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アガサ・クリスティー『シタフォードの秘密』The Sittaford Mystery(1931)紹介と再読感想

アガサ・クリスティー 田村隆一訳『シタフォードの秘密』早川書房, 1985

『雪山書店と嘘つきな死体』を読んだら読みたくなったため、かなり久しぶりの再読をしました。昔読んだ時より全体の印象が良く面白かったです。


あらすじ

雪深い夜にシタフォード荘を借りているウィリット母娘に招待された人々は、降霊会を行うことになった。
緩い空気の中で行われていた降霊会だが、シタフォード荘の持主であるトリヴィリアン大佐の死が予言されたことで空気が変わる。
親友のバーナビー少佐は雪が降っているのも厭わずに、現在はシタフォード荘から歩いて2時間もかかる麓の村に住んでいる大佐の元へと駆けつけるが、既に大佐は殺されていた。
ナラコット警部が捜査を始めると、有力容疑者として大佐の甥のジェイムズが浮上する。
事件当時現場に居たこともあり逮捕されるジェイムズ。
しかし、ジェイムズの婚約者エミリーは逮捕に納得できず、新聞記者のチャールズの力も借りながら捜査を始める。


紹介と再読感想

本書はスリラー要素が無いノンシリーズ長編として最初期の作品で、十数年振りとかなり久しぶりの再読になります。

メイントリックは時代を経て新鮮味が薄まってしまったために驚きは少ないですが、叙述の上手さでミステリーの総合力が増しており、全体としてコンパクトにまとまっているのもプラスに作用して、軽ミステリーとして昔読んだ時より満足感を感じることができました。

上記に書いた通り、クリスティーの叙述は後年の手練れ感は薄いものの、十分巧さを感じられるものとなっています。
また、エミリーとチャールズの若い男女のコンビものとしては変則的な楽しさや、ナラコット警部の賢さが分かる捜査パートなど、変なストレスなく読めるのも良い所です。

ホームズパロディともいえる描写もあり、クリスティーも楽しんで書いたのではないかと感じられる作品であり、複雑すぎないミステリー性も軽く楽しみたいような時にはむしろプラスに働くかもしれません。

気晴らしに一冊ミステリーを読もうかなというような時にこそお勧めの一冊になります。

他人の印象なんて自分の役には立たない。それらは自分自身で得る印象と同じように正しいかもしれないが、やはりそのまま受け入れて、他人の攻撃角度をそっくりそのまま自分の角度とするわけにはいかないのだ。

アガサ・クリスティー 田村隆一訳『シタフォードの秘密』早川書房, 1985, p.167
「16 ライクラフト氏」より 生前のトリヴィリアン大佐を知らないことを悔しがるエミリー

ジェラルディン・マクイーワン主演『ミス・マープル』(英米)
 シーズン2 第4話「シタフォードの謎」(2006)

登場人物名やエピソード、メイントリックと原作の要素を色々と使っていますが、全体の物語や事件の真相は原作とは異なります。

また、登場人物の印象も原作とは大きく変わっており、この時期の改変作らしくあまり気持ちの良い変更とはなっていません。

降霊会や殺人が起こるまでに物語の1/3以上を使用し、原作では個人としてのドラマがほぼ無い被害者の大佐が、今作では大きなドラマを担っていました。

エミリーが昔レイモンドと付き合っていた縁からマープルも知り合いで、大佐とも汽車で顔を合わせていたりと、マープルが事件へ興味を持つための布石は万全でした。

脚本家の名前から分かる通り個人的にとても相性の悪い物語であり、ITV版マープルでも再見率が低い物語になります。

脚本:スティーブン・チャーシェット
監督:ポール・アンウィン
時間:93分

キャスト
    ジェーン・マープル/ジェラルディン・マクイーワン(草笛光子)

 クライヴ・トレヴェリアン/ティモシー・ダルトン(小川真司)
  エミリー・トレファシス/ゾーイ・テルフォード(斎藤恵理)
  チャールズ・バーナビー/ジェームズ・マレー(咲野俊介)
   ジェイムズ・ピアソン/ローレンス・フォックス(桐本琢也)
   ジョン・エンダービイ/メル・スミス(内海賢二)
  マーティン・ジマーマン/マイケル・ブランドン(立川三貴)
      ウィレット夫人/パトリシア・ホッジ
ヴァイオレット・ウィレット/キャリー・マリガン


その他の映像化

『アガサ・クリスティーの謎解きゲーム』Les petits meurtres d'Agatha Christie(仏)
 シーズン2 第23話「Mélodie mortelle」(2018) ※日本未紹介


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