ポワロ長編27『死者のあやまち』Dead Man's Folly(1956)紹介と再読感想
アガサ・クリスティー 田村隆一訳『死者のあやまち』早川書房, 1983
アガサ・クリスティー 羽田詩津子訳『ポアロとグリーンショアの阿房宮』早川書房, 2015
クリスティーが夏の休暇を過ごしたダート川のほとりにあるグリーンウェイをモデルに描かれた長編になります。
また、最初は中編として描かれながら、長編に書き改められて刊行された経緯を持つ小説でもあります。
『ポアロとグリーンショアの阿房宮』が刊行された時以来の再読となります。
あらすじ
オリヴァ夫人にナスコームのナス屋敷まで呼び出されたポアロ。
オリヴァ夫人はナス屋敷のお祭りで行われる犯人探しのゲームシナリオを考えるために滞在していたが、何か不吉な予感がするというのだ。
ナス屋敷には主人のジョージ・スタップス卿と妻のハティ、以前の屋敷の持主であるフォリアット夫人のほか、祭りの準備のために手伝いに来ている人物も多かった。
お祭りは平穏に始まったが、夕方頃に死体役を務めていたマーリン・タッカーの絞殺体をポアロとオリヴァ夫人が発見する。
その後、ハティも失踪してまい、事件は混迷を極めていくのだった……
紹介と感想
オリヴァ夫人に呼び出されたポアロが少女殺しに挑む今作は、クリスティーらしい大胆な伏線と、オリヴァ夫人の活き活きとした様子が楽しめます。
オリヴァ夫人をただの狂言回しとしてだけでなく、しっかりミステリーとして絡めているのも好感触です。
殺人が起こるまでに本の1/3程が使われていますが、ここまでの流れにも重要な伏線が多数仕込まれています。
また、第六章で描かれるお祭りの様子が本当に楽しそうで、ポアロがキューピー人形を抱えている姿もかわいかったです。
そして、ここの描写が楽しいからこそ、実際に殺人が起こってしまう落差にも繋がっていました。
事件が起きてからはブランド警部の捜査をメインに展開しながら、合間でポアロの視点が入る構成で展開していきます。
直前にエッジウェア卿を読んでいたため、ブランド警部が有能に見えてしまいました。
ミステリーとしては、実行犯が誰かより、事件の真相が分かることで浮かび上がってくる、ある人物の悲劇性に軸が置かれている感じです。
このドラマはクリスティーらしい伏線を置くことで、それらが最後にドラマとして一気に広がりを見せる形になっており良かったです。
また、真相を知った後は、クリスティーの大胆な伏線の撒き方を確認したくなると思います。
また、物語の舞台となっているナス屋敷はクリスティーの愛したグリーンウェイがモデルとなっているのも、本書の特別感を引き立ててくれます。
大傑作ではありませんが、使われているネタや伏線の貼り方など安定したクリスティーミステリーの世界になっているため、手軽にクリスティー世界を味わいたい時にオススメの一品です。
『ポアロとグリーンショアの阿房宮』(2014)
『死者のあやまち』の原型中編としてジョン・カランにより発見され、2014年に刊行された作品です。
内容としては、殺人までの描写は簡潔になっていますがほぼ長編と同じ展開となっており、殺人後はブランド警部の捜査パートを必要な情報以外丸ごとカットして解決編という構成になっています。
クリスティー文庫の中には中編から長編に書き改めた経緯などジョン・カランによる詳しい解説も収録されていますが、物語的には長編の圧縮版という感じなので濃いファン向けの内容ではあります。
ただし、物語の深みは当然長編の方が高いですが、ミステリーとしては中編でも同様の内容が味わえるため、長編を読むのが苦手な人が敢えてこちらから読むのは悪くないかもしれません。
映像化作品
ピーター・ユスティノフ主演 ドラマ版(米)
第2作『死者のあやまち』(1986)
デヴィッド・スーシェ主演『名探偵ポワロ』(英)
シーズン13 第3話『死者のあやまち』(2013)
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