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生理休暇の是非

セミナーの中で、生理休暇制度の設定を企業に義務付けることの是非について議論があったので、簡単に概観を。一見すると女性に優しい政策に見えますが、女性を雇うことのコストを強調し、生理に限らず健康を維持するために必要な休息時間が人によって異なることを無視してしまう危険性もあります。ジェンダーにまつわる生きづらさの解消に貢献するかどうかという観点から、メリットとデメリットを考えてみたいと思います。

メリット

  • 生理痛が重い場合に欠勤とならずに取得できる休暇日数が増えること。生理のために毎月1~2日休まなければならなかった場合、週末に重なる月があったとしても1年間の有給休暇や病気休暇では純粋に足りなくなる可能性、または、余暇のための休暇を取る余裕がなくなる可能性があります。その意味で、生理痛が特に重い人にとっては救いとなる制度でしょう。

  • 公式な休暇の理由として制度化することで、休暇を取ることがやむを得なくなるほど生理痛は深刻になり得るということを企業の管理職に認識させる効果。身近に生理痛が重い人がいなかった場合、毎月ベッドから起き上がれないほど体調が悪化するということが単純に信じられず、「大袈裟ではないか」「仮病ではないか」と思っている人も男女問わずいると思います。生理休暇制度を義務付けることは、生理痛は仕事を休むもっともな理由になるということを社会として認識しようとする取り組みだと言えます。

デメリット

  • 生理痛のみを特別扱いし、その他の健康上休暇が必要な理由の軽視に繋がる危険性。体調を理由として他の社員よりも多く休暇を取らなければいけない可能性があるのは生理痛の重い女性だけではありません。体や心の丈夫さは一人一人異なり、必要な休息の長さには個人差があります。本来、生理痛に限らず健康の維持のための休暇は制裁なしに認められるべきでしょう。この観点から病気休暇の制度が通常の有給休暇とは別にある企業も多く、生理痛もその中に含めればよいというのは議論の一つだと思います。(個人差の話をさらに進めれば、週5日、毎日同じ時間に働くというスタイル自体が合わない人もおり、1週間は7日間、週休2日、1日8時間といった仕組みそのものの恣意性を認識する必要もあります。24時間単位で活動するのが難しい人、1日10時間で週4日働く方が心身共に健康でいられる人など様々なニーズがあり、業界によっては進んできているようなより柔軟な働き方が認められるのが理想でしょう。)

  • 一律の制度を定めることで、個々のニーズに応えられない可能性。「女性」というジェンダーと生理のある人とは大部分で重なってはいるものの完全に同一ではなく、その上、生理痛の深刻さにも大きく個人差があります。「女性」でも生理のための休暇を全く必要とない人もいれば、毎月仕事を休まなければならない人もいます。また、ある一人をとってみても毎月同じとは限らず、時には1〜2日の休暇では不十分な場合もあるでしょう。生理周期も短ければある月に2回当たることもあり得ます。これだけ多様であることを加味すると、生理痛も体質の一つに過ぎず、一括りに「女性」に認めるよりも病気休暇の中で個別に対応した方が適切なのではないかという気もします。

  • (身体的な)女性のみに生理休暇という特別な休暇制度を定めることで、「女性」は「男性」と根源的に異なるという二元論・本質主義的見方を強化し、「男性」に比べて「弱く保護が必要な女性」という固定観念を植え付けてしまう危険性。実態はどうであれ企業側は「女性」には「男性」よりも多く休暇を与えなければいけないと捉えるため、「女性」を「男性」ほど仕事ができないと決めつけ、採用や人事において不利に扱うことに繋がる可能性があります。男女雇用機会均等法をはじめとした公の制度の中立化が進んだにも関わらず、女性管理職の少なさや男女の収入格差が顕著な現状を見れば、こういった「女性」は「体力がない」「家事・育児にリソースを割かれて仕事が手薄になる」といった偏見が依然として職場のジェンダー平等を阻んでいる可能性は高く、それを強化してしまう虞れは看過できません。

まとめ

生理休暇は一見すると女性に優しい制度に見え、私自身生理痛が重かったため心強くもありましたが、改めて考えてみると手放しで賞賛できるものではなさそうです。「女性は生理もあるし男性と同じようには働けないよね」といった、寛大なようでいて「女性」を一括りに見下す言いぶりをされるととても複雑な気分になるので、生理痛に限らず個人の体質の多様性が当たり前に認められるようになるのが理想です。(私は自分でも情けなくなるほど体が弱いので、そう言われても仕方ない自覚はあるのですが、女性皆がそうではないよ!と。)そもそも、いくら仕事を休めたとしても、休む必要があるほどの生理痛は本当につらいので、その治療自体がもっと身近になればいいと思います。例えば、以前の記事で書きましたが、低容量ピルは生理痛の緩和に相当の効果が認められており、日本に根強いピルへの忌避感が変わっていけば試してみる人も増えるのではないでしょうか。私はラズベリーリーフティーというハーブティーで生理痛が劇的に改善し、大袈裟ではなく人生が変わった気がしました。何が効くかは人によりますし、何を試しても改善しない場合もあるでしょう。ですが、耐えるしかないと一人で痛みに苦しむのではなくて、もっとオープンに相談できて、ピルも含めた選択肢が手軽に試せるようになってほしいです。

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