前田吾朗vs世界 第一話

その日シリコンバレーは興奮に湧き立っていた。年に一度の、新型スマホの発表イベント。
登壇したCEOは、スライドの画面をバックに、大袈裟な身振りを交えてプレゼンを繰り広げた。
「このスマホには新しく、画期的な機能として、マエダゴロウに現在起きていることを全てリアルタイムで知ることが出来るアプリが入っている」
聴衆の間に、困惑まじりのざわめきが起きた。
「マエダゴロウ?」
「マエダ?ゴロウ?」
たまらずひとりの記者が手を挙げて質問する。
「マエダゴロウとは何者ですか?」
CEOは微笑をたたえながら答える。
「実は私もまったくどこの誰か知らないのです。皆さんと一緒に、これから時間をかけて、マエダゴロウがどこの誰で、どんな人物なのか、知っていきたいと思います」
そう言って彼は悪戯っぽくウインクをしてみせたのだった。

埼玉に住む34歳の平凡なサラリーマン、前田吾朗がある朝起きると、世界は一変していた。
ひっきりなしに鳴り続ける電話とメール。テレビをつけると連呼される自分の名前は、もちろんツイッターでも世界トレンドの一位となっていた。
「なんだこれ?」
まだ覚醒しきらない頭で前田吾朗ほ必死に状況を整理しようとし、結果、どうやら世界中の人々が今日から突然、自分の一挙手一投足を追いかけ始めたことを知った。

続く

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