Fate(1973)


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