ニュージャージーで、また泣いた 〜私的ブルース・スプリングスティーン論〜①

七年ぶりのアメリカ、初めてのニュージャージーに来ている。まあまあ大きなチェーンのホテルに宿泊しているが、思っていた以上にまわりに何もない。スーパーやドラッグストアの類もまったく見当たらず、ちょっとしたおやつを手に入れるのもホテルの中の小さな売店頼みだ。しかもこの売店はビールを置いていない。仕方ないので日中ニューヨークに出たときに6本パックを買って帰った。重かった。ちなみにニューヨークに出るのも最寄りの駅までウーバーで10分以上走って、そこからNJトランジットという電車に乗らないと辿り着かない。まさに陸の孤島。不便なことこのうえない。
なぜ私がそんな不便な環境に甘んじているかというと、このホテルがメットライフスタジアムという巨大なスタジアムに一番近いからだ。そしてそのスタジアムは私が愛してやまないニュージャージー出身のミュージシャン、ブルース・スプリングスティーンの、ホーム、というか聖地となっている場所だからだ。サザンで言えば茅ヶ崎、長渕で言えば鹿児島に相当する場所なのである。おいしょーい!
2023年の夏、スプリングスティーンは6年ぶりのワールドツアーに出ている。その第三節、8月の30日から9月の3日にかけて、彼はこの聖地に凱旋した。私はそのコンサートを観るためにここニュージャージーを訪れている。
私はしがない会社員の身の上である。今回休暇を取得するにあたり、同僚に夏休みを取ってアメリカにコンサート観に行きます、と伝えると、知り合って日が浅い人達は驚き、付き合いの長い人達は「あ、また行くんだね。楽しんできてね」と送り出してくれる。そう、これでスプリングスティーンを観に海を渡るのは実に六回目をかぞえるのである。言っておくとこれは少ない回数ではないかもしれないけどもっと多い人もいる。いったいなぜ我々ファンがそこまでするのかと言うと、スプリングスディーンがなかなか来日してくれないからだ。(もちろん本場の会場で本場のファン達と観たい、という想いもある)
スプリングスティーンが最後に来日したのは1997年。しかもそのツアーはアコギ一本で回るソロツアーだったから、盟友Eストリートバンドとの来日はそこからさらに1988年にまで遡る。実に35年もの歳月が流れている。
その間、Eストリートバンドの解散、再結成をはじめいろいろな出来事があった。ぽつぽつと伝わってくる海の向こうの情報も、やがてインターネットの発展にも助けられて、リアルタイムで、本場の情報が入ってくるようになった。そうなってくると観たい思いが膨らんでくるのが人情である。2003年、近畿日本ツーリストがフィラデルフィアのコンサートを観に行くツアーを企画したのに乗っかったのが最初の渡航であった。
〈つづく〉

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?