ポワロ長編7『エッジウェア卿の死』Lord Edgware Dies(1933)紹介と再読感想
アガサ・クリスティー 福島正実 訳『エッジウェア卿の死』早川書房, 1979
今年放送された『アリバイ崩し承ります』のSPドラマで取り上げられたことも記憶に新しい本書を再読しました。かなり久しぶりのポワロ(早川書房ではポアロ表記)長編再読です。
本書の再読は、ドラマではたまに再見していましたが、20年ぶり位かもしれない。
あらすじ
ポアロは、新進気鋭の女優カーロッタ・アダムズの寸劇を観に行った夜に、大人気女優ジェーン・ウイルキンスンから夫と離婚するのに協力して欲しいと依頼を受ける。
ジェーンの願いを受け入れエッジウェア卿に会ったポアロは、半年も前に離婚に同意しているという返事を聞き驚く。
会見の翌日、エッジウェア卿が殺害され、目撃者の証言からジェーン・ウェルキンスンが犯人と目された。
しかし、ジェーンにはパーティに出ていたというアリバイがあった。
ポアロは、ヘイスティングズとともに、事件当夜の関係者の動きを調べて行く。
紹介と感想
30年代のポワロらしく、全てのテキストがミステリーの仕掛けとして奉仕している作品でした。
メインとなる仕掛けは、真剣にミステリー小説を読んでいる人ほど騙される方向へ行きそうなもので、クリスティーがかなりメタ的にミステリー小説の構造を利用していたことが分かります。
そして、かなり久しぶりにヘイスティングズやジャップ警部が出る原作を読みましたが、記憶以上に超凡人代表という描かれ方だったのに笑ってしまいました。
ドラマの二人の方が最近は見慣れていたので、特にジャップ警部の警察組織として情報を仕入れてくれる以外の役に立たなさやポワロを馬鹿にする姿は一周回って新鮮に感じます。
この頃にはヘイスティングズが出ている短編も久しぶりに書かれており、クリスティーがヘイスティングズを再び使用するかどうか試していたのかなと感じました。
物語は最初のヘイスティングズの文章と最終章のために全てがあり、全てが表現されているような内容ですが、そこの強烈さはドラマメインの時代ではないからこそ表現できた良さがあったと思います。
ライトタッチの軽快な物語を楽しみながら、程よい驚きも味わえる。
美味しい軽食を食べたい気分と同じように本を楽しみたい時にオススメの一冊です。
ネタバレ感想
久しぶりに読むとジェーン・ウェルキンスンの出番が思ったより少なかったこと、それでもなお強烈な印象を残すことに気づきました。
ドラマでは謎解きの場面にジェーンがいる改変が多いですが、原作では謎解きの場面にもいないため、作中でジェーンがポアロと最後に会話をするのは本の中盤辺りが最後で、その後は直接出てくる場面は多くありません。
しかし、それでも短い中でジェーンの単純さと狡猾さが良く描かれており、そのために最後の手記も効果的になっていました。
そのキャラクター造形や驚きも、ドラマメインの展開になってからでは効果的に描きづらいタイプのもので、初期作だから生まれたキャラクターという感じです。
昔から、ジェーンの手記が書かれたのは絞首刑になる前日なのではないかと思っており、改めてジェーンの軽薄さに哀れさを感じるとともに、カーロッタがジェーンの物まねをしていなければ起こらなかった偶然に哀しさを感じてしまいました。
自分が予想していたより楽しめた再読でした。
映像化作品
オースティン・トレヴァー主演 第3作『Lord Edgware Dies』(1934/英)
ピーター・ユスティノフ主演 ドラマ版(米)
第1作『エッジウェア卿殺人事件』(1985)
デヴィッド・スーシェ主演『名探偵ポワロ』(英)
シーズン7 第2話『エッジウェア卿の死』(2000)
『クリスティーのフレンチ・ミステリー』Les petits meurtres d'Agatha Christie(仏)
シーズン1 第11話「エッジウェア卿の死」(2012)
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