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アガサ・クリスティー『エッジウェア卿の死』映像化作品 紹介と感想

ネタ的に説得力を持って映像で表現するのが難しい所がありながら、女優がメインキャラクターとしていることに惹かれるのか映像化の多い本作。
最近、オースティン・トレバー版も観れたので、ここで感想を残しておきます。

原作の映像化として今から観るのにオススメなのは、スーシェ版とユスティノフ版。戦前のミステリー映画に抵抗が無ければトレバー版も意外と楽しめると思います。
フランスドラマ版は原作ドラマとしては微妙なため、シリーズファン向けというところです。


オースティン・トレヴァー主演 第3作『Lord Edgware Dies』(1934/英)

原作の翌年に映画化された本作は、当時のミステリー映画として観ると普通に面白く観ることができました。

ただし、字幕なしで見たため、筆者の乏しい英語力では台詞の面白さは全く味わえず、ほぼ映像から得た印象のみの感想になります。

トレバーは1931年に『アリバイ』(『アクロイド殺し』の戯曲版の映画化)と『ブラック・コーヒー』と2作の映画でポワロを演じていますが、これらは既にフィルムが無いようで、今作だけが動いてる姿を楽しめる唯一の作品になっています。

キャラクター面で引っかかるのは、トレバーの見た目がポワロっぽくない事と(そもそも口髭もなく似せようと最初からしていない)、ヘイスティングズが見た目も含めて分かりやすい間抜けな助手っぽく描かれていることかと思いますが、この映画全体の雰囲気としてはあまり気になりませんでした。

映像的にも時代を考慮すると悪くなく、なにより原作と同じ時代に創られているため、そこで表現されている世界観は正にリアルなものとしてイメージされるものになっていることです。

物語の流れは意外と原作に忠実ながら、最後の結末などは当時のミステリー映画的な安っぽさがありますし、原作の映像化を観たい際にはスーシェの作品があるのでオススメしませんが、当時のミステリー映画好きは充分楽しめると思います。

スタッフ
脚本/H. ファウラー ミアー
監督/ヘンリー・エドワーズ
時間/80分

キャスト
  エルキュール・ポワロ/オースティン・トレバー
    ヘイスティングズ/リチャード・クーパー
      ジャップ警部/ジョン・ターンブル
    エッジウェア夫人/ジェーン・カー
ローランド・マーシュ大尉/マイケル・シェプリー
 ブライアン・マーティン/レスリー・ペリンズ


ピーター・ユスティノフ主演 ドラマ版 第1作『エッジウェア卿殺人事件』Thirteen at Dinner(1985/米)

テレビに出演しているポワロの姿から始まる今作は時代を制作当時の80年代に移して展開されます。
また、ユスティノフ版ポワロで唯一ロンドンがメイン舞台となった物語でもあります。

そのため、珍しくポワロの家の様子が映し出されますが、ポワロの部屋というよりユスティノフポワロの部屋という感じが良く出ていました。

原作のポワロとは違いますが、ユスティノフポワロは一つの個性として完成しており、特有のユーモア感はテレビ作品になっても変わらず安心感があります。
また、何かと評判の良くないヘイスティングスですが、個人的にはユスティノフポワロとの相性は悪くないと思うのと、テレビシリーズ3作品全てで助手を務めているのもあり結構愛着があります。

スーシェのジャップ警部は、本人が言う通り類型的な名探偵物の警察官という枠から出ていなく、特徴は良く食べ物を口に入れていること位で個性は薄いですが、既にポワロであることを知ってから見るとメタ的な面白さは味わえます。

物語としては細々とした省略や変更はありますが、概ね原作に沿って展開されるため、特に言う事はありません。
フェイ・ダナウェイの使い方で、色々とネタを割っているようなものですが、それでもミステリードラマとして問題なく映像化できています。

映画程ではないとはいえ、ロンドンロケを行った映像は雰囲気が出ており、敢えて事件中は80年代が舞台となっていると考えすぎなければ、原作の映像化として悪くない作品だと思います。

事件自体の整理をしながら展開していくため、集中して観ていない時間があっても理解しやすく、ドラマの作りもしっかりしているため、この時代の娯楽ミステリードラマが好きな人にはお勧めです。

スタッフ
脚本/ロッド・ブラウニング
監督/ルー・アントニオ
時間/94分

キャスト
   エルキュール・ポワロ/ピーター・ユスティノフ
アーサー・ヘイスティングス/ジョナサン・セシル
       ジャップ警部/デビッド・スーシェ

 ジェーン・ウィルキンソン/フェイ・ダナウェイ
    ロナルド・マーシュ/ビル・ナイ
   ジェニー・ドライバー/ダイアン・キートン
      ドナルド・ロス/ベネディクト・テイラー
  ブライアン・マーティン/リー・ホースリー
 モンタギュー・コーナー卿/アラン・カスバートソン
      エッジウェア卿/ジョン・バロン


デヴィッド・スーシェ主演『名探偵ポワロ』(英) シーズン7 第2話『エッジウェア卿の死』(2000)

『アクロイド殺し』に続く物語の為、一度引退したポワロが事務所を再開する様子から始まります。
そこに、ヘイスティングスも金銭関連の失敗によりアルゼンチンの農場を手放すことになり、ロンドンへ戻ってきてチームポワロが勢揃いになります。

物語は一部登場人物の整理や、エピソードの順番の変更、ある人物の顛末など細かい違いはありますが、原作の筋に忠実に展開されます。

役者陣ではミス・マープルでクラドック警部を演じたジョン・キャッスルがエッジウェア卿を演じていること、吹替陣ではカーロッタ役の野沢雅子さんが印象に残りました。

映像で表すのが難しいトリックですが、結構がんばって映像化していると思いますし、チームポワロのやり取りも楽しめるため、安心して楽しめる話になっていると思います。

スタッフ
脚本/アンソニー・ホロウィッツ
監督/ブライアン・ファーナム
時間/99分

キャスト
   エルキュール・ポワロ/デビッド・スーシェ(熊倉一雄)
アーサー・ヘイスティングス/ヒュー・フレイザー(安原義人)
   ジェームズ・ジャップ/フィリップ・ジャクソン(坂口芳貞)
ミス・フェリシティ・レモン/ポーリン・モラン(翠準子)

 ジェーン・ウィルキンソン/ヘレン・グレース(塩田朋子)
      エッジウェア卿/ジョン・キャッスル(勝部演之)
   カーロッタ・アダムズ/フィオナ・アレン(野沢雅子)
  ブライアン・マーティン/ドミニク・ガード(佐々木勝彦)


『アガサ・クリスティーのフレンチ・ミステリー』Les petits meurtres d'Agatha Christie(仏) シーズン1 第11話「エッジウェア卿の死」Le Couteau sur la Nuque(2012)

あらすじ
ラロジエールの元へ、切り取られた女の足が届き、その足の指には〝1003〟と描かれていた。
同じ頃、ラロジエールの家には娘のジュリエットが押しかけてきて、あまつさえ仕事にも同行してきた。
見つかった女の死体から、とある劇場に関係があることを知ったラロジエールとランピオンは捜査を進めていく。
劇場では一癖も二癖もある役者やスタッフが揃っており、新作の稽古が進む中、複雑な人間関係が展開されていた。
劇場内では次々に犠牲者が生まれていく中、ジュリエットにも魔の手が迫る……。


ラロジエールとランピオンの最後を飾るエピソードになります。
そして、この物語の最大の弱点もそこにあります。

第5話「鳩の中の猫」で登場したラロジエールの娘・ジュリエットも再登場し、最後らしい展開を見せるオリジナルエピソードが挿入されるのですが、同じ劇場内で展開される以外は原作と上手く混じり合っていなく、個人的には1話の中に独立した物語が2つ入っているような印象を受けてしまいました。

原作の第一の殺人に当たる事件が開始1時間ほど経ってから起こることから分かるように、物語の比重はオリジナル展開の方にあるため、原作部分は短編レベルまで端折られており、かなり勿体ない使い方となっています。
これなら、思い切って完全にオリジナルな物語として最終回を描いた方が満足度があがったと感じます。

ただし、サラ(原作のジェーン)の最後の存在感は良かったと思います。
だからこそ、物語上のバランスの悪さが勿体なく感じもするのですが。

オリジナル展開はクリスティー的な物ではないため、クリスティー作品の映像化を観たい際には全くお勧めできません。
しかし、レギュラー3人はいつも通り持ち味を発揮しており、シリーズのファンとして最終回を感じながら観るには楽しめると思います。

スタッフ
脚本/ティエリー・デブルー
監督/ルノー・ベルトラン
時間/94分

キャスト
ジャン・ラロジエール/アントワーヌ・デュレリー
エミール・ランピオン/マリウス・コルッチ
    メナール巡査/セルジュ・デュボワ

   サラ・モルラン/マルーシュカ・デートメルス
ピエール・フジェール/ジャン=マリー・ウィンリング
    ジュリエット/アリス・イザーズ
  ラウル・コーチン/ギヨーム・ブリア
 ジュリアン・ソベル/ジュリアン・オールゲット
アントワーヌ・マラン/フレデリック・ロンボワ
 リュシー・フレモン/ヴィンシアーヌ・ミルロー

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