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「#緊急避妊薬を薬局で」パブコメを提出してみた話

#緊急避妊薬を薬局で」というハッシュタグを目にしたことのある人は多いのではないでしょうか。昨年末から「緊急避妊薬のスイッチOCT化」に関して厚生労働省がパブリック・コメント(パブコメ)を募集しているというのを1月末の締め切り間近になって知り、パブコメというものを初めて提出してみたので、内容も含めて書いておきたいと思います。

緊急避妊薬のスイッチOCT化とは

緊急避妊薬とは、アフターピルとも呼ばれる妊娠を未然に防ぐための薬であり、性交渉後72時間以内に服用すれば8割以上の避妊効果が認められています。継続して飲むことで避妊効果を生む低用量ピルとは異なり、必要な際に1錠だけ服用するものです。これが、世界90か国以上で医師による処方箋なしに薬局等で入手できているにも関わらず、日本では処方箋が必要でアクセスしづらいことが問題視され、薬局で購入できるようにする(OCT化)べきかという議論がなされてきました。2017年に検討された際には時期尚早として実現に至らなかったのですが、2020年の男女共同参画基本計画に盛り込まれたこともあり、改めて検討が行われています。スイッチOCTとは、医療機関で処方されてきた医薬品のうち、処方箋なしで薬局でも購入可能になったものを指し、緊急避妊薬がスイッチOCT化された場合、現行制度であれば3年間は薬剤師による指導が必要な要指導医薬品、その後は店頭に陳列される一般用医薬品に移行されるということです。
 緊急避妊薬は早く服用すればするほど避妊効果が高いにも関わらず、産婦人科受診の物理的・金銭的・精神的負担の大きさから、必要とする女性に迅速に届いていない現状があります。詳細なデータや海外との比較は検討会議資料にもありますので、詳しく知りたい方はぜひ見ていただければと思います。

パブコメ提出の流れ

私自身パブコメを提出したのは今回が初めてでしたが、想像よりもずっと簡単でした。今回のパブコメはこちらのページに詳細があり、そのままウェブで提出することも、所定の様式に記入して郵送することもできます。

オンライン提出は非常に手軽で、PDFの募集要項を確認後「意見入力へ」というボタンをクリックすると、2000字以内の自由記入欄が現れるのでそこに入力して提出するだけです。個人情報は任意で記入することができます(コメントについて質問がある場合用)。提出してみて気がついた注意点は、時間が経つとページが無効になってしまうため意見は別ファイル等で作成してからコピペするのが良いということと、%〜①といった機種依存文字は使用できないということです。「」()・- は使用できました。

私が提出した意見

検討会議の議事録や資料を読んで思うところは色々とあったのですが、保守的な考え方が根強い政治の場で議論されるということを踏まえ、繰り返し出てくる懸念点への反論という形でまとめました。より深く考えれば、日本では子どもを持つためでない性交渉の自由が特に女性については社会的に制約されているので、そういった自由も含めてのリプロダクティブ・ヘルス/ライツの問題だと思うのですが、そこまで拡げてしまうと抵抗感を持つ政治家も多いと思い、触れていません。参考になれば幸いです。

緊急避妊薬のスイッチOTC化は早急になされるべきだと考えます。2017年の検討やこの1-2年の検討会議では、1)処方箋なしでの販売によって医療機関等によるその後の支援がしづらくなる、2)性教育の不足や男女関係の力の不均衡、3)悪用・濫用のおそれ等が懸念として挙げられていましたが、いずれも緊急避妊薬へのアクセスを改善することに対する有効な反対理由にはなりません。第19回検討会議における黒川委員の発言にあるように、「薬は有効性・安全性が基本」であり、両者が認められている緊急避妊薬について、明らかなニーズがあるにも関わらず薬局での販売を妨げる理由はないはずです。緊急避妊薬を必要としている女性に病院の受診を義務付けることは、いわば不審者に追いかけられている子どもに、近所の家やコンビニでは長期的な保護や不審者の追跡に繋がらないから交番まで行きなさいと言っているようなものです。緊急避妊薬は望まない妊娠を恐れる女性にとって「今この瞬間」に必要な、文字通り「緊急の」シェルターであり、フォローアップやそもそものより安全な環境整備の必要性が利用の妨げになってはいけません。現状では、不必要なパターナリズム・過保護さが既に苦しんでいる女性を二重・三重に苦しめています。社会としてのジェンダー平等への課題はそれとして解決すべきものであり、全体が遅れているツケを救いを求めている個人に払わせないで済むようにしてほしいです。この議論において最優先にすべきは、望まない妊娠の不安を抱える女性の一人でも多くに、一刻も早く緊急避妊薬が届くようにすることです。今回の検討を受けて、日本でも必要な時に緊急避妊薬が手に入るようになることを切に望みます。
 1の懸念については、相談や支援を望む女性がサポート体制にアクセスしやすくすればよいのであって、支援者側からの視認性を優先して一刻を争う状況の女性に必要な薬を提供しないのは本末転倒しています。中学生や、ましてや小学生でさえスマートフォンを持っている今の時代、望まない妊娠の恐れを感じた女性や少女がまずすることはおそらくインターネットで情報を探すことでしょう。そこで正確な情報が手に入るようにすること、そうして薬局に行って適切な案内を受けられること、相談先が明確に分かりアクセスしやすいこと等が重要です。それには、政府や医療機関のウェブサイトの充実や、薬のパッケージ又は必ず一緒に渡すフライヤー等に正しい情報を分かりやすく記載するといったことで対処できるでしょう。当事者にとっては自分自身の体の問題です。緊急避妊薬が手に入ったからと完全に安心してその後の体調の変化に全く注意を払わないということは考えにくく、例えば生理が大幅に遅れるといった異変があれば自ら相談先を求めるでしょう。検討会議においても性暴力被害者のほとんどは医療機関に相談できていないというデータが示されたように、緊急避妊薬を医師の処方に限定することは実際のところ医療機関によるフォローアップを保証できていません。フォローアップどころか必要な薬すら手に入れられない女性を多く生み出しているだけです。第17回検討会議での遠見参考人の発言にあるよう、せめて「二次被害」を防げるようにすべきだと思います。
 2の懸念については、性教育の不十分さや男性優位になりがちな男女関係の結果として傷ついているのは多くの場合女性であるにも関わらず、そういった社会問題を言い訳に女性にさらなる負担を負わせるのは矛盾しています。性教育は充実させるべきであり、男性にコンドーム着用を求めるのは当たり前の権利として理解されるべきであり、双方の同意に基づかない性行為は許容されるべきではありません。しかし、これらの課題解決は緊急避妊薬へのアクセスのハードルを下げるための要件にはなりません。緊急避妊薬が薬局で買えることを理由に避妊を拒否したり女性・少女を性的に搾取しようとしたりする男性がいるとすれば、正されるべきはそういった男性の態度であって、緊急避妊薬が必要になってしまった女性のニーズが犠牲にされるのは間違いです。
 3の悪用の懸念についても上記と同じことが言えます。緊急避妊薬を大量購入して性的搾取のために悪用しようとする人がいるとすれば、それは犯罪として取り締まられるべきであり、本当に必要な人への提供を妨げる理由にはなりません。濫用の危険性に関しては、複数回・恒常的な使用への懸念が挙げられましたが、重大な副作用等が認められていない以上一律に禁止する必要はなく、より確実な避妊法についての情報が同時に提供され、本人が自己決定できるよう選択肢が確保されればよい問題です。
 このように、切実に必要とする女性に緊急避妊薬が十分に届いていない現状において、スイッチOCT化を妨げる有効な理由はないと考えます。早期の制度改正を望みます。

「緊急避妊薬のスイッチOTC化に係る検討会議での議論」に関するパブリック・コメント
(改行も含め2000字ぎりぎりです。)


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