神輿担ぎはタイパが悪い?
梅雨入りした東京。
先日鳥越祭が行われた。
約4年ぶりに神輿が担がれ、街は大賑わい。
私もご縁あって、毎年参加している。
鳥越祭は、台東区にある鳥越神社で年1回行われる例大祭。
23ある神社の氏子町会にて本社神輿、町会神輿が担がれる。
土曜の晩に氏子町会は、宵宮渡御としてそれぞれが持つ自慢の町会神輿を担ぐ。暗くなると神輿に提灯がともされ、祭りの雰囲気がぐっと上がる。
日曜早朝6時半に鳥越神社から本社神輿が宮出しされ、氏子十八ヶ町会でリレーしながら担がれ、21時に鳥越神社に宮入りする。
これは渡御(とぎょ)と呼ばれ、鳥越神社の神様が神輿に遷り、氏子の手で氏子地域を巡幸していく神聖な儀式。人々は祭りを通じて活力を取り戻し、神様も人々の姿を見て喜び、渡御する地域の各家々にご利益を与えてくれると信じられている。
渡御では各町会に20分以上の持ち時間が与えられ、神輿を担ぎ次の町会につなぐ。
この本社神輿。立派で美しい装いである一方で、千貫神輿とも呼ばれるように1貫が3.75㎏だから3.7トンの重さがあるという。60人で担ぐと一人当たり60㎏以上、100人で担いでも1人あたり40㎏弱の重さが肩にのしかかる。
神輿は揺らしながら担ぐのが江戸の粋。揺れるたびにそれ以上の重さが肩を襲う。
担ぎ手に女性が入れば、その分大勢で担がないといけない。
普段力仕事とは無縁の私。担ぐには相当の勇気がいる。
神輿担ぎを別の視点から表現すると「4トン弱のものを30分近く落とさずに担ぎ続けるスポーツ」だ。
人間ってどれくらいの重さまで担げるんだろう。
火事場の馬鹿力では瞬間的に数百㎏のものを持てるという話を聞くが、体を痛めず一定時間担げる量として、労働基準法では成人男性は概ね体重の40%までと決められているそうだ。体重70kgの人は28kgまでが一人で持てる重さの目安となる。
かたや女性は女性労働基準規則によると、断続的な場合は30㎏以上、連続的な作業については20㎏以上持つことを禁止されている。
女性1人が20㎏までだとしたらこの神輿、女性だけで担ごうと思ったら190人以上必要となる。
こんなに重い神輿、なぜ昔から男衆は喜んで担いできたのか。
それは男性が力自慢できる場として認められてきたからだろう。
周囲を見渡すと、がたいの良い男性ばかり。慣れない担ぎ手が苦悶の表情を浮かべているのを横に、皆余裕の表情で楽しそうに担いでいる。担ぎ方も実に男前だ。掛け声の威勢も良い。
気になったのが、担ぎ手に中年男性が多く若い男性が少なかったこと。
最近は担ぎ手の高齢化が問題になっていると聞く。町会も担ぎ手集めに苦労し、神輿同好会からプロの担ぎ手に助けに来てもらっているのが現状だ。
プロの担ぎ手は屈強な男性が多く、彫り物があり血の気の多い人もちらほら。地域住民の参加が減り、由緒正しいお祭りが「怖いイベント」と化していくのではと懸念する。
今の若い世代は、デジタル化が進み生活や仕事で「筋力」があまり必要とされない時代を過ごしている。また性別で区別することを避ける風潮もある。
神輿担ぎは色々なルールがあり長時間拘束され、タイパも悪い。
最近の若い男性は、神輿を恰好良く担ぐことにあまり魅力を感じないのかな。
「男性の筋力」を必要とする神輿担ぎは、今後廃れていくんだろうか。
神輿担ぎまで、人間から機械の仕事になっていくんだろうか。
実際お祭りに参加してみると、地域の人と交流し楽しいひと時を過ごせる貴重な機会と感じる。老若男女問わずみな、生き生きとした表情をしている。
高齢の患者さんに神輿を担いだと肩のあざを見せると、顔をくしゃくしゃにして「先生、よくやった」と喜んでくれる。
地域を作り、地域の人を元気にするお祭り。これからも若い人へ引き継がれていくことを期待したい。
神輿の上に立つ鳳凰は、中国の神話から生まれた実在しない霊鳥。
「平和と幸せの象徴」とも「徳と智慧の象徴」とも聞く。
鳥の美しい姿に、昔の人は尊さや霊力を重ね合わせたのだろう。時代を超えてもその姿は美しい。