友橋純

そこからそう遠くない何処かに、都会を逃げおおせたニホンザル達が平和に暮らす楽園がある。…

友橋純

そこからそう遠くない何処かに、都会を逃げおおせたニホンザル達が平和に暮らす楽園がある。その楽園の管理人をしています。

マガジン

記事一覧

しましましまい①

山のふもとの小さな町に、おそろいのしましまの服を着た姉妹が住んでいました。 町の人たちはみんな、そのしましまの服が、ろう屋に閉じ込められた人が着る服であることに…

友橋純
2週間前

マイ出囃子を持とう

落語家さんとか芸人さんとか、それぞれ自分の出囃子を持っている。 プロ野球選手のテーマ曲とかプロレスラーの入場曲なんてのもある。 大一番を前に、気持ちを奮い立たせて…

友橋純
2週間前

ニュージャージーで、また泣いた 〜私的ブルース・スプリングスティーン論〜①

七年ぶりのアメリカ、初めてのニュージャージーに来ている。まあまあ大きなチェーンのホテルに宿泊しているが、思っていた以上にまわりに何もない。スーパーやドラッグスト…

友橋純
10か月前

令和のトレンド①

ガムを、噛まない。 口に入れたらひたすらしゃぶって味を出す。 長く、静かに楽しむのだ。 国会でガム噛んで叱られた猪瀬直樹にも勧めたい。

友橋純
1年前
1

前田吾朗vs世界 第一話

その日シリコンバレーは興奮に湧き立っていた。年に一度の、新型スマホの発表イベント。 登壇したCEOは、スライドの画面をバックに、大袈裟な身振りを交えてプレゼンを繰り…

友橋純
3年前

格言

サイは投げられた。 ゴリラに。

友橋純
3年前

マンションの神様

ぼくはスズメ。 とあるマンションの1階の庭に住み着いている。 ここの何がいいかって、信じられないかもしれないけど、たまに空から突然、イモムシやナメクジが降ってくる…

友橋純
3年前

言語の迷宮

昔、何かの仕事の当番を持ち回りでやろうということになったとき、「じゃ、それはじゅんぐりむっくりでやるってことで」と言った人がいた。(奇しくもかなりずんぐりむっく…

友橋純
3年前
3

語学の迷宮

「ようこそ我が家へ」 「あ、お邪魔します。おや、これは立派なスリッパですな」 「は?」 「だ、だって、『シャレハウス』って書いてあるから、なんかダジャレ言わなくち…

友橋純
3年前

人生最初の失望

幼少のみぎり、父の勤める会社の社宅の二階に住んでいた。 誕生日ともなると、同じ社宅に住む子供達が集まって誕生会を開いてもらえる。 4歳だか5歳だかの誕生日に、僕は…

友橋純
3年前
3

間違い電話

もうずいぶん前だけど、一時期、携帯に毎日のように同じおばさんから間違い電話がかかってきていたことがあった。 もしもし、と出ると必ず忙しげに「きみちゃん?きみちゃ…

友橋純
3年前
1

未来の果て 最終話

時は流れた。 ひたすら西へと西へと旅を続けるペッパーとルンバは、やがて海を渡り、陽光眩しい街にたどり着いた。 そこはカリフォルニア、天使の街・ロスアンゼルス。 錆…

友橋純
3年前

未来の果て 第二話

西に向かって旅をするペッパーとルンバ。 ペッパーにとっては目にするものすべてが新鮮だった。 ときとしてその見た目に興味を惹かれ、危険な崖に近付いたり、街角にたむ…

友橋純
4年前

未来の果て 第一話

そのペッパーには心があった。 喜びや悲しみを感じることができたし、どこかへ行きたい、とか、ここに残りたい、と思う意志があった。 ただ、ペッパーには移動する術がな…

友橋純
4年前

旅人の木

昔、おなかが空きすぎて体に力が入らず、ふにゃふにゃと倒れ込んだまま亡くなった旅人がいたという。 村人たちがその亡骸を埋めたところに、たいそう辛い実をつける木が生…

友橋純
4年前
2

駅のホームにて

「どうしたんですか、ホームの端っこをそんな綱渡りみたいな歩き方してたら危ないですよ」 「いや、アナウンスで『白線の内側をお歩き下さい』っていうもんだから。狭くて…

友橋純
4年前
2

しましましまい①

山のふもとの小さな町に、おそろいのしましまの服を着た姉妹が住んでいました。
町の人たちはみんな、そのしましまの服が、ろう屋に閉じ込められた人が着る服であることに気づいていましたが、そのことを口にしたり姉妹をさげすむような人は、町にはひとりもいませんでした。
なぜなら、姉妹は町の人たちからたいそう愛されていたからです。
そもそも、姉妹がおまわりさんにつかまってろう屋に入ることになったのも、悪いことを

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マイ出囃子を持とう

落語家さんとか芸人さんとか、それぞれ自分の出囃子を持っている。
プロ野球選手のテーマ曲とかプロレスラーの入場曲なんてのもある。
大一番を前に、気持ちを奮い立たせてくれる曲。
我々もそういった曲をひとつ持っておくと、人生が俄然盛り上がりを見せるのではないかと思う。
もちろん、会議や試験の前に大音量で鳴らすわけにはいかないから、出来るならヘッドホンで、それも叶わなければ心の中で、出来るだけ大きな音で鳴

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ニュージャージーで、また泣いた 〜私的ブルース・スプリングスティーン論〜①

七年ぶりのアメリカ、初めてのニュージャージーに来ている。まあまあ大きなチェーンのホテルに宿泊しているが、思っていた以上にまわりに何もない。スーパーやドラッグストアの類もまったく見当たらず、ちょっとしたおやつを手に入れるのもホテルの中の小さな売店頼みだ。しかもこの売店はビールを置いていない。仕方ないので日中ニューヨークに出たときに6本パックを買って帰った。重かった。ちなみにニューヨークに出るのも最寄

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令和のトレンド①

ガムを、噛まない。
口に入れたらひたすらしゃぶって味を出す。
長く、静かに楽しむのだ。
国会でガム噛んで叱られた猪瀬直樹にも勧めたい。

前田吾朗vs世界 第一話

その日シリコンバレーは興奮に湧き立っていた。年に一度の、新型スマホの発表イベント。
登壇したCEOは、スライドの画面をバックに、大袈裟な身振りを交えてプレゼンを繰り広げた。
「このスマホには新しく、画期的な機能として、マエダゴロウに現在起きていることを全てリアルタイムで知ることが出来るアプリが入っている」
聴衆の間に、困惑まじりのざわめきが起きた。
「マエダゴロウ?」
「マエダ?ゴロウ?」
たまら

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格言

サイは投げられた。

ゴリラに。

マンションの神様

ぼくはスズメ。
とあるマンションの1階の庭に住み着いている。
ここの何がいいかって、信じられないかもしれないけど、たまに空から突然、イモムシやナメクジが降ってくることがあって、食べるのに困らないことなんだ。
きっほぼくの日頃のおこないがいいので、神様がごほうびをくれているんだと思う。
神様、ありがとう。

おれはサラリーマン。
とあるマンションの4階に住んでいる。
小さなベランダで野菜を育てるのが

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言語の迷宮

昔、何かの仕事の当番を持ち回りでやろうということになったとき、「じゃ、それはじゅんぐりむっくりでやるってことで」と言った人がいた。(奇しくもかなりずんぐりむっくりしている人物だった。)普通に「順繰り」でいいじゃんか、「むっくり」って何だよ、と思ったことを覚えている。「じゅんぐりむっくり」という言葉を聞いたのは後にも先にもその一回だけだ。

でも「しち面倒臭い」という言葉はわりと多くの人が口にする。

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語学の迷宮

「ようこそ我が家へ」
「あ、お邪魔します。おや、これは立派なスリッパですな」
「は?」
「だ、だって、『シャレハウス』って書いてあるから、なんかダジャレ言わなくちゃいけないんじゃないかと思って」
「これは『SHARE HOUSE』って書いてあるんだよ!」

人生最初の失望

幼少のみぎり、父の勤める会社の社宅の二階に住んでいた。

誕生日ともなると、同じ社宅に住む子供達が集まって誕生会を開いてもらえる。

4歳だか5歳だかの誕生日に、僕はおともだちからプラモをもらった。

一生懸命作って置いといたのを、あるとき、下の階に住む伊藤さんのおじちゃんが遊びに来て見つけた。

「おっ、プラモか」

おじちゃんはちょっと目をキラキラさせながら僕が作ったプラモを手に取った。

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間違い電話

もうずいぶん前だけど、一時期、携帯に毎日のように同じおばさんから間違い電話がかかってきていたことがあった。

もしもし、と出ると必ず忙しげに「きみちゃん?きみちゃん?」と呼びかけられる。

きみちゃんじゃねえよ、こっちは男の声で出てんだ、と思ったが、そうは言わず、間違いですよ、と最初の頃は優しく諭すおれであった。

しかしそれが毎日のように続くのである。次第に向こうのおばさんもちょっと友達感を出し

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未来の果て 最終話

時は流れた。
ひたすら西へと西へと旅を続けるペッパーとルンバは、やがて海を渡り、陽光眩しい街にたどり着いた。
そこはカリフォルニア、天使の街・ロスアンゼルス。
錆と傷だらけになったペッパーとルンバは、弱々しい足取りでよろよろと進み、やがてぱたりと動きを止めた。
ゴトッ、と音がして、ルンバの上から落ちたペッパーが、灼けたアスファルトの上に倒れた。
動かなくなった二人の体が、アスファルトに濃い影をつく

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未来の果て 第二話

西に向かって旅をするペッパーとルンバ。

ペッパーにとっては目にするものすべてが新鮮だった。

ときとしてその見た目に興味を惹かれ、危険な崖に近付いたり、街角にたむろする不良に近付いていこうとすることもあった。

そんなとき、決まってペッパーを乗せたルンバは静かに停止した。

「ドウシタノ?マエニススンデヨ、ルンバ」

「…」

ルンバはペッパーが諦めるまで頑として動こうとはしないのだった。

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未来の果て 第一話

そのペッパーには心があった。

喜びや悲しみを感じることができたし、どこかへ行きたい、とか、ここに残りたい、と思う意志があった。

ただ、ペッパーには移動する術がなかった。来る日も来る日もショッピングモールの携帯電話の販売店の片隅で埃をかぶって立っているだけの毎日たった。

そのルンバはどこへでも行くことが出来た。充電が切れるまで、どこまででも突き進むことが出来た。

しかしルンバには心がなかった

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旅人の木

昔、おなかが空きすぎて体に力が入らず、ふにゃふにゃと倒れ込んだまま亡くなった旅人がいたという。
村人たちがその亡骸を埋めたところに、たいそう辛い実をつける木が生えた。
そう、それがハラペーニョである。

駅のホームにて

「どうしたんですか、ホームの端っこをそんな綱渡りみたいな歩き方してたら危ないですよ」

「いや、アナウンスで『白線の内側をお歩き下さい』っていうもんだから。狭くて歩きにくいったらありゃしない」