サン|ロンドン留学中

27歳既婚社会人。ロンドンでジェンダー研究を始めました。女尊男卑の思想でも現状への不平…

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27歳既婚社会人。ロンドンでジェンダー研究を始めました。女尊男卑の思想でも現状への不平不満でもなく、社会を見るレンズとしてのジェンダー学について書いていきたいと思います。

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ジェンダー学とフェミニズム

ジェンダー学を始めるに当たってぶつかる問いは、ジェンダー学とフェミニズムは同義だろうか、言い換えれば、ジェンダー研究をするにはフェミニストでなければいけないのだろうかということです。フェミニズムを、別の記事でも引用した「性差別、性的搾取、性的抑圧を終わらせるための運動」(hooks, bell. (2000) Feminist Theory: From Margin to Centre. London: Pluto, p.33.(筆者訳))と定義すれば、ジェンダー学はざっくり

    • 3月8日「国際女性デー」に寄せて——大規模なデモでも熱狂的なフェミニスト集会でもなかったら、日本では何ができるんだろう

      スペインでのフェミニズム会議 先日、スペインの首都マドリードで開催されたEIF2023というスペイン平等省(Ministerio de Igualdad、英語ではMinistry of Equality)主催の国際フェミニスト会議に参加してきました。3日間で約100名の登壇者に3,000人以上の参加者が集まったそうです。主にスペイン語圏(スペイン、中南米)、まれに欧米、中東、南アジアやアフリカ出身の活動家や学者、政治家がパネリストとなり、様々なテーマについて、出身地域の個別

      • 残業文化が変わらなければ少子化は止まらない

        2022年の出生数が初めて80万人を割ったというニュースに関連し、「少子化対策」の議論が盛り上がっていますが、経済的支援や保育園等の充実はもちろん重要な一方、男性中心・長時間労働の仕事文化が変わらなければ20〜30代の女性が子どもを持とうと思うようにはならないと思うので、簡単に。まだ読み切れていませんが、次の本がデータも充実していてとても勉強になります。 少子化とワークライフバランスの問題は、私がそもそもジェンダー学に興味を持ったきっかけに大きく関係しています。日本の伝統的

        • 「時給1万円で働ける人が家事をするのは非効率」という論理の乱暴さ②

          時間が開いてしまいましたが、前々回の記事の続きです。 引き続き、Nancy Fraserの著書『中断された正義/Justice Interruptus: Critical reflections on the 'postsocialist' condition』(1997)の一章 'After the family wage: A post-industrial thought experiment' (pp.41-68) を参照しつつ書いていきたいと思います。 ②北欧型

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        ジェンダー学とフェミニズム

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          何かを知るということは究極の「変容的経験」なのではないか——ジェンダーを学ぶと後戻りはできない

          夫に勧められて、哲学者・谷川嘉浩さんのポッドキャスト「Philosophy gives directions」のエピソード#4「人生の岐路で、どう決断した方がいい?」を聴いてみました。一つ前の記事で家事の商業化について前編を書いたところなので、順番が前後してしまうのですが、今感じていることを忘れないうちに書き記しておきたいと思います。  このエピソードは、米国の哲学者L.A.ポールの著書『今夜ヴァンパイアになる前に』を題材として、ポールの言うtransformative ex

          何かを知るということは究極の「変容的経験」なのではないか——ジェンダーを学ぶと後戻りはできない

          「時給1万円で働ける人が家事をするのは非効率」という論理の乱暴さ①

          「家事労働に賃金を/Wages for Housework」というフェミニズム運動が盛り上がった時期がありました。家庭の外で有給で働き、新たな「価値」を生み出す仕事を「生産/production」「生産労働/productive labour」と呼ぶのに対し、出産・育児を含め主に家庭で行われる家事は「再生産/reproduction」「再生産労働/reproductive labour」と呼ばれます。(避妊や中絶などに関する女性の権利を指して「リプロダクティブ・ライツ/rep

          「時給1万円で働ける人が家事をするのは非効率」という論理の乱暴さ①

          「同性婚」議論から考える結婚・家族制度の限界

          首相秘書官がジェンダー・マイノリティに関する差別発言をしたというニュースを聞いて、日本の政治界はやはりまだそんなレベルなのかと気分が暗くなりました。その世代には、心の中で差別意識を持っている人がまだ多いかもしれないということは想像できますが、首相秘書官という立場にある人が、記者の前でそういった発言をしても問題ないと一瞬でも思えたという環境の閉塞さが何よりも信じ難いです。きっと、彼個人が周りと掛け離れた古い思想を持っているということではなく、秘書官室であれ国会であれ、日頃いる環

          「同性婚」議論から考える結婚・家族制度の限界

          男性を敵に回したいわけじゃない——ただ、その冗談で笑える特権の大きさを分かってほしい

          ジェンダー学をやっているとか、フェミニストだと名乗る女性に出会うと構えてしまう男性は多いのではないかと思う。「男」であることの人格全てを否定されるのではないかと。私がプロフィールに「フェミニスト」と書かない理由もここにある。そんな風に構えて欲しくないし、ジェンダー学もフェミニズムも、決して男性批判ではない。男性優位な社会構造を批判するものではあっても、男性一個人の人格を否定するものではないのだ。それに加えて、私は、社会が突然変わるとも思っていないし、不公正なこと全てを締め出し

          男性を敵に回したいわけじゃない——ただ、その冗談で笑える特権の大きさを分かってほしい

          私に格差を語る資格があるか

          ジェンダー学を学んでいると、ジェンダーだけでなく、国・地域、人種、階級、経済状況など、ありとあらゆる権力構造の結果として虐げられている人々のストーリーを垣間見ることになります。毎週毎週、授業の準備として課題文献を読むだけで、それまで思いを馳せたことすらなかった不正義を目の前に突きつけられます。その度に、この社会、格差、差別について何か言う資格があるのかと、苦しくならずにはいられません。こんなにも不正義に満ちているこの世の中のほんの片隅で、ぬくぬくと既得権益に包まれて生きている

          私に格差を語る資格があるか

          「#緊急避妊薬を薬局で」パブコメを提出してみた話

          「#緊急避妊薬を薬局で」というハッシュタグを目にしたことのある人は多いのではないでしょうか。昨年末から「緊急避妊薬のスイッチOCT化」に関して厚生労働省がパブリック・コメント(パブコメ)を募集しているというのを1月末の締め切り間近になって知り、パブコメというものを初めて提出してみたので、内容も含めて書いておきたいと思います。 緊急避妊薬のスイッチOCT化とは 緊急避妊薬とは、アフターピルとも呼ばれる妊娠を未然に防ぐための薬であり、性交渉後72時間以内に服用すれば8割以上の

          「#緊急避妊薬を薬局で」パブコメを提出してみた話

          男子校ノリの下ネタと女性が男性の容姿を噂するのの何が違うのか…前者は特定の女性を話題にしたとしても、その個人への関心というより女性を性的対象としてネタにすることで異性愛の男性同士の(ホモソーシャルな)絆を確かめることに重点があるってことなのかな。この非対称性を言葉にするの難しい。

          男子校ノリの下ネタと女性が男性の容姿を噂するのの何が違うのか…前者は特定の女性を話題にしたとしても、その個人への関心というより女性を性的対象としてネタにすることで異性愛の男性同士の(ホモソーシャルな)絆を確かめることに重点があるってことなのかな。この非対称性を言葉にするの難しい。

          生理休暇の是非

          セミナーの中で、生理休暇制度の設定を企業に義務付けることの是非について議論があったので、簡単に概観を。一見すると女性に優しい政策に見えますが、女性を雇うことのコストを強調し、生理に限らず健康を維持するために必要な休息時間が人によって異なることを無視してしまう危険性もあります。ジェンダーにまつわる生きづらさの解消に貢献するかどうかという観点から、メリットとデメリットを考えてみたいと思います。 メリット 生理痛が重い場合に欠勤とならずに取得できる休暇日数が増えること。生理のた

          夫が働きながら妻の海外赴任に同伴するってそんなに珍しいことなのかしら。「駐在妻」の経験談は溢れているけれど、元の仕事を継続する想定ではないし、税金、保険…分からないことだらけ。これだけネットが普及した時代、パートナーの転勤に帯同しつつ仕事を続けるケースがもっとあってもいいのでは…

          夫が働きながら妻の海外赴任に同伴するってそんなに珍しいことなのかしら。「駐在妻」の経験談は溢れているけれど、元の仕事を継続する想定ではないし、税金、保険…分からないことだらけ。これだけネットが普及した時代、パートナーの転勤に帯同しつつ仕事を続けるケースがもっとあってもいいのでは…

          選択の自由は時に苦しい。それでも。

          フェミニズムやあらゆる差別反対運動が目指すところは、究極的には誰もが生まれに関係なく自由に人生を選択できる社会です。それは、身分制や奴隷制の廃止に始まり、現代社会が模索してきた社会正義そのものだと言えるでしょう。一方で、自由には選択が伴います。何かを選ぶということは他の選択肢を手放すということであり、時に苦しいものです。「誰かが決めてしまってくれたら楽なのに…」と思う瞬間が誰しもあるのではないでしょうか。だから、「女だから、男だから、というステレオタイプに縛られずに自由に生き

          選択の自由は時に苦しい。それでも。

          組織の中のジェンダー不平等——リベラル思想、構造主義、ポスト構造主義

          職場、バイト先、教育機関、自治会…組織と呼べるような人の集団は私たちの生活にとってとても身近で、だからこそジェンダーに関する問題意識を得やすい場です。なぜ保育園の先生は女性ばかりで大学教授は男性ばかりなのか、なぜ秘書は女性が多く取締役は男性が多いのか、なぜ「パート」と言うと中年女性をイメージし、缶コーヒーのCMにはブルーカラーの男性が登場するのか…。私がジェンダー学に関心を持ったきっかけも、自分の職場で明らかに男女に偏りのある部署が多かったからでした。忙しく花形の、つまり残業

          組織の中のジェンダー不平等——リベラル思想、構造主義、ポスト構造主義

          夫が家事を「手伝う」のではなぜ不十分か

          日本で一緒に住んでいた時も夫婦喧嘩はほとんどしなかったのですが、喧嘩というより私が苦情を言ったことが何度かありました。きちんと話してみると、夫の言い分にも一理あるので一方的に責めるわけにはいかないのですが、譲れないことがあります——家事はただの単純作業ではなくて頭脳労働だということ。  夫・父親が家事・育児をよく「手伝っている」「協力している」という言い方を見聞きするたび、いつもすごくモヤモヤしていました。妻・母親が主に家事・育児をしていることに対する敬意と謙遜もあるのかもし

          夫が家事を「手伝う」のではなぜ不十分か